Neugier tötete die Katze  




            







「えっと・・・あの・・そのですね」


執行係達が神に祈っているのとほぼ同時刻、完璧に誤魔化し方を間違えたハボックが、ロイを相手に百面相をしている真っ最中だった。
しどろもどろになりながら目を泳がせるが、どう考えても不審な目を向けてくるロイの追求から逃れる術は無さそうである。
失敗した。
ハボックは、考えなしに適当な事を口にした自分を猛烈に反省する。
何だって俺はこんなアホな真似をしちまったんだよ。
後悔先に立たずとは、正にこの事である。
仕方がない。
エルリック少将には絶対に内緒にすることを条件に正直に話すしかないだろう。


「実はですね、軍一番の美人を決めるっていう投票だったんです」

「軍一番の美人っ?それなのに何でエルリック少将が1位なんだっ?」

「ちょ、声がデカいっすよ少佐」

「あ、すまん」

「エルリック少将に聞かれたら本気でマズイんすから」


ハボックが渋々告げた内容に対するロイの反応は正直予想通りだったが、あまりの大声に焦る。
万が一にも少将に聞かれたら目も当てられない。
だったら、いつエドワードが戻ってくるかもしれない所でこんな話をしなければいいのに、とは誰もが思うところである。
怖い物知らずといえば聞こえは良いが、要は無謀なだけである。
流石はエルリック少将の部下を長年やっているだけのことはある、というべきだろうか。


「それはそうだろうが・・・。それにしても、何でエルリック少将が美人ランキングで1位になったんだ?」


内容が内容だけに、流石にロイも危機感を感じたのだろう。心なしか先程よりも声が小さくなっている。


「なんでって。ホークアイ中尉には申し訳ないすけど、美人度でいったら少将の右に出る者はいないからじゃないすか。でしょ?」

「でしょって・・・。それはそうかもしれないが、少将は男だぞ?」

「男だろうが何だろうが美人は美人っすよ!これが美女に投票っていうんだったら俺だって普通にホークアイ中尉とかロス少尉に投票しますけど、今回は美人を決める投票だったんですよ?だったら別に女性だけじゃなくて男が対象になったっておかしくないでしょうが」

「俺には詭弁にしか聞こえないんだが・・・・」

「何でですかっ!当然のことでしょうが!」

「確かにエルリック少将は美しい人だが、この結果を見て喜ぶとは到底思えないのだが・・・」

「そんなの当り前でしょう。だから内緒にするんじゃないすか」


堂々と屁理屈を捏ねてエドワードを美人呼ばわりする割には、やはりばれた時のことを考えると恐ろしいのだろう。ハボックの主張はどこまでも内輪のみに限られているようである。
立派なんだか情けないんだかよく分からない男である。
自然、ロイの目も不信感で一杯になる。


「ばれないと思っているのか?」

「ばれないように細心の注意を払うんですよ」

「司令室内で騒いでいる時点で細心の注意を払っているとは思えないんだが」

「少将が居る時にこんな騒ぐわけ無いじゃないすか。だから少佐が黙っていてくれれば大丈夫ですよ」

「そういう問題では無いような気がするのだが・・・。それに、あの少将に隠し通せるとは到底思えない気がするのは俺だけか?大体、何で少将が投票対象になったんだ?誰がこんな恐ろしいことを実行したんだ?」

「投票自体は毎年やってますよ。毎回投票内容は変わりますけどね。執行係も部署別に持ち回りで毎回変わります。因みに、俺は3年前にこいつらと担当しました。なっ」


急に話を振られたファルマン、ブレダ、フュリーが、何故か遠い目をして黄昏れた。
思い出したくない嫌な思い出でもあるのだろうか?


「一応聞くが、その時の題目は何だったんだ?」


質問とは微妙に角度の違う返答が返ってきたことに少しだけ首を傾げながらも、彼らが企画したモノがなんだったのかが気になったロイは、思わず聞き返してしまったのだが、直ぐに後悔した。
人間過ぎた好奇心は身を滅ぼすのである。


「あーそれはですね。”女装が一番似合う男は誰だ!”・・・です」

「なっ!・・・・もしかして、その時の1位もエルリック少将・・・か?」

「よくお分りで」


よくそんな恐ろしいことを思いつくな・・・。
聞かなきゃ良かったと、ロイはハボック達の無謀な試みに顔を引き攣らせるが、またもや危険な好奇心が頭を擡げてしまい、気付けば次の質問が口をついていた。
ロイも、やはりエルリック少将の部下であった。


「・・・・・・少将の逆鱗に触れなかったのか?」

「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」


核心を突くロイの疑問に、言い出しっぺのハボックのみならず他の3人までもが沈黙した。
フュリーに至っては、よく見ると肩を振るわせてうっすらと涙を浮かべて入るではないか。
一体何があったというのか。


