「この場合の行動として適切だと思う作戦を班毎に検討して発表すること」


教官の指示に従って5人ずつに分かれた生徒達が其々作戦の検討に入る。
今回出された課題は、次のようなものだ。


●場所はセントラル郊外の小学校。
●全校生徒合わせても100人程度の小さな学校だが、その中で人質となっているのは
 中学年に当たる子供達で、その人数は5人。教師を合わせると6人となる。
●犯行グループはテロリスト集団『緋の団』で実行人数は15人。
●犯行目的は、拘束された組織幹部の解放。
●事件発生は昼の13時過ぎ。現在の時間は、発生から1時間が経過している状態。


これらの条件を考慮して、人質の解放を第一優先とした時、最善の作戦とは何かを探るのだ。
制限時間は1時間。
エドワード達の班も早速検討に入る。


各班はくじ引きによって決められているのだが、エドワードが編入したことにより、この班だけは6人で構成されていた。
頭数が多ければ出てくる知恵も増える。
増してやエドワードの頭脳が飛びぬけているのは皆の知るところだったため、同班の生徒達の喜びも一塩だった。
実際、同班のウルリックはあからさまに喜んで他班の生徒達からブーイングを浴びせられていた。
そんな様子を見てエドワードは時々思う。
彼らは本当にあと1年少々で軍人となれるのだろうか、と。
自分の事は棚に上げつつ、どことなく遠い眼をするエドワードだった。





「まず、犯人達の要求を呑むかどうかだけど、これは当然却下だよな」

「そりゃそうだよ。そんな事したら後から後から同じようなテロが起きてしまう」

「だとしたら、犯人達の要求を却下した場合、人質の生命は保証されるのか?」

「要求を呑んだふりをして隙をつくって逮捕すればいいんじゃない?」

「でも、要求を呑んだふりをするっていっても、実際に彼らのリーダーを連れて来て本人だと確認できない限り人質を先に解放するはずないわよ。それはどうするの?」


早速作戦検討を開始したエドワードの班の生徒達―ウルリック、クラウス、ゲイル、ユージン、ゾフィー。
彼らの会話は一見馬鹿らしいほど当たり前の事だが、その当たり前の事を口に出して問題点や解決策を見出すのは作戦立案の際の鉄則だった。
どんなに些細で馬鹿げた事実確認でも、全員が同じ認識を持っていないと齟齬が生じるのだ。それを防ぐための初歩的だが重要な手順。彼らはそれを良く知っており、且つ実践している。
まあ、実際の軍での作戦立案となるとまた違ってくるのだが。それはこの際関係無い。
あくまでも授業の一環なので基本を守るのは当然なのだ。
どんなにまどろっこしく見えたとしても、これらを数多くこなして行くことで視野を広げるのが目的なのだから。
だが・・・机上の空論だけでなく実践する必要はあるな。
彼らの議論に耳を傾けながら、そうエドワードは思う。





「よし、大体の付きあわせは終わったな。次は作戦の組み立てに入ろう」


ウルリックが中心となって作戦を立てていく。


「まず、投入する人員は60人。犯人達の4倍で良いな」


ウルリックの質問に首を縦に振る事で全員が同意を表す。


「次に、人員の配置だが、学校の周囲にある出入り口は正門と裏門の全部で2か所。正門には20名、裏門には10名の突撃部隊を配置する。その他左右の塀沿いにも5名ずつ巡回人員を配置。小さい小学校だからこれだけ配置しておけば漏れはない筈だ。他10名は狙撃部隊として学校の四方を囲むように配置。残り10名は通信・伝令人員とする。犯人との交渉役にはその場の責任者が当たる。ある程度の地位がある軍人相手でないと犯人達は交渉に応じないと考えられるし、また権限も無いだろうからな」


ウルリックの言葉には些かの淀みも無いく、聞いている者達にもその作戦は浸透し理解されているようだった。


「まず犯人側の要求を呑み、リーダーを連れてくると言って作戦準備の時間を稼ぐ。勿論、そんな事は本当にはしないけど。次に、当然逃走用の車を要求してくるだろうからこれを準備する。人質の命を守るためにこちらが手も足も出ない事を納得させる必要があるからだ。これらの交渉をしている間に内部の様子を観察しつつ裏口に人員を集めて突入体制を整える。陽が落ちて視界が暗くなってきた時を見計らって、リーダーを乗せたと想定した護送車を到着させる。この時には奴らにも隙が出来るだろう。そうして正面入口に犯人達の視線を釘付けにして、実際には裏口の部隊が一斉に突入をする。校舎は平屋建てだし目的の教室は幸いにも裏口からは死角になっている。静かに行動すれば気付かれることはないだろう。裏口や教室の周囲には見張りが立っているだろうけど、サイレンサー銃で仕留めれば問題無い。この時点で、上手く行けば5〜6人の排除に成功するはずだ」


ウルリックの説明にうんうんと頷くゾフィー達の顔は真剣そのものだ。
この作戦は悪くない。多分実際の現場でもこの案が採用される可能性は高い。
だがしかし、気が付いて欲しい。この作戦には優しさが欠けている事に。


作戦の立案に積極的に介入しなかったエドワードは、冷静に彼らの力量を推し量っていた。
ここには任務で来ているのだが、折角の貴重な機会だ。軍人となる若い彼らの実力を知り、伸ばすことが出来れば一石二鳥というものだろう、とエドワードは考えていた。
ま、そんなに偉そうなこと言えたもんじゃないけどな、と苦笑しながらだったが。


