突然の轟音と揺れに恐怖した。
何が起こったのか分からず動転する自分を恥じた。


その場に突っ立ったまま身動き出来なくなった。




そんな時だった。
突然一条の光が差した。
青く美しい巨大な錬成光。


あんなにも綺麗なものは見たことがなかった。



















「こんにちは、今日も来たわね。どう、読み終わりそう?」

「こんにちは。はい。もう少しで読み終わりそうです」

ロイが、ここ国立中央図書館に通い始めてから5日が経過していた。
初日こそ午後に来館し、あまり有意義に過ごすことが出来なかったロイだったが、
翌日からは朝一番に来ては閉館時間ギリギリまで居座り、一心不乱に本を読んでいた。
しかも、読んでいるのが錬金術書なのだ。
そんな10歳児がいれば自然と目立つのも当然の事だろう。
お陰で、軍人達の間ではロイはちょっとした有名人になっており、事あるごとに声をかけられるようになっていた。
特に女性陣には小さくて可愛いと人気が高い。
後年、女性に異常にモテるという羨ましい特質に恵まれ、他の男性陣からはやっかまれる事になる片鱗がここにも表れていたのだろか。
本に埋もれるようにして読み耽っている姿が微笑ましいというのも、女性陣に好かれる理由の一つでもあった。
その割に言動は幼さを感じさせずに小面憎い感もあるのがミスマッチであったが。


自分が軍人達にどう思われているかなど全く頓着する事も無く、ロイはすっかり定位置となった机に陣取り、残すところあと半分ほどになった、「錬成陣の基本と応用」の続きを読みはじめる。
読みながら、時々目を止めては持参したノートに何やら真剣な様子で書き込むという作業を繰り返しているうちに、2日目から書き取り始めたそのノートは、いつのまにか3冊目に突入していた。
捲るページ捲るページ全てが重要な事が書いてあるような気がして、書き写さずにいられないのだ。
こうなると、いっその事買ってしまった方が早いような気がしてきたロイだった。
地元の本屋では錬金術書などはそうそう取り扱っていないのだが、時間が掛かってもいいので今度取り寄せでもしてみよう。ロイは真剣にそう考える。





大人たちが微笑ましい目でロイを見ているのとは裏腹に、ロイは真剣であり、その心中は晴れなかった。
この5日間というもの、真剣に錬金術書に向き合ってみて感じた事がある。
それは、錬金術とは底が知れないモノだ、と言う事だった。
こんな、本当に初歩だろう本を読んだだけだが、錬金術とは気軽な気持ちで取り組んでどうにかなるものではない。そう実感したのだ。
そうしてみて、改めて自分の在りようを鑑みてみる。

―――――――――父に認められたい。

ロイにとっては軽い気持ちでは決して無いが、それ程強烈な思いでもない。
そんな中途半端な動機で、この先錬金術を極めることが出来るのだろうか。
常の自信満々な態度は影を潜め、ロイは不安が胸を過るのを感じた。

根本を間違ってはいけないのだ。
何かの見栄や興味本位で手を出してはいけない領域。
それが錬金術ではないのか。そう感じ始めたのだ。
10歳とはいえ、ロイは敏い。
どこかで今の自分の姿勢に疑問を持ち始めていた。














そんな不安定な気持ちと、少しずつ湧きあがって来た疑問を抱えながらも、真剣に錬金術と取り組んでいたロイにとって、閉館時間が近づく事はとても残念な事だった。
ロイは明日両親と一緒に帰郷する。つまり、今日はここで過ごせる最後の日だったのだ。
そんな、タイムリミットの5分前。
事件は勃発した。





閉館を促す音楽が流れ始めた館内には、ロイを含めて数人が残っていた。
ロイが居る第四分館で働いている軍人三人と、一般人はロイと30代らしき女性二人と70代と思しき男性が一人だ。


皆が閉館に向けて本を片付けたり、帰り支度をしていた時、突然直ぐ近くで轟音が轟き、同時に足もとがグラグラと揺れると、棚から大量の蔵書がバラバラと落ち床に散乱した。
本一冊ならばどうと言う事はないが、それが何十何百にもなれば話は別で、ロイ達は頭上から降ってくる蔵書に押し潰されそうになる。


辛くも安全な閲覧スペースへと逃げたロイとは反対に、逃げ遅れた老人が大量の蔵書に押し潰されて苦痛の呻き声を上げていた。相当な重さが圧し掛かっているのは間違いない。
呻き声を上げる老人に気が付き、揺れの衝撃が去った事に我に返った軍人達が、老人に駆け寄り助けようとする。
そんな時だった。二度目の衝撃が襲ってきたのは。


何が何だか分からないまま、ロイ達は大きな揺れに翻弄された。
老人を助けようと駆け寄った軍人達も、揺れと足下に散らばる書籍に足を取られ、思うように前に進めないでいた。
最悪なことに、最初の揺れでは倒れなかった書架が、二度目の揺れには耐えきれずに転倒してきた。勿論、全ての書架が倒れたわけでは無かった。
最初の揺れで蔵書が落ち、軽くなった書架だけだ。それでも、普段重量のある書籍を収納している棚だ。頑丈な上にそれ自体の重さも相当なものだった。
そんな物が倒れたらどうなるか。考えなくても分かる。
ただ、こんな事が頭に浮かんだのは一瞬で、気が付いたときにはもの凄い勢いで倒れてくる書架が老人の目の前にあった。


動くことも出来ず、ロイは目を瞑ってしまった。
その時だった。
バシィーーッッンという激しい音がしたかと思った次の瞬間に、瞑った目の裏からでも分かるほど強烈な青い光が輝いたのは。








  





散々放置しまくっていた「Memories of blue」第二話をおおくりいたします;;
間が開いてた割には話はあまり進んでおらず、エドも出てこない始末・・・・!
次こそは出てきますから!
本編よりも若いエドワードが!
もう少しお待ち下さいませ(土下座)