Neugier tötete die Katze 1 人生には娯楽が必要不可欠である。 それが例え軍人であっても、人間である限り当然の事だろう。 そして、人に迷惑を掛けずに1人。もしくは複数で危険なく楽しむのが本来の娯楽のあり方だろう。 そう考えると、ここ、アメストリス中央司令部で密かに進行している事態は、果たして娯楽だと定義する事が出来るだろうか? 特に誰かに迷惑を掛けているわけではない。 だが、参加している者達に少なからず身の危険が伴っている事が、疑問を呈する、その理由である。 自らの身の危険を顧みず、それでも参加したいという者が後を絶たないこの娯楽は、年に1回の頻度で行われている。 参加するのは尉官と下士官を中心とした軍人達であり、佐官以上の軍人が参加するのは極めて珍しい。 つまり、指令系統の下部に在籍している軍人達のほぼ全てが参加するという一大娯楽なのである。 その娯楽とは何なのか。 それは――。 「ねえ、誰にした?」 「あたしはね、○○にしたわよ。あなたは?」 「わたしはね・・・・」 「お前誰にしたんだ?」 「あん。俺はな・・・・」 「あっ、お前も○○にしたんだ!俺も俺も!」 「やっぱりこの○○しかいないわよねー!」 「そうかなぁ。あたしは○○の方が良いけどなー」 「えー!そうなの?」 「誰が一番だと思う?」 「それはやっぱり、あの人じゃないか?」 「そうだよなー」 等々。 ある一定の期間中、主に下士官や尉官を中心に、休憩時間はおろか勤務時間中にもこのような会話が上司の目を盗んで密かに交わされ、軍人達はそれぞれの意見に一喜一憂していた。 その盛り上がりたるや半端ではない。 何故かといえば、少なからずお金が賭けられているからである。 所謂、博打というものである。 軍人が賭け事などして良いのかといえば良くはないのだろうが、年に一度の事であり、又、もの凄い大金が賭けられているわけでも無いので黙認されているのだった。 その他、佐官以上の指令系統にある軍人達がこの事態を黙認するのには幾つかの理由があるのだが、 その一つは、かつて自分達もこの娯楽に参加したことがあるからである。 中央司令部に所属する殆どの軍人が通ってきた道なのである。 それ故に、非公式ながらも軍の伝統として脈々と受け継がれているのだろう。 そして、ある意味密かに進行しているこの賭け事の実態が何なのかといえば。 投票である。 そう。軍人が軍人を投票するイベントなのである。 その投票の内容は? それは――。 「おっす。早いなフュリー曹長。どうしたんだ?難しい顔して」 「あ、おはようございます。ハボック少尉。いえ、あの・・・」 「ああ。例のアレか」 「はい。そうです」 「何だ。お前も参加してるのか」 「いえ、あの・・・。本当は断ろうとしたんですけど、いつの間にか参加することになっていて。投票用紙を渡されちゃったんです」 「なんだそりゃ。無理矢理かよ」 「無理矢理という程でもないんですけど・・・・」 「ハッキリしないなあ。フュリー曹長。本当は嫌じゃないんだろう」 「はぁ・・まあ・・・・はい」 「そうだよな。特に今回のネタがネタだもんな。ちょっと面白いよな」 「面白いというか恐ろしいというか・・・」 「ははは。だな。かく言う俺も実は参加だ」 「中尉もですか。誰に投票するんですか?」 「そりゃあ、お前。決まってるじゃないか。だろ?」 「決まってるんですか・・・?誰ですか?教えて下さい」 「実はな・・・・」 得意げなハボックが語った内容に、フュリーは絶句する。 何ということを・・・・・。 顔色をなくしたフュリーが、恐る恐るハボックに問いかけるが、返ってきた答えは何とも呑気なもので、更に驚く。 怖すぎる・・・・。 「えっ・・・!それって拙くないですか?大丈夫なんですか?」 「拙いし大丈夫じゃ無いだろうけど、自分の意見に嘘は付きたくないからな。仕方がない。お前も俺を見習ってみたらどうだ?」 「嘘は付きたくないって・・・。そういう問題では無いような気が・・・・。僕はちょっと・・・検討します」 「ん?まあ人それぞれだからな。良いんじゃないか。ま、まだ時間はある。頑張って検討しろ」 「はい。そうします」 強要されなかったことに内心でホッとするフュリーだった。 一体何だというのだろう? 「ところで。何で誰もいないんだ?」 