「結局どうしたら一番いいのかな?」 「もういっそ犯人達の要求を飲んで、幹部を解放した上で人質の解放を交渉した方がいいんじゃないか?」 「でも、そうしたら逃げられちゃうわよね?」 「それはそうだけど、突入も駄目だし時間かけても駄目だしってなったら、もう残された選択肢は無いんじゃないのか?」 「確かに・・・・。そうすると、後はどうやって犯人達を確保するかが問題だよな。エドワードはどうしたら上手く行くと思う?」 散々議論して、どうにも正しいと思える作戦を立案出来ないでいたウルリック達は、エドワードに意見を求める。先程も的確な指摘をしてくれたエドワードならば、何か良い案を持っているのではないかと思ったのだ。 そんな級友達の思いに応えるべく、エドワードはにっこりと笑いながら口を開いた。 「それで良いんじゃないか」 「それでイイって・・・犯人達の要求を飲んで人質解放の交渉をするって事?」 「そう。このケースの場合はそれが最善だと思うぜ」 内心で、本当はもっと少し違う作戦が幾らでも立てられるけどな、と思いながらも、エドワードの口から出た返事は先のものだった。実際、現段階でウルリック達が立てられる最適な案はこれしかないだろうから。 「でも、そんな事したら犯人達に逃げられちゃうけど。それはどうするんだ?」 ウルリックの尤もな疑問に他の面々も首を縦に振る。 そんな彼らにエドワードは掻い摘んで作戦の概要を説明し始める。 「子供達を緊張した現場から一刻も早く解放するには、まず、犯人達から離す事が重要だよな。そうすると、選択肢は当然要求を呑むしかなくなる。本来ならこんな交渉は有り得ない事だけど、この場合はそうも言ってられないだろう。車の手配と幹部の到着を待って犯人達を逃がす。この際、人質の安全を確保するためにも、絶対に奴らに手出しするのは厳禁だ。学校を包囲していた兵たちも撤退させる必要があるだろう。危険だが、こちらに反撃の意思がない事を示す必要があるから仕方がない。当然だけど犯人達の逃走は追っては駄目だ。奴らが安心して逃げ遂せることが出来るようにな」 「でも、そんな事したら本当に逃げられてしまうよな。それでは元も子もないだろう?」 今度はクラウスがエドワードに質問をする。 その疑問も当然だというように頷き、エドワードは続きを話す。 「勿論。犯人達をみすみす取り逃がすつもりはないさ。要求を呑むというのはあくまでもカモフラージュで、本当の狙いはテロリスト達の一斉逮捕にあるんだからな。だから逃走車には追跡用の発信機を付けるんだ。そうすれば態々追わなくても犯人達のアジトが分かるだろ。ここで少し問題なのが車を乗り換えられてしまう事だが。その心配はまず無いだろう」 「何故?」 ゲイルが質問する。それにニヤリと笑ってエドワードは答える。 「何故ならここが郊外の小さな町だから。車なんて乗り換えようにもそうそう無いだろうからな。更に、予め要所要所に人員を配置して逃走車の経路を把握するんだ。この時、監視人員は高い建物の屋上等で待機させる。こんな郊外で事を起こすって事は、アジトも案外近場にあると見て間違いない。追跡するのもそう難しくはないだろう」 「それでも、追っ手の目をくらますために態とグルグル逃げ回られたら大変だよね?そんな遠くまで追って行けるような追跡用の発信機があるの?」 続くゾフィーの質問にエドワードはよく気が付いたなと思う。 確かに、今までの軍にはそこまで性能の良い発信機は無かった。 が、つい1年程前に開発された発信機は、それまでの常識を覆す性能を備えていたのだ。 制作したのはケイン・フュリー曹長。この業績は大きく、軍での犯人追跡に多大な貢献をもたらしている。 ただ、大々的に公表されるようなものではない。というよりも機密に近い情報だけに、士官学校生であるゾフィー達が知らないのは当り前だろう。 そこら辺を突っ込まれると痛いなと思いつつ、エドワードは軽く受け流す。 「あるみたいだぜ。結構性能良いのがさ」 「そうなんだ。