「エドワードは休み時間になるとよくあちこち歩いてるけど何してるの?」

「ん?ああ、やっぱりセントラルの学校は俺が居たイーストシティの士官学校とは段違いで規模がでかいし設備も整ってるからさ、ついついフラフラと歩きまわっちゃうんだよな」


突然のゾフィーの質問にも戸惑う事なく、エドワードはを尤もそうな理由をスラスラと述べ始める。
連日暇さえあれば校内を歩きまわっているのだ。不思議に思わない方がどうかしているだろう。


エドワードが転入してから5日目の昼休み。
昼食を取りながらの一幕だった。


いつの間にか先日の作戦立案授業時の班員6人で一緒に居る事が増えていたエドワードだったが、無意識の魅力で生徒達を虜にしていることなど気が付いてもいない。
逆に、そんなエドワードを独占しているウルリック達は、どことなく得意気だった。
彼らのテーブルの周りには通常よりも多くの生徒達が机を寄せており、その密集度はかなりのものだったが、誰ひとり窮屈だと言って離れて行く者はいない。
同じテーブルに座れなくても、せめて傍で姿を見、話を聞きたいと思っているのだ。
そんな熱気に満ち溢れた周囲の空気に気付いているのかいないのか、全く気にも止めずにエドワードは笑顔を浮かべている。
昔から人に囲まれることには慣れっこのエドワードだ。
こんな事は最早気にするほどの事ではないのだろう。


「そんなに違うの?地方とはいえ士官学校なんだから皆同じなんじゃないの?」

「そうだな、確かにイーストシティの学校が悪いってわけじゃない。設備だってココには劣るけど十分最新鋭の物が揃ってるし教官たちのレベルだって低いわけじゃない。ただ、やっぱり大きさでは敵わないんだよな。大体、生徒数が多い」

「そうね、たしか全校生徒合わせて750名だったかしら」





セントラル士官学校は各学年25名のクラスが6組で構成されている。要は一学年150名の生徒が在籍していることになる。それが5年分なのだから単純計算で750名となる。
地方の士官学校は規模にもよるが、凡そ25名のクラスが3組。多くても4組しかないだろう。
当然生徒数はセントラルに比べて半数。多くても7割程しかいない事になる。
そうなれば自ずと違ってくるのが学校の規模だ。


エドワード自身は、本来士官学校どころか通常の学校にも碌に通ったことがない。
子供の頃に通っていた学校も、授業内容が簡単すぎて詰らない思いをしただけだった。
それでも、いたずら盛りの子供ならではで、やんちゃ仲間と遊ぶのは楽しかったので通っていたのだ。
つまり、エドワードが語っているイーストシティ並びに地方の士官学校の話は、以前少し立ち寄った時の印象と、資料を見て話しているに過ぎない。
だが、そんな事を全く知らないウルリック達にしてみれば、エドワードが語る地方の話は興味深かった。


「俺が居たイーストシティは全校生徒合わせて350人ぐらいだったな。多分一番規模が小さな士官学校だと思うぜ」

「そうなのか?なんだか人が多そうな印象があるけど。それに軍が力を入れて配備されてる印象があるんだけど」


ウルリックが不思議そうな顔をして聞いてくる。


「そうだな・・。確かに軍人は多い。でも、それは復興のための人員であって、軍人になる者が多いわけじゃないんだ。東部は内乱時の疲弊から完全には脱却できてない。皆自分達が生きるのに精一杯で、一人でも働き手の必要な家庭から、軍人になるための費用は捻出できないし、そんな余裕はないのが現状だな」


少しだけ淋しそうな顔をして淡々と語るエドワードの言葉にウルリック達は押し黙る。
東部内乱といえば自分達が子供の頃の話で、身近に感じる事の少ない歴史の一部だった。
それでも、最悪の事態は避けられたとはいえ、イシュバールとの間に起こった悲しい事件は誰もが知ることでもあった。
セントラルで育ったウルリック達が現状を知らないのも無理はないのかもしれないが、軍人になろうとしている自分達は、国の実情をもっと学ぶべきなのだと反省する。