若そうに見えても、実際は経験豊富な軍人であるエドワードは自分の実力を過大評価しない。
自分なりにその時その時で出来る最善を尽くしてきたつもりだが、勿論失敗だってあったし後悔していることだって少なくはない。だが、それに怯んでいては何も出来なくなってしまうのだ。
だからこそ彼らにも知って欲しい。人間は生きているのだという事を。
決して紙の上で語るような駒ではない事を。


ウルリックの説明がほぼ終わったころ、それまで沈黙していたエドワードが口を開いた。


「ちょっとイイか?疑問があるんで質問したい」

「良いよ。どこか分からないところがあったか?」


気を悪くするでもなく、ウルリックがエドワードに答える。


「突入想定時間は事件発生から何時間後なんだ?」

「陽が落ちてからだから、夕方の6時から夜の8時位の間になると思うけど」

「つまり、事件発生から5時間から7時間が経過している頃という事だよな」

「そうなるね」

「それは本当に正しい時間か?人質になっているのは小さな子供たちなんだぞ。そんなに長い時間犯人達と一緒に居たらどんな恐怖を味わい、怯えていることになると思う?」

「それは・・・・」

「それに、そんなにも長い時間引き延ばしが成功するとは思えない。犯人達は人質というジョーカーを持っているんだ。もし、引き延ばしている時間を不審に思った犯人達が人質の子供達を手に掛けたらどうするつもりだ?」

「・・・・・っっ!そんなことっって・・!」

「絶対にないとは言い切れない筈だ」

「・・・・・・・・・」

エドワードの指摘にウルリック達は返す言葉が無い。
確かに言われてみればその通りだ。
人質になっているのは8歳から9歳の子供達だ。
そんな幼い子供たちが、銃で武装したテロリスト達と何時間もいて、正常な精神状態を保てるかと言われれば、否。と言うしかない。
もしこれが成人した大人でも辛い状況だ。幼い子供達なら尚更だろう。
そして、考えたくもないが、エドワードの言うように見せしめとして子供達が殺される可能性もありうるだろう。





「そうか・・・。そうだよな。子供達を危険に晒すわけにはいかないよな。どうしてそんな当たり前の事に気が付かなかったんだ、俺達」

「でも、だとしたら突入時間はどうしたらいいんだろう?昼間の明るい時間帯には敵の目を欺きつつ突入するなんて出来ないだろ?」

「そうよね。だとすると突入案自体が駄目になるんじゃない?」

「って事は、他の代案を考えなきゃいけないって事だよね?」


エドワードの鋭い意見に指摘されるまで人質の子供達の危険な状態を深く考えていなかったことを恥じるようにゲイルが口を開くと、クラウス、ゾフィー、ユージンら班のメンバー全員が一斉に考え込み、最善の案を検討し始めた。
そんな彼らの様子にエドワードは笑みを浮かべる。


反発してもおかしくなかったのだ。
それまで大して作戦の立案にも参加しなかったくせに、反論までされたのだ。そんなエドワードを不快に思っても無理はなかったのだ。
それなのに。


彼らは良い軍人になるだろう。エドワードはそう思う。
たったこれだけの事でと思うかもしれないが、たったこれだけの事が出来ない軍人がどの位居ることか。
人の意見を聞かずに独断で周囲を動かし、出世していく軍人も、勿論いる。
だが、そういう軍人は仲間から絶対に信頼されない。
部下を捨て駒にして自分の利益しか追い求めないような人間になどついて行けるわけがないのだ。
だが、この5人は違う。
彼らは人の意見を素直に聞き入れることが出来、尚且つ間違いを認めることが出来る人間だった。こういう者たちこそが、本当の意味で良い軍人となれる。
仲間からも国民からも信頼を得ることが出来るだろう。

































「結局、少将達の班はどのような作戦を立案したんですか?」


興味津々といった表情で聞いてくるハボックに、エドワードは、「おう、それがな」と話しはじめ、終わる頃にはハボックだけではなく、その場に居た部下全員に苦笑された。


「それ本気で提案したんですか?」


溜息をつきながら確認するロイに、エドワードは「そうだけど?」と答える。


「もう少しどうにか策は無かったんですか?大体、そんな案教官が認めてくれるわけないですよね?」

「あっ、やっぱ分かるか?」


バツの悪そうなエドワードの表情に、ロイ達は何とも言い難い顔をする。
そりゃそうだろう。なんと言ってもエドワードが提案した作戦はあまりにも無理があったのだから。


「なんだな、士官学校の教官っていうのはもう少し寛大で柔軟な対応が出来ないと駄目だな」

「それは無理というものでしょう。普通そんな作戦実践に於いたって中々実行できないですよ」

「でもな、そうしなきゃ子供達が大変な事になるだろうが」

「それは分かりますが。そういう事ではなく、その作戦にGOサインを出せるのは、少将みたいな上司がいなければ無理だという事です。良くも悪くも規律と上下関係に厳しい軍では最も難しい作戦だと言わざるを得ません」


部下たちに揃ってうんうんと頷かれて、エドワードは褒められてるんだか責められてるんだか分らなくなり、首を竦めて小さくなる。
そして今日の授業を思い返して思ったことは、まあ、確かに常道からは外れた作戦ではあるかもな・・という事だった。









 



文中の作戦に多大なる無理があるのは承知の上です;;;
そこは無知な奴と笑って読み流していただけますよう、お願いします〜〜〜(>_<)