Neugier tötete die Katze 3 「エ、エルリック少将!!!」 「ああ、俺だが。何か問題が?」 「いえ、あの・・・いつの間に・・」 「そうだな。アルから写真を貰ったって辺りからかな」 「そっ・・そすか・・・そりゃとんだとこで・・・」 つい先程までの勢いは何処に行ったのか、顔面蒼白となったハボックがそこにはいた。様々なことに気を取られていたとはいえ、全員に気付かれることなく入室した挙句、満面の笑みを浮かべるエドワードは純粋に恐ろしい。 恐怖の余り言っていることは意味を成さず、引き攣りながら相槌を打つのが精一杯である。 だが、、軍人である限り、窮地に陥った時にこそ、その真価を発揮しなければ意味がない。 多大なる努力の末、ハボックは無理矢理自分を落ち着かせる事に成功し、目まぐるしく脳をフル回転させた。 考えること数秒。 閃いた! アルフォンスさんから写真を貰ったって事がバレたとしても、投票者一覧に紛れ込ませたことまでは分からないんじゃ・・・。もしかしたらまだ誤魔化すことが可能かも。 何ともお粗末な推測である。やはり動揺から抜け出し切れていないらしい。 淡い期待を胸にエドワードに向き合ったハボックの目に、そんな打算を打ち砕くかのような一枚の紙が目に飛び込んできた途端、一縷の望みも絶たれた。 ああ・・・・なんてこった 「しょ、少将・・・その用紙はもしかして・・・・」 「ああこれか。面白いだろ?ジジイの部屋前の通路に落ちてたんだ」 そう言って、今までよりも更に美しく冴えた笑顔をハボックに向けたエドワードが、自分の胸辺りまで持ち上げて見せたその用紙は―。 それを目にしたハボックの顔色は、最早青を通り越して真っ白である。 その内心はと言えば。 誰だこんなモノ落としやがった馬鹿野郎は!!! こんな危険なモノ落とすなんて考えられない!しかも、選りに選って何故エルリック少将が通る可能性がめちゃ高い大総統執務室前で落とすんだ?! そもそも、大総統府内でこんなモノ落とすか普通?落とさないだろうっ!本気で馬鹿じゃないのかっ! しかもしかも、将軍の手にあるのは俺達が持っている簡易版の用紙ではなく、ご丁寧にランキング者の顔写真が載っている豪華版じゃないか・・・・。 万事休す・・・・・・・・・・・・。 ハボックが生き延びる道は閉ざされた。 「で、何だっけ?俺が美人だって?確かホークアイ中尉やロス少尉よりも美人だって言ってくれたな、ジャン?」 「なっ、何でそんな事まで・・・」 「ん?ああ、それは聞いてたから」 「聞いてたっ!?だ・・だって少将、ついさっき入ってきたばかりなんですよね・・・?」 「そうだな。戻ってきたのはついさっきだけど、ここでの会話は全部筒抜けだったからな」 「なん・・・で・・・」 「あそこ見てみろ」 「あそこ?」 そういってエドワードが指し示した場所は、この司令室の天井だった。 釣られるように見上げた天上にあったモノ。それは―。 「な、何すか・・・あれ?」 「見て分かんないか?耳だ」 引き攣りながら聞くハボックにそう答えるエドワードの言葉通り、確かに、天井には妙にトゲトゲしたデフォルメの、ちょっと・・・いや、かなり不気味な巨大耳が出現していた。 まさか・・・・。 「これを拾って直ぐにここまで届くように俺の耳を作ったんだけどさ、お陰で歩きながら面白い話が沢山聞けたよ」 やっぱりーーーー!!! ハボックのみならず、ロイやブレダ、つい先程まで静観を決め込んでいたホークアイやアームストロング達までもが言葉を無くす。 ”将軍怖ぇーーー!!!” そう。正に、この不気味な耳は、エドワードが錬金術で作った盗聴器だったのである。 どうやってのけたのかは定かではないが、錬成時に発生する音や光を、同じ錬金術師であるロイやアームストロングに気付かれないように錬成した挙句、近いとはいえ大分距離のある大総統執務室からここまで伸びる錬成をしてのけたのも凄い。 何より、エドワードの話しぶりからして、歩きながらここまで来たのは間違いないのだから、当然の帰結としてこの耳の連結先もエドワードの歩みと共に移動していた事になる。 果たして、到達点が変わらないとは云え、幾つもの通路や各司令室を跨ぎながら出発点を常に変えて錬成することなど可能なのだろうか? ―否である。 普通の錬金術師であれば絶対に出来ない事である。一体どのようにしたらその様なことが可能になるのか。 