「よ、お帰り。リック。随分遅くまで頑張ってたな」

「・・・・ああ。ただいま。クラウス」


出迎えてくれたクラウスにどこか上の空で応えるウルリックに、クラウスは首を傾げる。


「どうしたんだ?リック。何か顔色悪いけど」

「ホント。どうしたの、リック?」

「気分でも悪いのか?」


つい今し方耳にした情報が信じられず、どうしたらよいかと思い悩んでいたのが顔に出たのだろう。同室のクラウスやユージン。それに、クラスは違うが寮の部屋が同室のヤン・クリューガーが、様子のおかしいウルリックを心配して声を掛けてきた。
本気で心配そうな顔をしている彼らを見て、自分が如何に酷い顔をしているのかが分かる。
どうしよう。彼らに相談してみようか?だが・・・。
黙り込んだままウルリックが悩んでいると扉がノックされる音がした。点呼の時間だ。
こうなったら先ずは優先順位は決まっている。「はい」と返事をしたウルリック達は、全員で扉前に整列した。


この後は消灯だし、他クラスのヤンもいる。先程聞いた話を相談するのなら明日。クラウスとユージンにすべきだろう。
点呼を終え、尚心配そうにしているユージン達にちょっとボーッとしてたと下手な言い訳をして、ウルリックはその場を遣り過ごした。
談話室で密談していた彼らも明日また詳しいことを話そうと言っていたし、直ぐにどうこうということもないだろう。自分の中でももう少し整理を付けて、その上で相談してみよう。
そう決心したウルリックは、怪訝そうにするユージン達を尻目に早々にベッドに入ったが、頭の中で様々な事柄がグルグルと渦巻いてしまい中々寝付けなかった。












「で、一体何があったんだよ?」

「そうだよ。早く言ってよ、リック!」


翌日、眠れなかった割に早く目が覚めてしまったウルリックは、何かを感じ取っていたのか、同様に早起きしたクラウスとユージンに捕まり、朝食を食べるのもそこそこに連行された。
2人に連行されながらウルリックは、やっぱりバレバレだったかと苦笑する。
まあ、あれで誤魔化されるようでは将来軍人としてやっていけるわけがない。
クラウス達が、抵抗もせずに引き摺られているウルリックを連れ込んだのは、校内でも人気のない場所ナンバー1の生徒指導室だった。人に聞かれては拙いことだと判断したのだろう。
この場所には、当然ながら常駐している教官は居らず、朝一番で指導される生徒もいない。自ら進んでここに来る生徒も当たり前だがいないので、何時でも人気はない。
つまり、秘密の話をするには打って付けの場所だと言うことだ。
机が一つと椅子が二つ。必要最低限の物しか置いていない殺風景な空間に男3人が角突き合わせている姿は少し異様だったが、本人達にしてみれば真剣そのものだった。


「実は・・・・」


元より2人には相談しようと思っていたのだ。真剣な顔で詰め寄られたウルリックは、勿体付けずに昨夜自分が見聞きした事の次第を話し始めた。


「それってエドのことを中傷してるんだよね」

「まあ、間違いないだろうな」

「でも、どうして!」

「それは・・・。あいつらじゃなきゃ分からない理由があるのかもしれないけど」

「どんな理由があったって人を傷つけて良い理由になんかならないよ」

「そうだよな」

「しかも、話を聞いてると中傷だけじゃなくて暴力に訴えそうな感じもするよ。エドが怪我でもしたらどうするのさ」

「今のところそこまで具体的には計画してる訳じゃ無いと思うけど、やっぱり危険だよな・・・」


ユージンと話してる内に段々と不安になってきたウルリック。その不安が伝わったのか、ユージンも心なしか青ざめた顔をしていた。


「なあ、これってエドにも知らせた方が良いんじゃないか?」


それまでユージンとウルリックの遣り取りを静観していたクラウスが、至極真っ当な意見を口にする。
いくら自分達がここで心配していても仕方がない。不穏な計画を立てている本人達に直接ぶつかるという手もあるが、知らぬ存ぜぬで通されればそれまでだ。四六時中エドワードに張り付いていられるわけでは無いのだから、もし仮に彼らが実際に決行したとしたら完璧に止める手だては無い。
それならば、狙われているだろう本人。エドワードに事の次第を語って聞かせ、一緒に対策を立てた方が良いに決まっている。
場合によっては教官に相談する必要もあるだろう。ただ、そこまで話を大袈裟にしてしまうと、エドワードを中傷している彼らの将来にも係わってくる。もしかしたら鬱憤が溜まっているだけで、実際には何も行動に移さない可能性だってあるのだから。