「イシュバールの内乱か・・・」


ポツリとクラウスが口に出すと、ゲイルやユージンも頷く。


「確か俺達が3歳の頃に始まって、10歳の頃に終わったんだよな」

「うん。7年間もゲリラ的な戦闘が繰り返されて、とうとう殲滅作戦も行われるんじゃないかって時に、あの”鋼の錬金術師”が現れて戦いを収束させたんだよね」

「それでようやく東部に平安が戻ったんだよな」

「皆よく知ってんだな。俺はその時17歳だったし東部出身だから知ってるけど、リック達はまだホントに子供の頃だろ」

「知ってるよ。だって授業でも少しだけど習ったし、本でも読んだことあるし」

「それに、ユージンは鋼の錬金術師の大ファンなんだ。彼の事を書いてある本とか新聞の記事とかを読んだりコレクションしたりしてるんだ。なっ、ユージン」

「えっ!?そうなの・・・か・・・・・」


驚いたエドワードが素っ頓狂な声で叫びかけたのを遮るように、ユージンが怒涛の勢いで喋り出した。


「うん!だって格好良いじゃない!たった12歳という史上最年少で国家錬金術師の資格を取った超が付くほどの大天才なのに、頭脳ばかりじゃなくて格闘技にも秀でていて彼に勝てる人はそうは居なかったっていうし、あちこちを旅しながら色んな事件を解決したり!高度な錬金術研究のレポートを書いたり!しかも、イシュバールの内乱を弱冠17歳で平和的に解決したんだよ!!!こんなに凄い人に憧れないわけがないじゃないかっっっ!!!」


しんみりしていた空気がユージンの鬼気迫る熱弁のお陰で一気に賑やかなものになる。
座っていた椅子から立ち上がり、握りこぶしを作った腕を高々と掲げ、目をキラキラさせて語るユージンを怖いと思っているのはエドワードだけではない筈だが、他の面々は今までにも何度も聞かされているのだろう。免疫が付いているので、エドワード程の衝撃は受けていないようだった。


エドワードはまた、違う意味でも衝撃を受けていた。
まさかここで”鋼の錬金術師”の話が出るとは思いもよらなかったのだ。
平静を装いつつも内心はドキドキものだった。
自分が鋼の錬金術師”その人”だと分かったらどうしよう。
でも、新聞記事といっても、随分昔に一〜二回載っただけだし、顔や姿は写ってないはず。名前だって公には知られてなかった筈だし、しかも新聞自体が相当古くてボロボロになってるだろうから判別だって付かないだろう。
第一、この5日間でまったく気が付かれなかったのだから今更ユージンが気が付く事も無い。
そう自分を納得させて、エドワードは内心の冷や汗を拭う。
それにしても、何だか随分と誇張及び美化されているような気がするのは気のせいだろうか?
聞いていて、誰のことだと恥ずかしくなり、一人赤面しそうになったエドワードだった。


後に、ユージンが憧れを抱く鋼の錬金術師像を知り、エドワードが少しだけ悲しくなったのはまた別の話だ。





「でもさ、ある時突然彼は居なくなっちゃったんだ。それこそイシュバールの内乱を治めたその直後からだよ。それまで国中で活躍していたのにまったく表舞台に出てこなくなっちゃったんだ。軍に入ったって言う噂もあるけどそこんところどうなんだろう?エドワードは彼と同じ東部出身で年齢も同じだよね。何か知らない?」


確かに、自分はその後正式に軍属(実際はそれ以前も正式に軍属だったのだが、表立っては公表していなかっただけなのだ)となり、放浪生活に終止符を打った。
その代りに軍人として各地へと赴き任務を行っていた。
ただし、当然ながら軍の任務は秘匿されるモノの方が圧倒的に多く、国民に広く知れ渡るような新聞記事には取り上げられなかったというのが真相だ。
元々名前は公表してなかったのだから気が付かないのも仕方がないだろう。
しかも、公表していた名前さえもが、今と昔とでは名乗っているファミリーネームが違うのだ。
だが、そんな事をここで暴露するわけにはいかない。


