青い光と共に現れた大きな壁に目が釘付けになった。 倒れかかっていた書架が、床から斜めにせりたった壁によって支えられていたのだ。 本に埋もれていた老人がそれ以上の被害に遭わなかったのは幸いだったが、一体この壁はどこから現れたのか・・・・。 それは信じられないくらいの速さで錬成された錬金術によるものだった。 時間にして僅か2〜3秒の出来事。 初めて目にした錬成は、圧倒的な迫力でロイの胸を打ち、恐ろしさと美しさに心が震えた。 「君!早くこちらに来るんだ!」 「はいっ!」 目の前に立ちふさがった巨大な壁を凝視したまま動かないロイを、一人の軍人が手招きする。 未だ断続的に続く揺れの中、どこからともなく現れた救いの手を逃すことなく、軍人達はいち早く次の行動へと移っていた。 ロイを含め、残っていた民間人を一刻も早く安全な場所へと誘導するべく一人の軍人が声を掛け、二手に分かれた残りの軍人二人が、書籍に埋もれた老人をどうにか助け出していた。 老人は体のあちこちを強打し、多少の怪我を負ってはいたが、歩くのに支障はなく、元気そうだったので安心した。 軍人達の先導に従って、ロイ達は建物の奥へと進んでいった。 奥に進んでしまったら逃げ場が無くなり危険なのではないかと、ロイは思ったのだが、そこはプロである。爆発は入口付近から徐々に奥へと近づいて来ており、今入口へと戻ってしまったら、かえって敵と遭遇する可能性があり危険だったのだ。 更に、後で知ったことだが、先程救いの手を差しのべてくれた錬金術師が奥へ逃げろと指示していたのだ。 爆発の音も揺れも感じられない、ひとまず安全だと思われる場所へとロイ達は避難した。 そこは閲覧用書架にも負けない位多くの蔵書が保管されている倉庫であった。 貴重な蔵書を守るために、一旦扉を閉めてしまえば、そこは耐震防火に優れたシェルターとなる。ここならばちょっとやそっとでは敵も踏み込んでは来られないだろうが、それもこの襲撃(?)が長引かなければの話だ。数時間で片が付かなければ、ロイ達の生存確率は限りなく低くなるだろう。 そんな危機的状況の中でロイの心を占めていたのは、自分自身の命に対する不安ではなく、先程チラリと垣間見た錬金術師のことだった。 驚くべき速さで錬成をなし、ロイ達を危険から救った人は、現れたとき同様あっという間に立ち去ってしまった。 ロイは、最初目を瞑っており、次には目の前に立ちはだかる壁を見ていたせいで、肝心な人の姿をはっきりと見ることが出来なかった。 お陰で想像ばかりが膨らんでしまい、実際に本人を目の前にしたときには、そのギャップに驚きを隠せなかったものだ。 つくづく、この失態は悔やんでも悔やみきれないものだった。 「皆さんはここでじっとしていて下さい。我々は外の様子を見てきます」 民間人四人がどうにか落ち着いたのを見て取った軍人三人のうちの二人が、そう言い残して出て行った。残されたのは若い男の軍人一人とロイ達だけ。その事に女性達はどこか心細そうな様子を見せたが、ここで全員がじっとしていても外の状況が分からず、その為に不安が広がるだけなのは明らかだったので、不満を顕わにするものはいなかった。 そんな状況でもロイは特に不安には感じす、寧ろ自分も彼らと一緒に出て行きたいと思った。 時間が経つにつれて、ロイの中でもう一度あの錬金術師に会いたいという思いが募る。 あの鮮烈なまでの『青』をもう一度目にしたい。 どうしたらあんな事が出来るのだろう。 自分にもいつか出来るようになるのだろうか? 思い始めたら止まらなくなった。 気が付いたときには、ロイは倉庫から飛び出していた。 突然のロイの行動に意表を突かれた軍人が、その背に向かって制止の声を掛けたが、勿論そんな物は何の効果もない。軍人は一瞬迷った末に、ロイを追いかけることを断念した。他の三人を放置して追いかけるわけにも行かないからだ。 ロイの行く先には先程偵察に出て行った仲間が居るはずだ。彼らに出会ったらロイを保護してくれるだろう。―――多分。 どうか無事で戻ってきてくれ。そう願うのみだ。 来た道を走って戻るロイの耳に、再び爆発音が響いて来た。 本来なら恐ろしく感じるはずのその爆音が、今のロイには希望に満ちた音色に聞こえる。 この音に近づけば近づくほどあの人に会えるのだと、そう思えるから。 途中で偵察に出た軍人二名が戻ってくるところに出くわしそうになったが、反対側の廊下の奥に潜み難を逃れた。ここで見つかったら連れ戻されるのは間違いない。それはロイの本意とは相容れない。 ロイは念の為、彼らの姿が見えなくなった後も暫く動かず、ようやく大丈夫と判断してから身を起こし、改めて入口へと向かって進んでいった。 程なくして、最初にいた閲覧室まで戻ることが出来た。 もしかしたら戦闘が繰り広げられてるかもしれないと思ったが、そこに人の気配は無かった。 爆音はかなり大きく聞こえるので何となく近いような気がしたが、そうではないらしい。 遠くにいても分かるほど激しい戦闘が行われているということだろうか。 ロイはあの錬金術師は大丈夫なのだろうかと心配になる。 実際、そんなことを考えているロイの現状の方がよっぽど危険なのだが、大人びているとはいえ、そこはやはりまだ子供。恐れを知らないとはよく言ったものだ。或いは、自分の保身を考える余裕が無いくらい彼の錬金術師に対する思いが強いのだろうか。 先へ先へと進むうちに、廊下はあちこちひび割れ、幾つかのドアは爆発により弾け飛び、その瓦礫等が散乱していた。歩きづらい通路を何とか進み、とうとう建物の外へと続く扉へと辿り着いた時には、流石のロイも少しばかり息が上がっていた。 それにしても、こんなにも人気がないのは何故なんだろう。 幾ら何でも不用心すぎる警備体制に、ロイは眉を顰める。 果たして、軍の有り様はこれであっているのだろうか?子供心にも少しだけ自国の先行きが心配になるロイであった。 ロイは壊れた扉を通り、そして出会う。 青い錬成光に満ちた美しき姿に。 |
「Memories of blue」第三話をです。
出てくる出てくると言いながら、とうとうエドは出てきませんでした・・・・(>_<)
次こそは出てきますから!
本編よりも若いエドワードが!
↑オオカミ少年のようですね;;;
2009/06/27