凄いねそれは」 ユージンが素直に感心すると、他の者も同じように同意している。 「で、続き話してもいいか?」 「あっ、ごめんなさい。中断しちゃったわね。続けて」 「いや、質問は当然だから気にするな。分からないことはどんどん聞いてくれ。偉そうなこと言ってどこかに穴があるかもしれないしな。それに続きって言っても、後は合流した犯人達をアジトで一網打尽にすればイイだけだ」 ニヤッと笑いながら肩をすくめるエドワードの仕種に笑みを誘われる。 口で言うほど容易い事ではないことはよく分かってはいるが、自信たっぷりの笑顔を見せるエドワードを見ていると、いとも簡単に出来そうな気がする。 本当なら憎らしく思ってもいいほどの状況なのに、エドワードの嫌味のなさがそんな感情を喚起させない。それどころか、年上のせいなのだろうか?エドワードの、自分達と違う考えや存在感に、どこか憧れのような気持ちさえ芽生えていた。 作戦をまとめ、意気揚々と発表したエドワード達の班の結果は惨憺たるものだった。 担当教官曰く。 『テロリストの要求を呑む事など軍上層部の許可が出るわけがない。作戦の前提条件に無理があるのだから、その後の作戦行動も全て無駄である』との事だった・・・。 そう。エドワードが立案した作戦は、拘束しているテロリスト幹部の釈放をするために、現場の指揮官の独断ではなく、軍司令部の許可を取る必要があるのだ。 当然といえば当然だが、犯人達の一斉逮捕の確信がない限り、どんな理由があろうとも要求を呑む事などありえないのだ。 お陰で、エドワード達の班の評価は最悪だった。 独創性という面ではダントツのトップだったが・・・。 「ごめんな。俺が余計な事言ったせいで皆の評価下げちゃったな」 謝るエドワードに、ウルリック達は笑顔で気にするなと答える。 「俺はエドワードの作戦好きだぜ。成功する可能性だって十分あると思う。要は、先生が言ってたように、話の分かる司令官が居ればイイだけの話だもんな」 「そうよ。大体、他の班の作戦なんて本当に軍の都合ばかりで人質の子供達の事なんて少しも考えてないじゃない」 「そうだよね。最初に俺達が考えたのと一緒で、要求を引き延ばすだけ引き延ばして、犯人達が疲れた頃を見計らって突入するとか言ってたところもあったけど、いくら疲れた頃って言ったって、犯人達だって交替で休んでるだろうから絶対に応戦されて戦闘になっちゃうと思うし。そうしたら子供達にも危険が及ぶのは目に見えてるよね。そうしたら人質の安全はどうなっちゃうんだろう?」 「本当にそうだな。今回のように実行犯が15人もいる時に安易な突入作戦は返って危険だとおもう」 「そうだな。俺もエドワードの案は間違ってないと思う」 「そっか?ありがとな。中々共感するのは難しい作戦だと思うのにそう言ってくれると嬉しいな」 本当に嬉しそうに満面の笑みを浮かべるエドワードに、ウルリック達はドキッと鼓動がはねる。 こんな笑顔が見られるなら、どんなに理不尽な作戦だって一緒に行動したくなる。 ウルリック達は皆がそう心で思っていた。 続々とシンパを増やしていくエドワードの誑しっぷりは衰えることを知らないらしい。 「少将、ハボック少尉とブレダ少尉から新たな情報です」 「3人目の被害者レオニー・ハーミットの件か?」 「はい。彼女は自宅通学をしていたのですが、送り迎えをしていた運転手に聞き取りをした結果、被害に遭う3ヶ月前から帰宅途中に寄り道をしていたそうです。運転手は彼女に口止めをされていたので、彼女の両親や仕事仲間にも言ってなかったそうなのですが、今回の調査にあたって話してくれました」 「それで、彼女は何処に立ち寄ってたんだ?」 「運転手が言うには、シティの中心にある繁華街だそうです。ただ、肝心の場所がどこかは分かりません。彼女はいつも少し離れた場所で車を止めるように言っていたそうで、運転手はそのまま車の中で待っていたそうです」 「決まった曜日だったのか?」 「仰る通りです。