ジューシー


「う〜…うう…」

擦れ違う死神達の目が痛い。
救いは今が深夜の時間帯であると言う事。
隊舎付近のみならず、瀞霊廷全体が静まっている。
お陰で隊舎内に入るまでは、誰にも会う事がなかった。
惜しむらくは六番隊が遠征直後であった事。
事後処理に追われるのは白哉のみでは無い様で、六番隊舎内ではちらりほらりと下位の死神達とすれ違う。

瀞霊廷において、一護はある意味有名人だ。
一騒動を起こしてくれた、あの旅禍達の大将。
人間の身でありながら死神としての力を持ち、その力は並ならず各隊隊長と張れる程。
それだけでも注目を集めようものなのに。
眉目秀麗、冷鉄面皮な六番隊隊長・朽木白哉。
彼の人が、事もあろうに一護を抱いて歩いているのだから、誰しも恐い物見たさで目が離せない。
結果、一護は今注目の的になっている。

こんな顔、見られたくないのに。
なのに甘酸っぱい羞恥心を、湧き上がらせてしまうなんて。

「あんた…やっぱ…鬼だ…っ…」

他には聞こえない様な小さな声で、一護は呟く。
大きな声は出せない。
出したら、終わりだ。

「そんな事はないだろう?」
「ひっ…やあ…っ…っ」

白哉は一護を抱え直した。
この抱き方は、所謂『赤ちゃんだっこ』。
一護が白哉の首に腕を回し、コアラの様にしがみつく感じで、笑いを誘うと言うかほほえましいと言うか。
この抱き方にしたのは理由がある。
今の様にひょいと一護の身体を浮かせて抱え直せば、自然な形で一護の身体を揺すれるのだ。
それによって。

「ふっ…っ…ん…」

一護の中の『いちご』が壁を擦り、緩やかな痺れを一護に与える事が出来る。
支える振りして尻も揉めるので、一石二鳥。
始めは微かな痺れだったが、繰り返せば熱も篭り上がっていって。
今では一護は息も絶え絶えだ。

「この私が抱いてやっているのだ。礼の一つもあって良いと思うが?」
「…ざけっ…ん、な…鬼…」

こんな事を口にしては、白哉の思う壷なのに。
それが判っていても素直に言いなりになるなんて、一護には出来ない。

「ほう…ならば期待に答えねばならないな」

そう言った白哉は、非常に楽しげだった。



隊舎内の外側を歩いていたらしい。
白哉はくるりと方角を変えて、奥へと進んだ。
足取り軽く、足早に。
即座に後悔したけれど、逃れる言葉も見つからない。
言葉の代わりに首元に擦りついてみたけれど、白哉を楽しませただけで終わった。
よしよし、等と言いながら、白哉は一護の背中を軽く叩く。
擦れ違った隊員が、クスリと笑ったのが聞こえて。赤ん坊の様に扱われ方のを見られて、一護の羞恥心は煽られた。
白哉の耳に、熱い息が掛かる。

幾つかの角を曲がった後、一際立派な扉が見えた。
この扉を一護は知っている。執務室だ。
一護はホッと息を吐く。
これで人目に晒される事は無くなると。
だが、扉が開いた先には、恋次が居た。

「…うそっ…」
「嘘って何だよ。お前こそ何やってんだ?」

呆れたような恋次の声に、一護はカアアアァ――――っと赤面した。
見知らぬ死神達の注目を浴びる分にはまだ耐えられた。
しかし恋次は一応気心の知れた相手で、一度ならず刃を交えた相手である。
そんな相手の前で、こんな格好を晒したくない。

「…やだっ…」

一護は白哉の首にきゅっとしがみつき、小さく呟いた。

「一護?どうかしたんですか?隊長」
「気にするな」

扉から見て正面に質の良さそうな机とソファーのセット。
その左端にも、もう一つの机。
位置的に見て、こちらはおそらく恋次の机だろう。

白哉は一護を抱いたまま歩き、左端の机の方に一護を俯せにして座らせた。
その椅子は柔らかかったが、尻肉を綺麗に寄せてくれるので、中のモノの存在を大きくさせる。
座るだけでも、唸ってしまいそう。

「人間界から使いに来てくれたのだが、夜半を回ってしまったので眠いらしい」
「へえー、なんだかんだ言ってもまだまだガキっすねー」

妙に兄貴ぶった恋次の声に、一護は握り拳を作った。

「それよりお前の分の処理は終わったのか?」
「あ、はい。それが…」

「……ぅ…ぃっ……!」

突然、一護の中の『いちご』が振動を始めた。
危うく声が漏れそうになる。
さっきまでスイッチは入っていなかった。
袴の中でぶら下がってるリモコンだけではなかったのか。
募る羞恥心と、騒ぐ心。
一護の呼吸が荒くなる。

「あっ…はっ…っ…ぅ…っ」

ダメだダメだダメだ。
そう思う声は、どんどん小さくなる。
恋次が居るのに。
一護はうつ伏せたまま、ちらりと白哉を見やった。
見計らったように目が合う。
恋次と仕事の話をしたまま、白哉はそっと前身の合わせに手を差し込んだ。
そこにリモコンを持っているのか。

「…っ…ぅ…っは…ぁっ…」

『いちご』の震えが大きくなった。
中からの音が大きくなった様に感じられて、音を抑える為に尻を窄める。
賢明なつもりなのだが、それでは自滅を早めてしまう。
窄められて、『いちご』はより一護の中へと入り込む。
壁への振動は強くなって、痺れは高まりへ向かう。
ブルリと大きく身が震えた。

「隊長、見ました?今、一護の奴ビクって身震いしてましたよ」

反応したのを見られた。

一護の頭が羞恥で熱くなり、こめかみが痛み出す。
幸い恋次は、眠ってしまった一護が寝ながら筋肉を震わせたと思った様だが。
事実は違う事を、一護は良く知っている。
恥ずかしくて涙が出そうになった。
肩が震える。

「恋次、今日はもう良い。急ぎの書面は終わったのだろう」
「そっすね。一護がこれじゃあ、続きも出来ないし」

クスクス笑いながら、恋次は一護の髪をくしゃくしゃと撫でる。
兄が年の離れた弟にするような、優しく。
恋次の優しさは意図しない方向で、一護を追い詰めた。

「じゃあ失礼します。隊長は?」
「外に行こうかと思ったが、今夜は私の部屋へ連れて帰る」
「お疲れ様っす」

この会話の間、恋次はずっと指先で一護の髪を混ぜ遊んでいた。
去りしな、爪が一護の耳に掠り、また一護の身体が揺れる。

「あ、またビクった」

ウケケケと笑いながら、恋次は静かに扉を閉めた。




しばしの静寂。
恋次が部屋を出てから五分後。
部屋に響いたのは、一護の鳴咽と白哉の笑い声。



2005.1.31