士官学校に在籍している生徒達は、基本的に皆寮暮らしをする事になっている。 学校は5年制で、主に軍人としての基本を学び体力を付ける最初の3年間と、士官としての資質を伸ばすための2年間とでカリキュラムが構成されている。 故に、最初の3年間はどんな理由があろうとも、必ず全員が寮に入る決まりとなっており、これに違反すればどんなに実力のある将軍の身内であろうと入学は取り消され退学となる。 何故このような規則があるのかと問われれば、それは軍という縦社会に於ける従属と服従。そして仲間への信頼と規律を徹底させるために必要なものだとされているからだ。 3年間の寮生活を終えたのち、そのまま継続して寮に残っても何ら問題はない。 というよりは、通常はそのまま寮生活を続ける生徒が圧倒的に多い。 極稀に、自宅からの通学を選択する生徒もいるが、それは本当に少数に限られ、その殆どが裕福な家庭の子供たちばかりだった。 その数少ない自宅通学組の中に、先日転入してきたばかりのエドワード・ロックベルも含まれていた。 一瞬でエドワードに魅了された生徒達は、寮でもエドワードと一緒に生活できるのだと狂喜乱舞したのだが、蓋を開けてみれば何の事はない。 期待を裏切られた彼らは肩透かしをくらい、心から落胆したものだ。 エドワードがセントラル中央士官学校に転入して3日が経過していた。 その短い期間に、同じクラスの生徒達は勿論、他クラスの生徒達の間でもエドワードは既に広く知られるところとなり、無意識に放つオーラと煌びやかな容姿で周囲を虜にしていた。 殆どの生徒がエドワードに好意的で、友達になりたいと切望している側らで、その存在を快く思わない者達も居ないわけでは無かったが。 「おはよう、エドワード。今日は少し遅かったな」 「おはようリック。途中で知り合いに会っちゃってさ、つい話し込んでたら遅くなっちまった」 「知り合いって。お前車で来てるんじゃないのか?」 息せき切って教室に駆け込んできたエドワードに挨拶しながら、その内容に首を傾げたウルリックは思ったままに疑問を口にする。 通学組は、全員と言っていいほど皆車通学だった。当然、エドワードもそうだろうと思っていたのだが。返ってきた答えは意外なものだった。 「えっ、俺歩きだぜ。車なんか使ってないって」 「歩きっ?えっ、どこから通ってんだエドワード。家ってそんなに近いのか?」 「そうだなぁ・・ここからなら1時間ってところかな」 「1時間!そんなに掛かるのに歩いてきてんのか?」 「ああ。丁度いい運動になるからな。歩くって言うよりランニングしてるかも」 はははと笑うエドワードにウルリックは脱力する。 普通の生徒は朝から1時間も歩いて登校はしない。馬車、または裕福な家庭の生徒なら車。 そうでないならば寮で生活すれば良いのだ。そうすれば通学時間は5分で済む。なんといっても学校の敷地内にあるのだから。 この3日というもの、エドワードには何度も驚かされたが、これもまたその一つに数えられるだろう。 エドワードによってもたらされた波紋は日々広がりを見せ、その行きつく先が見えないのではと思われた。 まず誰もがその容姿に驚愕し、次にその驚異的な頭脳に感嘆した。 そして、極めつけがその年齢だった。 それは何気ない会話の中で発覚した。 普通、士官学校に通っている生徒達の年齢は、殆どが15歳から20歳までの若者で占められている。 何故なら、入学できるのが15歳からだからだ。 そして5年間の就学期間を考えると、ウルリック達4年生の生徒たちなら19歳となるのだが、エドワードは彼らよりかなり年上だったのだ。 士官学校は入学できる期間が15歳から20歳までと決められている。 と、いう事は。 滅多にない事だが、同級生でありながらその年齢差は最大で5歳になることもある。これはこの年代の若者にしてみれば精神的にも身体的にもかなりの違いだろう。 そして、エドワードはその最年長に当たる年に入学したそうなのだ。 つまり24歳という事になる。 ――――――――――――――――― 全っ然見えない!!!!! この事実が発覚した時、その場に居た者が全員目を見開いて驚愕し、口々に嘘だっ!嘘だっ!と騒ぎまくった事は記憶に新しい。 確かに、時々余裕のある大人っぽい表情をする事はあるなとは思っていたが、普通に接している時は、その口調や性格、そして見た目だって自分たちと同じ。下手をすれば2・3歳年下に見えるのに・・・・・・。 あまりに驚かれるので、反対にエドワードの方がビックリしていた。 『俺そんなに若く見えるか?』 少しだけ複雑そうな顔をして問うていたエドワードに皆一様に首肯すると、 『そっか・・・・・はははは・・・・・はぁぁ・・・』 と、なんだか情けなさそうな表情を浮かべて溜息をついていたのは何故なのだろう。 未だ明かされていない秘密がそこにもあるのだろうか。 年齢が分かった途端、エドワードに敬語を使い始めた者もいたが、同級生なんだからそんな事気にするなとエドワードが止めさせた。まあ、見た目で言えば同級生にしか見えないのでその方が助かるといえば助かるのだが。 それにしても・・・・・一体どれだけの謎をその内に秘めているのだろうか、この風変りで魅力的な同級生は。 「通学前に申し訳ありません。緊急に決済して頂かなければならない書類が入ってしまったので」 「ああ。時間はあるから大丈夫だ。で、どれ?」 「はい、こちらです」 「ああ、確かにこれは少佐たちじゃ処理できない案件だな。ちょっと待ってくれな。・・・・・よし、これで良いだろう。じゃあ俺はもう行く。この他の書類はまた今夜にでも目を通すから俺の机の上に置いておいてくれ。例の件の報告も合わせて聞かせてくれよ」 「了解しました。少将、よろしければ車で学校の近くまでお送りしますが」 「いや、近くまでとはいえ軍用車で乗り付けて目立ちたくないから遠慮しとく。でも、ありがとな、中尉」 軍用車とはいえ、今日ホークアイが乗って来たのは普通車と変わらないものだし、どちらかといえば徒歩で通学している方が目立つと思うのだが・・・・。 エドワードはそこに居るだけで目立つ。 だが、本人にあまりその自覚がないため、何を言っても相手にされない。 部下の心上司知らずとばかりに、ホークアイの申し出をやんわりと断ったエドワードは急いで家を出る。 早くしないと始業に間に合わなくなってしまう。学生は遅刻してはいけないだろう、やっぱり。 |