ロイとアームストロングという、優秀な錬金術師をして心胆寒からしめる超絶技術であった。 エドワード・エルリック。 流石は史上最年少で国家錬金術師となった天才である。その能力は他を圧している。 ただ、技術が凄いだけに、その使い方の下らなさ加減には溜息しか出てこない。 もっと他に有意義な使い道があるだろうに・・・・。 エドワード・エルリックという人物を知れば知るほどに、誰もが思う理不尽極まりない性格を、彼の人物はしていた。 「納得したか?」 「・・・・・・・・・・・・はい」 項垂れたまま頷くハボックの姿は、何とも小さく頼りなく見える。 本来なら、盗聴するなんて卑怯じゃないですか!と、エドワードに食ってかかって怒るところなのだろうが、如何せん、自らの後ろ暗い行為のお陰で文句をいうこともできないハボックであった。 「ジャン。お前本当に懲りないな。そんなに俺をバカにしたいのか?」 「バカになんてしてないです」 「あっそ。だけど俺はそうは思ってないからな。兎に角、お前には当然仕置きが必要だよな」 「要らないっす」 「いやいやいや、お前が要らなくても俺には切実に必要なものだから。大体、俺に対する無礼も大概悪質だけど、ホークアイ中尉やロス少尉にも大分失礼だろお前。男の俺より容姿が劣るなんて、本人達に面と向かって言うか普通?土下座して謝ったって赦される事じゃないだろうが。反省してんのか?」 「確かに中尉達には申し訳ない事を言いましたし、しました。その点に付いては確かに反省してるっす。けど、少将が美人だってのは事実ですから。これについては絶対に引かないっす」 「ほう~。なるほどな」 凄いぞハボック!どこかが切れてしまったのかもしれないが、それにしても凄い! 只でさえ鬼のように怒っている少将に対して、更に煽るような発言をするなんてっ!!! 命が惜しくないのか??? 死を覚悟したのか??? それとも・・・・・。 単に馬鹿なんだな、きっと・・・・。 「ジャン、俺はそんなに美人か?」 ぞっとするほど艶めかしい、だが全く笑っていない流し目で見つめられて、思わずハボックの喉が鳴る。 果たして、それは緊張のためだろうか。 一瞬言葉に詰まるが、ハボックは、今日ばかりは何故か頑なに自分の意見を貫き通すのだった。 自暴自棄になっているとしか、傍目からは思えない。 「はい!俺が今まで生きてきた中で、少将以上に綺麗な人に出会ったことは無いです。それに、少将のことを美人だって思ってるのは俺だけじゃないっす!ねえ、マスタング少佐」 「えっ!な、何で俺に振るんだ、ハボック少尉っ!?」 たった今まで傍観者を決め込んでいたロイは、突然の名指しに心臓が止まるほど驚いた。 何してくれてんだ、ハボック少尉!頼むから自分の保身のために俺を巻込まないでくれっ!!! 当然と言えば当然な、心からのロイの叫びである。 但し、声になって出ることはなかったが。 「何でって、さっき少佐も少将のことを美しい人だって言ってたからじゃないすか。忘れたんですか?」 「そ、そんなことは言ってないぞ。少尉の勘違いだろう」 「勘違いじゃありません。ねえ、少将だって聞いてましたよね?マスタング少佐がハッキリと”美しい人”だって言ってたのを」 「確かに言ってたな」 「なっ、そんな」 「ほら、やっぱり。俺だけじゃないんすよ。少将の事を美人だって思ってるのは。実際投票しなかっただけで、こいつらだって内心では同意見ですよ。な」 ハボックは、ロイばかりではなくブレダ達まで道連れにしようと必死である。 開き直ったとはいえ、怒り狂った将軍様のお仕置きは、出来れば回避したいのである。それが無理ならば、出来るだけ多くの頭数を揃えて怒りを分散したいと考えたのだった。 なんとも傍迷惑なことである。 当然ながらブレダ達からは激しい抗議の声が上がった。 「煩いぞ、お前達」 喧々囂々騒いでいたハボック達が、その一言でピタッと静かになる。 特に大きな声でもないのに、ハッキリと耳に届く不思議な力を持った声。 人を傅かせることの出来る声。 支配者の声である。 その唇から紡がれるのはどのような言葉なのだろうか。 低く響くその声から察するに、凡そ楽観出来ない事だけは間違いない。 ハボック達の運命は決した。 「ブレダ、ファルマン、フュリーの3名は、ジャンにのせられてアホな真似をしなかったようだから、今回は不問に付す。但し、今後も言動には注意しろよ」 「「「は、はいっ!!!」」」 