「どうしたんだ?やはりこっぴどく叱られたのか?・・・まあ当然だとは思うが」

「・・・僕は・・止めた方が良いって言ったんです。それなのにハボック少尉がどうしてもやりたいと言ってきかなくて・・・。結局、一所懸命隠してたのに何故か少将にばれてしまって・・・・。ぼ、僕は・・・女の子の格好をさせられて・・・。写真を撮られました・・・」


俯きがちのフュリーの顔を覗き込むようにして尋ねたロイに、フュリーは辿々しくもハッキリとした口調で過去の辛い経験を語った。
無惨である。


「お前はパンツスタイルだったからまだいいじゃないか!俺なんてフリフリのブラウスにミニスカート、化粧までされた上にヒールまで履かされて中央司令部内を歩かされたんだぞ!あれは厳しかったっ・・・・」

「それは!だってハボック少尉が首謀者だったからじゃないですかっ!僕は被害者ですよっ!嫌だって言ったのに・・・」

「俺だって反対したのに、ロングスカート履かされておかっぱのカツラ被されて司令室の前に立たされたんです・・・。勿論写真も撮られました」


憮然とした口調のブレダが、やはり屈辱の過去を語る。
ブレダの女装姿は想像するだけで笑えてくるのだが、悲しげな目をするブレダを前にしてはそれも出来ない。


「私だってキュロットスカート履かされておさげのカツラ被らされました・・・・。写真も・・・・」


皆に負けじと、ファルマンが自分の不幸を陰鬱な声音でボソボソと語る。
・・・・おさげのカツラ。
切ない。


4人纏めて何とも気の毒であるが、ハボックだけは自業自得のようだ。


それにしてもエルリック少将の仕返しは容赦がない。
ロイは、もしこれが我が身に降り掛かったらと考えると空恐ろしくなった。
ブレダ達は巻込まれただけだと分かっているだろうにハボックを止められず、企画に少しでも係わった時点で、恐らくエルリック少将の中でアウトだったのだろう。返す返すも気の毒な話である。


「何だよ、俺だけが悪いって言うのか?最終的にはお前達だって賛成したじゃないか」

「それは、俺達が何を言ってもお前が聞く耳持たなくて諦めただけだろうが」

「そんな事ないだろう。お前達だって結構乗り気だったじゃないか」

「単なる気のせいだ」


1人責められているハボックが懸命に反論するが、頭脳派で鳴らすブレダの冷静な指摘にやり込められる。
客観的に見て、どう考えてもハボックの不利は明らかである。


「ちぇ、薄情な奴らだな、全く。折角俺が楽しい企画を考えてやったっていうのによ」

「お前の考える楽しいことは、他の皆にとっては碌でもないことだと言うことをいい加減自覚して欲しいんだが」

「酷い言い草だな、おい。そこまで言うか普通?」

「そこまで言わないと気が付かないだろう、お前は。今まで何度同じ事して何度少将の機嫌を損ねたと思っているんだ?」

「それは・・・だな。偶々、少将の虫の居所が悪い時に、運悪く偶々発覚しただけの話だ」

「・・・・・話にならない。言っておくが、今回の件も俺達は無関係だからな。そこだけはしっかりと理解しておけよ」

「え、何いってんだよ。お前達だって少将に投票したんだろう?だったら俺と同じだろうが」

「入れるわけ無いだろうが。アホかお前は」


つくづく呆れたという顔をして、ブレダがハボックの主張を一蹴する。


「えー!お前何で少将に投票しないんだよ!馬鹿じゃないか?」

「馬鹿はお前だ。いい加減学習しろ」


まさかのブレダ発言にハボックは本気で驚くが、端から見ていればブレダに理があるのは一目瞭然である。


「馬鹿って言うな!何だよお前。裏切りやがって」

「裏切るって何をだ?俺はお前と約束した覚えはまったくないぞ」

「そんなの暗黙の了解だろうが。付き合いの悪いヤツだなオマエ」

「何を言われても結構。少将にどやされるよりマシだ」

「あーそうかよ。何だよ、面白くないな。まあ良いさ。お前達は勿論少将に入れたよな?」


心底詰まらないという顔をしながらブレダに見切りを付け、ハボックはファルマンとフュリーに話を振るが、2人共ハボックの視線から逃れるように顔を背ける。
まさか・・・。


「おい、お前達。何で顔を背けるんだよ。少将に入れたんだろ?」

「私は入れてないです」

「ぼ・・僕も入れてません」

「何だって?今何ってった?俺の聞き間違えか?そうだよな。エルリック少将に投票したんだろ?なあ」

「「・・・・・・入れてません」」

「なっ!」


希望を託して尋ねた2人から、揃って否定の言葉が飛び出したことにハボックは本気で驚愕する。
何でだよ!!!
美人といったらエルリック少将しかいないだろうが!!!
それなのに何だって少将に投票しないなんて選択肢が有るんだよ?
お前達の目は腐ってんのか?
どう考えてもおかしいだろうがっ!