子犬のような丸い瞳で縋るように迫ってくるユージンをどうにかかわそうした時、天の助けとばかりに昼休みの終わりを告げる鐘が鳴った。
表情の変化は見られなかったが、思わずホッとしたエドワードだった。






























「やっぱり居ましたか、鋼の錬金術師のファンが」


笑いながらロイがエドワードに言うと、むっとしたエドワードが詰問する。


「やっぱりってなんだやっぱりって。それに少佐は何が面白くて笑ってんだ?解答によってはどう対処するかが変わってくるんだが」

「いえ、他意はありません。ただ、同じ国家錬金術師からみても憧れる”鋼の錬金術師”です。士官を目指す子供達が少なからず憧れるのも当然だと思ったのです」

「それって『やっぱり』の説明にはなってるけど、笑ってる理由の説明には全然なってないよな」

「・・うっ・・・」


身の危険を察したロイが、慌てて弁解をするも不十分だったようで、そこを上司に突っ込まれてしまい絶句する。
ヤバイ。


「よし、少佐には上官侮辱罪として向う1ヶ月間俺のおやつを買ってくることを命ずる。特にドーナツは多めに買い出ししてくれよな」

「ちょっ、それは無理です少将!私は今でも身動きが取れないほどの書類を捌いており、息抜きする間も無いないのです!買い出しなんて行こうものならホークアイ中尉に殺されます!!!」

「それをどうにかするのが少佐のサボりのテクを磨く良い機会にもなる。頑張ってくれ」

「何か言いましたか?マスタング少佐」


ジャキッと音がしたと同時に、銃口がこめかみに押し付けられる。
当然のように安全装置は外されていた。
仮にも上司に対してなんたる無礼。そうは思っても何も言い返せないし行動にも移れないロイは何とも情けない。


ホールドアップしながらロイは思う。
ただ、笑っただけなのに。
しかも、別に馬鹿にしたわけではなく、自分が敬愛するこの上司は、昔も今も変わらず人を魅了するのだと、そう思ったら、誇らしくてつい笑みが浮かんでしまっただけなのに。
何でこんな事になるんだろう?
おまけについこぼした失言のせいで、ホークアイ中尉の不況も買ってしまった・・・・。


理不尽な仕打ちにも抗う事が出来ず、ロイは項垂れつつ将軍とホークアイ中尉に従うしかなかった。


「失言を取り消すよ、中尉。悪気はなかったんだ。許して欲しい」

「了解しました」


こめかみに当てられていた銃がようやく下ろされてホッとしたのも束の間。


「俺の命令は受理されたのか?マスタング少佐」

「・・・・・・・拝命しました」

「よろしい」


ニヤリとした笑みを浮かべている将軍はやっぱり綺麗で、ロイは更に悲しくなる。
絶対にこの嫌がらせを楽しんでいる。
正しく悪魔・・・・・・。


「サボりは許しませんよ、少佐。少将もバカなことをけしかけないで下さい」


暴君たるエルリック少将が勝者の気分を味わえたのはほんの一瞬だった。
先程までロイに向けられていた銃口は、今度は将軍本人に狙いを定められており、引き攣った顔をしながら言い訳をしている焦った上司の姿ががそこにはあったのだ。


本物の悪魔は将軍ではないようである・・・。










 








激しく捏造された設定がドンドン出て来て申し訳ありません;;;
が、これからもオリキャラは出るわ捏造はてんこ盛りだわで進んでいきますので、
どうぞ寛大なお心で読んでいただけたらと思っております;;;
それにしても、中々話が進展しない・・・・・(>_<)
横道に逸れまくってますね、こりゃ(爆)