死刑宣告を待つ囚人のように胸を高鳴らせていたブレダ達は、エドワードの言葉にホッと息を吐く。 投票しなくて良かったーーーー!美人って言わなくて良かったーーーー!!! 嘘偽りのないブレダ達3人の本音である。 今後、内心でどう思っていようと、彼らがエドワードの事を人前で美人と言うことは無いだろう。 見るからに安堵している3人を見て、エドワードは思わず苦笑する。一体何を想像していたんだか。俺は悪魔か? 何はともあれ、可愛い部下達である。今だけは大目に見よう。 心が広いんだか狭いんだか分からないエドワードであった。 さて、次は。 「ジャン。お前は俺が美人だって言われて嬉しがると思ってるのか?」 「・・・・思ってはないです」 「そうだよな。男の俺が美人だなんて言われて嬉しいわけないよな。てか、寧ろ馬鹿にされてるとしか思えない訳だ。ここまでは分かるよな?」 「・・・・馬鹿になんてしてないっす」 「お前がどう思っていようと、この場合は関係ないだろ。俺がそう感じるんだからさ。な?」 「・・・・はい」 「て、事は、だ。多大なる反省が必要だよな?」 「・・・・・・・・・・」 「ジャン?」 「・・・・・何すれば良いすか」 「お、ようやく反省する気になったか。でもちょっとふて腐れてないか?お前。そんな態度だと俺も考えちゃうよな~。大体、アルを担ぎ出した辺りかなり悪質だしな。て、いうか、アルの奴!今度会ったらボコボコにしてやる!ジャンにのせられたとはいえ俺のことを馬鹿にしやがって。何考えてんだあいつは。ったく。まあ今はアルのことは置いておこう。よし、ジャンへの処分は保留な。どうするかはちょっと考える」 アルフォンスに対する怒りで、思わず我を忘れそうになったエドワードだったが、どうにか現実へと戻ってきた。 が、ハボックにとってはそのままエドワードの怒りがアルフォンスに向いてくれていた方が良かったのだが、そうは問屋が卸さないようである。 「そんなー俺だけ酷いっすよ」 「酷い訳あるか。俺の方が甚大な心の傷を受けたんだぞ。相応の仕返しをしても罰は当たらないだろうが」 心の傷どころか、嬉々として見えるエドワードは平然と嘯く。 「少将の仕返しは全然相応じゃないじゃないですか!絶対に俺の方が被害が大きくなるに決まってますっ!」 「そんなのは俺のせいじゃないだろう?先に手を挙げたのはお前なんだから自業自得だ」 「えー」 「煩い。黙れ。兎に角、取り敢えず反省してろ」 シュンとして項垂れるハボックの様子は、まるで主人に叱られた犬のようである。 馬鹿な真似をしたとは思うが、やはり被害者はハボックのように見えるのは気のせいでは無いだろう。 振り上げた拳の落とし先は、慎重に決めないと後が怖いという見本のような顛末である。 「さて、ロイ。覚悟は良いか?」 「はい・・・・」 ハボックを黙らせたエドワードが次に狙い定めたのは、やはりというか、ロイであった。 半ば諦めていたロイだったが、それでも、エドワードに声を掛けられてビクッと肩が震える。恐怖の大魔王の如しである。 何も悪いことをしていないのに仕置きを受ける理不尽さに納得がいかないが、相手がエドワードでは言うだけ無駄というものである。ここはハボックを恨むとして、今は潔く罰を受けよう。 と、頭では思うのだが、体は正直である。 引き攣った顔をどうにか平静にしようと苦心するロイがそこにはいた。 正に巻込まれ型災難。青天の霹靂のような悪夢であった。 後日、エドワードから受けた罰に涙を見せるハボックとロイの姿が中央司令部で見られたと言う噂が流れたが、果たしてその真相は。 また、これ以後、司令室内では、将軍が不在でも、ついつい天井を気にしてしまうエルリック少将率いる面々の、戦々恐々たる姿が見受けられるようになったそうである。 |
何とか終わりましたが、どうにも尻切れトンボ的な幕締めで申し訳ないです;;;
2人へのお仕置き内容を考えてたんですが、コレは!
と、いうようなナイスアイディアが浮かばなかったので、ひとまず終了にしちゃいました;;;
何か思いついたらおまけとして書くかもしれません(苦笑)
相変わらず纏められなくて結構な長さになってしまい申し訳ないです・・・。
何度も同じような表現しているなぁと思いつつ放置です。
すみません(>_<)
片目を閉じてお読み下さい(笑)
タイトルのドイツ語の意味は、
『好奇心は猫をも殺す』
ですv
2012/03/15