「そうだな」

「そうしようよ!もしかしたら何もないかもしれないけど、用心にこしたことはないよ」

「本当は俺達がさり気なく守れれば良いんだけどな。そうもいかないだろうからな」

「エドにはあいつらの名前は伏せておいた方が良いかな?」

「出来れば伝えたくはないけど、もしものことがあった時に誰がその相手なのか分からなかったら対処の仕様がないよ」

「やっぱり伝えるべきだな」


ウルリック、ユージン、クラウスと順に発言していき、ドンドン話は進んでいった。
やっぱり相談して良かった。お節介にも見える友人達の気遣いに、ウルリックは感謝した。自分ひとりだけではここまで早く解決策を導き出し、且つ行動することは出来なかっただろう。
気が置けない仲間の存在が何よりも有り難い。


「よし、じゃあ今日早速エドに伝えよう。大袈裟にする必要は無いけど、もし万が一何かあっても良いように一緒に対策を考えよう」


事態が好転したわけではないし、自分達の友人がもしかしたら被害者にも加害者にもなってしまうかもしれないという不安はあるけども、自分達なりの対策が見い出せたウルリック達は少しだけ気持ちが浮上した。だが、出来れば何事も起こらず、自分達の取り越し苦労であって欲しい。
ウルリック達は思いの外長居してしまった生徒指導室からこっそりと出て、そろそろ増えてきた他の生徒達に紛れて教室へと向かった。

























「で、どうだった?ハボック少尉」


一頻り笑って和みながらお茶を飲んだ後、徐ろにエドワードがハボックに話を振る。


「首尾は上々です。相当な額の金を貰ってたみたいで、2人とも最初は中々話してくれなかったんすけど、多数の被害者が出てる現状を説明してこれ以上の被害を出したくないんだと伝えたら思い直してくれました。バッチリ聞いてきましたよ」


ニヤリと得意げな顔を浮かべるハボック。先程までの情けない表情とは打って変わって軍人の不敵な面構えになっている。こうでなくては。


「まず、最初の被害者のマリーア・フォン・シュナイダーですが、運転手によると彼女もやはり下校中にシティへと寄り道をしていたそうです。ただ、レオニー・ハーミットの様に回数は多くなかったようです。7月の初旬から始まった週2回のシティ通いですが、途中で夏期休暇が始まったために、亡くなる8月中旬までの間に僅か5回行っただけのようです。運転手は彼女とは学校の行き帰りだけの付き合いだったので詳しくは分からないようでしたが、彼女は最終学年に進級する少し前から元気がなくなり、そのまま状態が変わることなく亡くなったそうです。運転手によると、シティに行き始めた7月頃から更に顔色が悪くなり口数も目に見えて減っていったそうです。また、夏期休暇前には登校するのも嫌がる素振りをするようになっていたそうです」

「サビーネ・グートシュタインは?」

「はい。彼女もやはりシティへと通っていました。マリーア・フォン・シュナイダーとは少し時期が違って、10月初旬から亡くなる12月中旬までの間にやはり週2回。計19回ほど通っていました。彼女の場合は夏期休暇明けから暗い顔をするようになり、亡くなる直前の頃には痩せ細っていたそうです。実際、彼女が死体となって発見されていた当時の体重は35sしかなかったそうです。元々は45sあったそうですから10sも減ったことになります。そんな彼女を毎日見ていた運転手は、一度ならず薬物の可能性を考えたと言っています。勿論、重大な悩み事を抱えて食欲がなくなったのかもしれないとは思ったそうですが、最終的に彼女が薬物反応を残して亡くなったことで自分の推測に確信を持ったと言っていました」

「そして3人目のレオニー・ハーミットが冬期休暇明けから春までの間って事か」

「見事に時期が休暇毎に分かれてますけど何か意味があるんすかね?」

「あるかもしれないしそうでないかもしれない。もし今現在も4人目が何らかの被害を受けているとしたらレオニー・ハーミットとほぼ同じ時期に重なることになる。だとすれば法則はなく偶々だったのかもしれない。マリーアからレオニーまでの間に徐々に増えているシティ通いの回数も何か意味があるのかもしれない。何れにせよ彼女達の背景を知る必要がある。ブレダ少尉、ファルマン准尉、過去の被害者達の背景はどうだった?」

「俺達は二手に分かれて調査しました。俺がコーエン准尉の事件背景とダグラス大佐の周辺調査を担当し、ファルマン准尉が憲兵養成学校の被害者達の事件背景と学校時代の様子を調査しました。それぞれの被害者家族への聞き込みも同様です。先ずはファルマン准尉から報告します」


