ドンドンドンッ! 凄まじい音を周囲に反響させながら、立て続けに銃弾が的へと撃ち込まれていく。 途切れなく撃ち込まれる弾丸は、生徒によってバラつきはあるが、概ね外すことなく的へと吸いこまれて行く。 15人ほどの生徒が1グループとなり、交代で一列に並び射撃訓練を行っているのは、校舎の地下にある射撃専用の訓練場だった。 昼食後の2時限を使って2クラス合同で行われるこの訓練は、特に緊張感を持って臨むべきものなのだが、今日に限って言えば、どうにも生徒達の集中力は散漫になっているようだった。 その原因は、ここ5日間ですっかりお馴染みとなった、エドワード・エルリックにある。 僅か数日間で、彼、エドワード・エルリックが如何に人並み外れて優秀かということを思い知らされていた生徒達にしてみれば、それは本当に驚くべき光景だった。 今まで、エドワードは、思わず惚れ惚れとするような才能を、決してひけらかすことなく、けれどもまざまざと周囲に見せつけてきた。 それは本当に見事なくらいの優秀さで、こんなにも頭が良く性格が良く、多少の口の悪さも魅力に思えてしまうくらい完璧な人物は、そうは居ないのではないかと思わせるような人間だった。 そんな魅力に溢れた彼が・・・・。 射撃の見本の様に理想的な構えでリズムよくエドワードが放つ銃弾は、その素晴らしい姿勢からは想像も出来ない位に散乱し、面白いほど的を避けては見当違いな場所へと辿り着いていた。 この衝撃の光景に、待機している生徒達は勿論、一緒に射撃をしていた生徒達、果ては彼らを指導している教官までもが目を丸くして、そんなエドワードの姿を見つめていた。 そして誰もが思った。 何でも出来る完璧な人間などやはり居ないのだと。 「エ、エドは射撃がへ・・・・いや、苦手なんだな」 恐る恐るというように、ウルリックがそうエドワードに問いかけると、エドワードは苦笑する。 「そうなんだよなぁ・・・。どうにも動かない的っていうのが駄目なんだよ。っていうかこんな的に撃っても仕方ないと思うと、今一つ気が乗らなくて、いつも射撃の成績は酷いんだ」 「動かない的って。一応クレーとかあるけどそれならいけるのか?」 「うん?いや、そう言う事じゃなくて、撃っても意味のないモノに撃ち込むっていうのが駄目なんだ」 「え、でもそれじゃ狩りとかなら良いのか?」 「そうだな。遊びとしての狩りじゃなくて、自分が生き延びるためにする殺生なら俺は躊躇無く撃てるし、仕留められる。殺すことに意味があるからな」 「ふーん。何だか聞いてるとそういう状況で動物を殺したことがあるみたいだな」 「あるよ」 「えっ!本当に?」 「ああ。もう随分昔のことだけどな」 そう言うエドワードの表情はもの凄く大人びていて、彼が本当は自分よりも何歳も年上なのだということが実感できた。 それにしても、僅か24・5歳でそんな危機的状況で殺生をしたことがあるなんて。 何の悩みもなく、順風満帆な生活を満喫してそうに見えるエドワードだが、そんな見かけからは想像も付かないような経験を色々と積んできたのだろうか? エドワードがどんな人生を送ってきたのか、凄く気になるが、おいそれと聞いて良いものかどうか、今一つ決心が付かない。 謎多き転校生の謎は更に広がるばかりだ。 「そっか。あっ、それならサバイバル訓練なんかはどうなんだ?あれなら銃はペイント弾だからそう言う意味での緊張感は無いけど、標的は人間だし」 「ああ・・・。まあそうだな。こんな所で撃ってるよりはマシかな。っていうより、基本的に射撃は苦手なんだ、俺」 「へー。なんか意外だな。エドにも苦手なモノがあるなんてさ」 「何言ってるんだよ。俺なんて苦手で出来ないモノだらけの駄目人間だって」 「よく言うよ」 「あ、信じてないだろ!本当だぞ!よく言われるんだぞ皆に」 「皆って誰だよ?」 「誰って。弟とか幼馴染みとか部・・・、いや、とにかく皆に!」 「ふ〜ん」 まるっきり信じてない目を向けるウルリックに必死になって自分の体たらくを語るエドワード。 普通なら自分がどんなに優秀かを訴える所だが、この転校生は違うらしい。 そんな二人の遣り取りを、周囲の生徒達も笑いながら聞いていた。 エドワードの衝撃的な射撃の腕前に呆然としていた教官もそんな者の仲間入りをしている。 なんとも微笑ましい一時である。 自分の力を誇示しない。これもまたエドワードの魅力の一つなのだろうが、少し間違えれば嫌味な人間だと思われてしまう事もあるだろう。 