「あ、今日はマスタング少佐とロス少尉が非番で、アームストロング少佐はブレダ中尉と一緒に東方司令部に出張に行きました。ファルマン准尉は少将の指示で中央図書館に調べ物に行ってます。そして、エルリック少将とホークアイ中尉は、あの・・・その」 「あー分かった。また少将が逃げ出したんだな。こんな朝っぱらから」 「はい・・・。昨日やり残した書類を見た途端に脱走しました」 「で、それをホークアイ中尉が追いかけているって訳だ」 「僕は留守番を言い渡されました」 「そりゃご苦労さん。でも、投票用紙を前に悩むには返って好都合だったんじゃないか?」 「否定はしません」 先の会話からも分かるように、当然の如くエドワード・エルリック少将旗下の軍人達の間でも投票は行われていた。 この2人だけでなく、恐らく後数人は参加していることは確実だろう。 一体何の名目で投票しているのだろうか。 ハボックが言っていた面白いネタとは何なのだろう。 フュリーは何にそんなに怯えているのだろう? 様々な疑問があるが、結果が出るのはもうすぐである。 「やっぱり思った通りだったなー!」 「本当だな」 「恐ろしい結果が出てしまいましたね・・・」 「これは、少将には絶対に見られないようにしないと拙いですね」 数日後のエルリック少将率いる司令部での一幕である。 この日、少将であるエドワードが大総統に呼び出されて不在なのを良いことに部下達は非常に盛り上がっていた。 ハボック、ブレダ、フュリー、ファルマン、この4名が参加していた投票の結果が出たのである。 因みに、先の会話もこの順番で交わされていたりする。 「何が拙いんだ?」 「マ、マスタング少佐。いえ、あの・・・その」 突然話しかけられたファルマンがしどろもどろになりながら手にしていた紙を背中に隠す。 しかし、そんな程度の誤魔化しが通用する筈もなく、持っていた紙を取り上げられたのである。 これだけ騒いでいるのだから隠し通せる訳がない。少将不在とはいえ、その他の上官達は全員顔を揃えていたのだから。 その中で、何故ロイだけが彼らの騒ぎに反応したのかといえば、理由は簡単。 軍人になって直ぐに北方司令部に配属されたので、賭け投票の存在を知らなかったのである。 勿論、アームストロング少佐はじめ、ホークアイ中尉とロス少尉は知っていた。知ってはいるが、ある理由から、彼らは故意にこの件から目を背けているのである。 その理由とは? 「何だこれ?エルリック少将が1位になってるな。ん?ホークアイ中尉も3位に入ってるじゃないか」 「あの、これはですね。その・・・中央司令部で年に1回開催されてる投票の結果なんすよ」 ビビリ捲っているファルマン達の代わりにハボックが答えたのだが、先程までとは違い、その歯切れは何とも悪い。 「投票?そんなことしてるのか。全然知らなかった」 不思議そうな顔をして、ロイが首を傾げる。 「知らなくても当然っすよ。軍の中でもセントラルでしかやってないですし、主に尉官以下の者達だけが参加してるイベントですからね」 「そうなのか。で、一体これは何の順位なんだ?エルリック少将をはじめとして殆どが中央司令部の人間達みたいだが、中には地方司令部の人間も交じってるな。お、アームストロング少将も9位に入っているんだな。益々不思議なラインナップだ」 「あー・・・その。今回は・・・理想の上官は誰だ、っていう内容の投票だったんす・・・。はい」 「理想の上官?その1位にエルリック少将が選ばれたのか?9位がアームストロング少将で?嘘だろう?本当なのか?」 信じがたいハボックの言葉に、目を見開いて聞き返すロイの反応は尤もであったが、仮にも現在の直属の上官と、かつての上官に対して何とも酷いコメントではある。 だが、エルリック少将とアームストロング少将を知っている人物だったら、ロイの疑惑も素直に理解できるだろう。 なにせ、確かに実戦に於いてのエルリック少将の統率力や実行力は素晴らしい。 だがしかし、平時に於いてエドワードの姿を見ていたらとても理想の上官だなどとは思いも由らないだろうからだ。 それなのに断トツで1位を取っている所を見ると、武官だけでなく文官達の票も多く入っていることは間違いない。考えれば考えるほど、理想の上官という題目で彼の少将が1位を取れるとは、ロイには到底思えないのだった。 しかも、恐ろしさでいったら軍随一ではないかという苛烈な性格で知られるアームストロング少将が9位に入っているのである。