ハボックの報告を真剣な顔で聞いていたブレダが直ぐさま反応した。ファルマンも同様である。
エドワードの視線に促されて、ファルマンは自分が調査した結果を淡々と報告し始めた。


「憲兵養成学校の被害者達は全員が軍及び憲兵関係者の親を持つ生徒達ばかりでした。彼女達の学校での成績は皆中程度でしたが、憲兵としての資質に不足はなく、皆真面目な生徒達だったようです。また、在校時の学友に聞いたところ、ハボック少尉の報告にもあった今回の被害者3名と同様に、亡くなる直前は溌剌とした様子は形を潜め、頻繁にカウンセリング室に通ったり、思い悩むような姿が頻繁に見受けられていたそうです。次に、ご存じのように憲兵養成学校の生徒達は士官学校とは違い自宅通学者が多く、寮生活者は少ないです。その中で、被害にあった生徒達は全員が自宅通学者でした。登下校寺に車を使用する生徒は殆ど居らず、被害者達も徒歩での登下校をしていました。その為下校中のシティへの立ち寄りはあったのかどうかハッキリとは確認できませんでした。只、時折制服を着た少女達がシティ近辺を歩く姿を目撃したという証言は複数の市民から得られました。士官学校も憲兵養成学校も、外出時の制服着用は義務付けられているため特に目立っていたわけではないようでしたが、それでも少し不思議に思っていた市民は多数いました。そんな目撃者達に彼女達が何所へ立ち寄っていたのか聞いてみたのですが、その時々で場所が違っていたようで、証言は多岐に渡りました。犯人、もしくは犯人達も特定の場所に居続けるという愚行は冒さなかったようです。最後に、彼女達の家は特に裕福というわけではありませんが、事件当時全員の父親もしくは母親が、軍や憲兵司令部の大佐以上の地位に就いていたことも確認できました。彼女達の両親や兄弟姉妹に直接話を聞こうとしたのですが、殆どの家で門前払いをくらいました。何とか少しだけ話を聞けたのは最初に被害にあった少女の妹で、姉が何故あんな死に方をしたのか解き明かして欲しいと訴えてました。ただ、彼女は姉の死の詳しいことは知らないようで、事件の解明に繋がるような話は聞けませんでした。その他の詳しい報告はこちらにまとめてあります」


長い報告を一気に語ったファルマンが一日で作成したとは思えないほど分厚い報告書をエドワードへと提出した。恐らくエドワードに命令される前から自主的に調査していたのだろう。何と言っても資料や報告書を調べたりまとめたりするのは彼の得意中の得意である。


「サンキュー、ファルマン准尉。流石だな」

「恐縮です」


照れくさそうに謙遜するファルマンを見て、自分が指示した以上の成果を上げる優秀な部下に、エドワードは最高の笑顔を見せる。
ファルマンだけでなく、ロイやハボック、アームストロングにホークアイ、ロスやフュリー、自分の部下達の際立った能力や熱意には何時でも頭が下がる。
滅多に口には出さないが、エドワードは彼らに心からの信頼を寄せているし、感謝の気持ちを何時でも抱いている。自分ひとりで出来ることなど高が知れているが、彼らの協力があれば何でも出来るような気がするのだ。
いや、気がするのではなく、実際数多くの困難を一緒に乗り越えてきた。今回も大丈夫。
決して楽観しているわけではないが光明が見えてきたことをエドワードは強く感じた。


さて、後はブレダの報告を聞いてみなければ。
単なる勘だが、彼の報告が今回の事件の鍵を握っているように感じるのだ。
そして、エドワードの勘は外れたことがない。


全員で取り組んできた事件の全容が徐々に明らかになっていく手応えに、エドワード同様、皆気が付いていた。もうすぐこの事件は解決する。それは最早確信に近い予感だった。
そして、その予感を感じさせているのは、誰あろうエドワード・エルリック少将その人なのである。
















 





前回の予言(?)通り、年明けてからの更新となりました;;;
毎回毎回お詫びしてますが、本当に更新亀で申し訳ありません(>_<)
そして、今回は会話というか台詞が多くてこれまた読み辛かったらすみません;;;
特にファルマンの報告長っ!
でも、必要な部分ですのでご容赦を!
次回はブレダの報告と事件の概要が少しだけ明らかになると思いますv
一日どんだけ長いんだよという感じですが、もう少しお付き合い下さいね☆


ではではv


2011/01/19