いつもと変わらない一日が始まり、いつもと同じように一日が終わる。
当たり前のように日々を過ごしていた少年時代。
だが、あの日に限っては、そうはならなかったのだ。


今も目に焼き付いて離れない、美しく、青く、眩い、巨大な錬成光。


あの時に本当に決心したのだ。


国家錬金術師になると・・・・・。










Memories of blue








「よう、ぼうず。お前この辺じゃ見かけないが1人なのか?」

「そうだけど」

突然話しかけられたロイは、警戒心を露わにして目の前の中年男にぼそっと返事をする。
今日は家族揃ってセントラルの親戚の家に来ていた。
ロイの従姉にあたる少女の誕生日パーティだと言っていたが、特に親しくも無い親戚の家でする事など特になく、暇を持て余したロイは、両親の許しを得て、図書館へと向かう途中、
もう少しで図書館に着くという所で、この男に話しかけられてしまったのだ。
自然、不機嫌そうな声になってしまったとしても無理はないだろう。
しかも、次に男から発せられた内容に、ロイの自尊心は大いに傷が付いたのだ。

「お前みたいな小さい子供がこんなところを一人で歩いてるのは危ないぞ。
親はどこに居るんだ?迷子になってないか?」

「僕は10歳です。一人で歩いてたって何の問題も無いですっ(怒)」

「ああっ?10歳?そんなにおっきいのか、お前・・・・。どう見たって7歳くらいにしか・・・」

「(怒・怒・怒)!急いでるんで、じゃっ!!!」

男はきっと良い人なのだろう。小さい子供がこんなセントラルの街中をたった一人で歩いているのを見て、心配して声を掛けてくれたのだろう。
だがしかし!失礼にも程がある!
自分はもう10歳なのだ。断じて小さな子供ではない。
確かに・・・確かに標準的な10歳児よりは小柄かもしれない。顔つきも幼いかもしれない。
でもでもでも!自分はもう子供ではないのだ。


初対面の者には、大人と言わず、子供と言わず、必ず小さいと言われることに、
ロイは心から腹が立っていた。
別に好きでこんなに小柄なわけじゃないのだ。
いい加減に見た目で判断するのは迷惑だし鬱陶しいので止めて欲しい。
どこか可愛げのないロイは大人びた顔でため息をつきつつそう思う。
だが、大人にしてみれば、小さい子供を放って置く事は出来ないだろう。
それを笑って受け止められないあたり、ロイもやはり子供なのだ。






国立中央図書館。
アメストリスで一番大きな図書館だ。
その多くは一般人が閲覧する事は出来ないが、それでも、かなりの蔵書を読む事が出来る。
ロイは、セントラルに来るたびにここへ足を運び、様々な本を読むのを楽しみにしていた。
今までなら軍に関係する書籍を読んでいたのだが、今日は目的が違う。
今日は、最近興味を覚え始めた錬金術の本を読んでみるつもりだった。
何故興味を持ったのかといえば、理由は簡単。
尊敬する軍人である父が、ある錬金術師の話をしてくれたから。
史上最年少で国家錬金術師となった少年の話を。



その少年が国家錬金術師になったのは5年前で、ロイが5歳の頃だという。
彼は類稀な天才で、並み居る大人たちを物ともせずに、その年唯一の合格者となったのだ、と。
12歳というその若さに父をはじめとして、周囲の者達は驚きを隠せなかったと父は言った。
それはそうだろう。
ロイも、この話をつい最近父から聞いた時には驚愕したのだ。
今の自分とたった2歳しか違わない少年が、難関である国家錬金術師の資格を取得したというのだ。信じられないという気持で一杯になっても無理はないだろう。
そして、嫉妬した。
滅多に人を褒めない父が絶賛するその少年に。
だからロイは考えた。
自分もその少年のように国家錬金術師になって、父に褒められたいと。
ロイは、本当は軍人になりたかった。尊敬する父と同じ軍人に。
だが、聞けばその少年は、つい最近、正式に軍に入隊したと父は言っていた。
ならば、自分も。
国家錬金術師と軍人。両方になって父を驚かせようと思った。
だから勉強しなくてはならない・・・錬金術を。


とはいえ、今まで錬金術にそれ程の興味を傾けることなく過ごしてきたロイにとって、
どの本を読んだらよいのか皆目見当が付かず、少なからず大量の書籍を前に
途方に暮れていた。
父の話を聞いてから、何冊かの錬金術書を読んでみたのだが、どれもこれも内容が薄く、
初心者向けというよりは、お伽話みたいに書かれている荒唐無稽な本が多かった。
そうかと思えば、ある錬金術師の書いた本だと言って司書の女性に渡された本は、
錬金術の”れ”の字も出てこない童話だったり、工作の本だったりした。
不思議に思って司書の女性に聞いてみると、
錬金術師は、自分の研究を暗号化して記録しているのだと言われた。
それらの暗号は、研究を守るために他人が見ても一見して分からないようになっているのだと。
そうなると、どんなにレベルの低い錬金術師の本だとしても、
入門したてのロイにとっては難解なものでしかない。
結局、これだ!と思えるような本には出会えずに悶々としていたと言うのが本当のところだった。
だから期待していた。
ここ、国立中央図書館ならきっと自分が求める本があると。


散々錬金術関連書籍の棚をウロウロして、ようやく見つけたのが、
「錬金術入門」「初めての錬金術」「錬金術の歴史」「錬成陣の基本と応用」
という四冊だった。
これらの本が本当に役に立つのかは、読んでみなければわからないが、何となく今までの本とは違うような気がした。というよりは、そう思いたかったのだろう。
閲覧室で黙々と本を読み始めたロイは、時間が経つのも忘れて一心不乱に文字を目で追う。
一字一句頭に詰め込むように。
だが、入門書とはいえそこはやはり錬金術書。とびきり頭がよく優秀なロイの頭脳を持ってしても中々に読み進められるものではない。
最初に手に取った、「初めての錬金術」を、三時間かかってようやく五分の一程しか読めなかった。
時刻は既に五時。閉館のアナウンスが流れ始めた。
もう少し居たいが、閉館でもあるし、まだ日があるとはいえ、そろそろ帰らなければ両親が心配するだろう。
出来るならば、これらの本を持ち帰って読みたい。
だが、国立中央図書館の蔵書は基本的には貸出不可だ。
しかも子供が相手ではもし出来たとしても親の付き添いがなければ貸出カードを作る事も出来ない。
溜息をつき、諦めたロイは、手元に大事に置いてあった本を元の棚に戻す。
セントラルには父の休暇も含めて五日間滞在する予定だった。
何としてもそれまでにこれらの本を読破しなければ。
固い決意のもとに、ロイは明日もまた来る事を誓って、図書館を後にした。