絶対に違う。 正しい。 写真が貼付されていないタイプのランキング結果用紙だったことと、知らない人物がランクインしていたこともあってロイは気が付かなかったのだが、実はランキングされている人物達は、何と、エドワード以外全員が女性だったのである。 そう。 このランキングは、 ”軍一番の美人は誰だ?” と、いう題目の投票だったのである。 普段から命を賭けた仕事をしている軍人だけに、実に恐ろしいことをするものである。 とはいえ、通常の美人ランキングだったなら特に問題は無かっただろう。 ランキングから漏れた容姿自慢の女性陣も、ランクインしている人物達を見れば、その容姿端麗さに納得し、自分が選ばれなかったことに多少の腹立たしさはあっても、文句は言わないだろうからだ。 だが、1位が男性であるエドワード・エルリック少将なのである。 これでは問題ありまくりである。 いや、それすらも、最悪本人以外は納得するかもしれない。 何故なら、エドワード・エルリック少将の玲瓏とした突き抜けた美貌は、女性の目から見ても他の追随を許さないモノであることは間違いないからだ。 但し、”黙っていれば”、という条件が付くのだが・・・。 エドワード・エルリック少将といえば、キラキラと輝く黄金の髪に、知性と生命の輝きを迸らせる黄金の瞳、肌理の細かい透けるような肌と誰もが羨む完璧なスタイルを持ち、魅力的で完璧とも言える美を備えている人物なのだが、その言動は、それはそれは酷いものだった。 まあ、それすらも魅力的といえば魅力的なのだが、そのギャップを好む者は既にエルリックマニアと呼んで差し支えないだろう。 そして、中央司令部にはその、エルリックマニアが数多く存在しているのである。 だからこそのランキング結果であろう。 実をいえば、当初、投票すべき対象にエドワード・エルリック少将の名は無かったのだ。 それなのに、いつの間にか少将の写真が陳列されており、あれよあれよという間に数多くの投票が為されてしまったのである。 どうやって撮ったのか、正面を向いて幸せそうに蕩けるような笑顔を浮かべた私服姿のエドワードの写真は、投票のために用意された一室に所狭しと貼られた美女の写真の中で霞むどころか一際輝いており、その美しさを遺憾なく振りまいていた。 投票に来た者の中には、エドワード・エルリック少将という存在を直接知らないのに、その煌めく写真の秀麗さに心まで蕩けきった末に、夢心地のまま投票した者も少なくなかったようである。 今回の投票を取り仕切っていた執行係の者達はこの事態に少なからず青ざめ、何度かエドワードの写真を剥がしたのだが、入れ替わり立ち替わりやってくる投票者の多さに紛れていつの間にか又貼られており、ついには撤去することを諦めてしまったのである。 だが、彼らは今、自分達のその根性の無さを激しく後悔していた。 半ば予想された結果だけに衝撃は少ないのだが、まさか本当に1位になってしまうとは・・・・。 お金を掛けているだけに公正さを蔑ろに出来ず、真正直に投票結果を出してしまったのだが、今後の自分達の未来を想像すると寿命が縮む思いである。 もし、エルリック少将がこの投票結果を知ってしまったらどうなるのだろう? 全てが露呈した時、対策を怠った自分達の身の安全は保たれるのだろうか? 考えれば考える程、あの写真を持ち込んだ不審人物Xが憎くなる。 もし不審人物Xがあんな事をしなければ、自分好みの美人に投票するという、単純且つ魅力的なランキングになったというのに・・・・・。 激しく不安である。 どうか、どうか、エルリック少将がこの結果を目にすることなく、無事に幕を引けますように。 最早、美人ランキングなんて企画した自分達の浅慮が、この事態を招いたのだとまで思い込んでいる彼らの、必死の願いは届くのだろうか? |
散々お待たせした挙句に続いてしまって本当に申し訳ないです(>_<)
思った以上に長くなってしまって、旅行前に全て書くのは無理だと判断しました;;;
帰ってきてから続きをUPしますので、もう少しお待ち下さい。
それにしても、エドワードが全く出てこないですね;;;
重ね重ね申し訳ないです・・・・。
今回のメインはハボックですv
なんだかんだと私はハボックが大好きで、
気が付くとついつい彼を書いてしまいます☆
ではでは、申し訳ないですが、後編は2月末頃までお待ち下さい。
2012/02/16