実際、軍内部でもエドワードを良く思わない者は多くいる。 この世の中善人ばかりではない。何時でも何処でも、他人を僻み恨み妬む者はいる。そんな人間にとって、エドワードの優秀さや明るさ、天然さ等は気に入らないものだろう。 この時にも、そういう者は居た。 楽しそうにしている場所から少し距離を置いた所に数人で固まって、忌々しそうにエドワードを見つめている者達が。 彼らは考えていた。いつかあの憎たらしい転校生に痛い目を見せてやる、と。 訓練が終わったとき、予想通りにエドワードの成績は最下位だった。 未だ曾て無い悲惨な成績に、教官は呆れてものも言えない有様だった。 当然ながらエドワードには、自分の生徒の中でこんな酷い成績を取る者は放置しておけるわけがないと、メラメラと闘志を燃やす教官による補習が行われた。 放課後の時間を全て費やし、それでも全く向上する様子のないエドワードの射撃の腕前に、教官は燃え尽きたまま立ち上がる事も出来なかった。 そして、最後に教官がエドワードに告げたのは、衝撃的な一言だった。 「ロックベル。お前、こんな成績では卒業できないぞ。軍人にとって銃は必需品だ。その銃の成績がこれではな・・・・・。もしなれたとしても、一生事務職のままだな、きっと・・・・」 既に軍人になって人生の半分以上を前線で過ごしてきたエドワードだったが、この一言には打ちのめされた。薄々思ってはいたが、やはり自分の射撃の腕前は、それ程に悲惨なのだ、と・・・・。 こんな、軍人としての資質に疑問を呈された自分が指揮を執っている司令室の部下達は、どう思っているのだろう。 柄にもなく、ちょっぴり不安になるエドワードであった。 「射撃訓練ですか?」 「そう。相変わらず散々な結果に終わった・・・・」 「神憑り的な腕前をお持ちですからね、少将は」 「何だよ、その神憑りってのは」 「実戦では外したことが無いと言うことです」 「それ褒めてんのか?」 「褒めてます。訓練で全く当たらないのに、実戦では一度だって外さないなんて、そんな事私には出来ませんから」 「中尉なんて訓練だって実戦だって一度も外したこと無いもんな」 「それは、日頃から暇さえあれば訓練しているからです」 「何だよ。俺が訓練不足だって言うのか?」 「ええ、そうです」 「ちぇ」 ホークアイ中尉に、さり気なく説教されたエドワードは、頬を膨らませる。 これでは褒められたんだか貶されたのか分からない。 いや、馬鹿にされたのだろうか? 昼間に教官に言われた事と相俟って、エドワードは少しだけ機嫌を損ねる。 そんな、30歳とは思えない子供染みた仕草に少し呆れながらも、ホークアイは実は感心していた。 実際、この将軍は実戦においてでさえ、銃を使うことは殆ど無い。錬金術師だと言うこともあるが、基本的に彼は体術を得意としていたからだ。また、少将という地位から、彼が前線で戦うことは殆ど無いからともいえる。とはいえ、この将軍は目を離すと直ぐに一番乗りで飛び出していこうとするので危険なのだが。 そんな将軍が稀に敵と対峙し、銃を使う事になったとき、今まで唯の一度だって標的を逃したことが無かった。中々出来ることではない。 だからこそホークアイは『神憑り』と言ったのだ。 ホークアイだけではない。他の部下達も、将軍には絶対の信頼を置いている。 普段どんなにふざけていようとも、実戦において彼ほど頼りになる上官は居ない。 命を預けるに足る男。そう思うからこそ、どんな無茶な作戦だって実行できるのだ。 時には、慣れているとはいえ、どこまでいっても規格外な上官に驚かされる事も多々ある。 それでも、部下達の信頼は揺らがない。それがエドワード・エルリック少将率いる司令室の強さの秘密だろう。 ただ、今日のロイは少しだけ恨めしく思っていた。 何故なら、つい先程将軍から、罰としておやつの買い出しを命令されていたからだ。 実戦でどんなに頼りになろうとも、平時に於いて部下をいたぶるとはこれ如何に・・・。 それでも本気で将軍を憎めないのが憎い、ロイであった。 |
中々話が進展しなくてすみません;;;
エドの学校生活書くのが思いの外楽しくて(苦笑)
ダラダラと長くなるかもしれませんが、お付き合い頂けたら幸いです☆
うちの将軍は射撃が苦手という設定です。
なんかエドが銃撃ってる姿って想像がつかなくて;;;
それでも、いざというときには必ず敵の動きを止めるのですv
2009/07/09