月曜日と金曜日に通っていました」 「3ヶ月の間に週2回って事は、最低でも24回は通い続けたって事だな」 「そうなりますね」 「つまり、学校内では無く外で薬物の授受をしていたってことか」 「ですが、今までの被害者を考えると外部犯ではなく内部犯の可能性が高いと考えられるのですが」 「そうだよな。ったく、前の時点でもっとちゃんと捜査しとけばこんなに苦労しなくても済んだのによ。本気で腹立つな。あのアホバカ少将」 「全くです。どうしてあんな方が少将位を持ってらっしゃたのか理解に苦しみます」 エドワードとホークアイにメタクソに言われている人物は、ラルフ・リヒターという40過ぎの少将なのだが、コレがまた典型的な金で地位を買って来たような、見るからに無能な男だった。 今回調査している事件が、特徴からして連続的なものだというのは明らかなのに、彼は個別に、しかも適当に捜査した揚句に何の手掛かりも発見できずに、事件を迷宮入りにしてしまったのだ。 この事態に納得できなかった学校側が軍へ抗議をしてきて初めて、この事件は公のものとなった。 つまり、被害者が全員士官学校の生徒である事。女子生徒である事。死因が薬物である事。 これだけの条件下で、2年の間に3人の女子生徒が被害にあっていた。 また、死体が発見された生徒が全て最終学年生だという事も共通していたのだ。 一人目は2年前の夏。家族とのバカンス中に突然失踪。2日後にセントラルの下町で死体となって発見された。 二人目は1年前の冬期休暇中に。川で水死体となっていたのを発見された。 三人目は1年前の春。卒業まで後一ヶ月という時に自宅近くの公園で死亡しているのを発見された。 この三人に共通していたのが前述のもの以外にもう一つあった。 薬物反応。 これだけの類似性があれば当然、同一犯による連続事件である事は明白だろう。 リヒター少将の捜査に不満を覚え、勇気を出して抗議してきた士官学校校長は温厚な人柄で、およそ軍人らしい所は無かったが、実直で人好きのする初老の准将だった。 この校長は2人目の被害者が出た時点で、連続犯の可能性を示唆し、嘆願書を何通も書いては中央司令部に持って来ていたのだが、その都度、件のアホ少将に放置されていた。 そして、もうすぐ今年度の卒業が間近に迫ったころ、必死の形相で何十通目になるのか分からない嘆願書を持ち込みに来た校長と、偶然司令部の受付を通りかかったエドワードが出会い、件の事件の経緯を聞き、事態を重く見て自らが調査に乗り出す事になったのだ。 その際、怒りに燃えるエドワードがリヒター少将への糾弾を行ったのは当然だろう。 だが、若くして少将位を得ているエドワードを憎々しく思っていたリヒター少将は、エドワード相手に命知らずにも知らぬ存ぜぬで通そうとしたのだ。 当然、そんな陳腐な言い訳がエドワードに通じるわけも無く、鋭く輝く金色の瞳でリヒター少将を竦み上がるほど追い詰めた。 更に悲惨な事に、この不始末を聞き及んだ大総統が激怒し、哀れでも何でもないが、当然の処分としてリヒター少将は少佐へと大降格された上に窓際部署へと更迭された。 彼が二度と伸し上がってくることはないだろう。 「とにかく、俺ももっと校内を調べてみるからさ、少尉達も彼女がどこに通っていたのかを探ってくれ。他の2人の件も同様に被害者周辺の聞き込みをしてくれ。皆も引き続き宜しく頼むな」 「「「「「「了解しました」」」」」」 全員が揃って返事をする。 一致団結して事に当たる時のエドワード率いる司令室の行動力には目を見張るものがある。 今回の件も次の犠牲者が出る前に阻止しようと必死になっているのだ。 5年生が卒業するまで後20日。 時間は限りなく少ないが、彼らは何が何でも遣り遂げるだろう。その為にエドワード自らが動いているのだから。 |
前回に引き続き、
無理だらけの作戦立案には目を瞑っていただけると嬉しいです;;;
ホントはもっと良い考えはないかと思ったんですが、
どうにもこうにも・・・・ムニャムニャムニャ(>_<)