ビックリし過ぎたハボックは口をパクパクさせるが、何故か音が出ず声にならない。
ハボックにとっては余りにも予想外の返答だったのだろう。今にも泡を吹きそうな状態に、ロイ達は思わず笑いそうになる。
だが、その状態が1分も続くと、流石にロイをはじめ皆が少しだけ心配そうな顔になる。
大丈夫か、こいつ?死ぬんじゃないだろうな?まあでも、少将に死ぬ目に遭わされるよりはこのまま頓死した方が楽かもしれないか?
等々、ハボックにとっては有り難くもない心配をするロイ達は、やはりどこまでいってもエルリック少将の部下である。厳しい・・・。


「まあ、当然だろうな」

「当然って何ですか!普通は入れるでしょうがっ」

「いや、普通は入れないだろう。少尉の方がおかしいと俺は思う」

「そんな・・・だって1位ですよ?結果が俺の正しさを証明してるじゃないすか」

「それはエルリック少将の実態をよく知らない人間が多いからだろう。面識が深ければ深い人間ほど、少将がどんなに美しくても絶対に投票しないだろうさ」


当り前だろうという顔で呟くロイの言葉に、漸く正気を取り戻したハボックが食い付くが、その主張はあっさりと退けられる。確かに男が美人投票で1位になったからといって嬉しくも何ともないだろう。
しかも、その対象が彼のエドワード・エルリック少将なのである。
只でさえ女顔だと言われるのを嫌い、少しでも女扱いされたり、女性に間違われただけでも激怒するのだ。その迫力と恐怖は筆舌に尽くしがたいモノがある。
故に、普通の神経を持っていたら、とても恐ろしくてこんな無謀な真似は出来ない。
ハボックだけがおかしいのである。
エドワードと長い時間過ごしている内に、危険に対する感覚が狂ってしまったのだろうか?それはそれで何とも不幸な話ではある。
結局、全ての要因はエドワードにあるということなのだろうか?


「何だよ・・。結局この中で少将に投票したのは俺だけって事か?折角俺がお膳立てしてやったていうのに・・・・。仲間甲斐のない奴らだぜ全く」


衝撃の事実に脱力して思わず漏らしてしまったのだろうが、今ハボックは何と言った?
もしかしなくても、”俺がお膳立てしてやった”と、言わなかっただろうか?
ロイ達はハボックの台詞に目を丸くし、思わずマジマジとハボックを見つめてしまう。


「おい、ジャン。まさかとは思うが、もしかしてお前がエルリック少将の写真を投票者一覧に持ち込んだのか?」


恐る恐るといった様子でハボックに尋ねるブレダの顔は蒼白である。それに釣られているわけでは無いだろうが、ロイの他、ファルマンとフュリーも同様の状態である。
それはそうだろう。
投票するだけでも相当勇気を要するというのに、呆れたことに執行係の目を盗んで男であるエドワードの写真を紛れ込ませたのだ。
最早、勇気というよりは暴挙である。きっと、ハボックは命が惜しくないのだろう。


「もしかしなくても俺だよ。アルフォンスさんに連絡して事情を話したら、めちゃくちゃ面白そうに話に乗ってくれてさ、とっておきの秘蔵写真を送ってくれたんだ。本当にいい人だよな、あの人は」


拙いと思ったのも一瞬、仲間達の裏切り(ハボックだけがそう思っている)に合い、どこか開き直ってしまったハボックが、正当性は自分にあるとでも言いたげに、何でもないことのように衝撃の事実を明らかにする。
少将の弟まで巻込んでいたのか・・・・・。と、ロイ達は溜息を付く。
2人して一体どういう神経をしているのか理解に苦しむ。
それでも、力関係でいったら少将よりも弟のアルフォンスさんの方が強いから、そこは被害が無さそうだよな、とも思う。
問題はハボックである。もしこの事実がエルリック少将にばれてしまったら只では済まないだろう。


「面白そうな話をしてるじゃないか」


不機嫌さを隠そうともしないハボックと、驚きすぎて口が開きっぱなしになってしまったロイ達の耳に、軽やかなのにどこか危険な響きを秘めた言葉が聞こえたのは、その時だった。














 




なんと、終わりませんでした;;;
いや、もうここで終わりにしても良いんですが、
流石にエドワードが全く出てこないまま終わるのもどうかと思うので、
後もう少し続けたいと思います。
とはいえ後の展開は目に見えてますね、はい;;;
3話目は凄く短くなると思います。
余り期待せずにお待ち下さい(苦笑)

誰も期待してないって?
はい、そうですね;;;

ではでは、3月中旬までにはUPしたいと思ってますので、
今暫くお待ち下さいませ。


2012/02/26