セントラル中央士官学校の敷地内に建てられている学生寮は、男女別棟で左右対称。 全く同じ大きさで建てられている。 士官学校といえば、男子生徒ばかりのように思っている者も多いだろうが、意外なことに、 士官学校に所属する生徒の男女比率は6対4でほぼ同数。更に、彼らが将来軍属になったときの希望部署も、男女内で文官武官ほぼ同数。 国の中枢を支配しているのが軍部だということもあるが、周辺諸国と比較しても、アメストリスは男女差による職差がない希有な国といえた。 学生寮は5階建てで、派手さはないが、どっしりとした落ち着いた風情の鈍色の外観をしている。 1階に食堂や談話室や浴場、図書室や自習室、簡易室内訓練場などがあり、2・3階と4階の半分が1年生から3年生までの部屋。4階の半分と5階が4年生と5年生の部屋となっている。 因みに、3年生までは4人部屋で、4年生以上は2人部屋となっている。 常に団体での行動が重視される軍に於いて、個室などは望むべくも無い。 規律は厳しく、起床時間から就寝時間、食後の自由時間や門限などが細かく定められており、寮内の清掃も全部ではないが生徒達が当番制で行っている。当然ながら、違反者には罰則が与えられるのだった。 こう聞くと何やら窮屈そうで嫌気がさすが、実際に生活してみると、案外快適だった。 起床時間は朝6時と早いが、学校の授業開始時間が早いのだから当然のことだし、原則週末以外の外出は禁止されているのだから門限があっても苦にならないし、就寝時間を過ぎても部屋の中に居さえすれば特に問題はない(部屋の灯りはスタンド以外消さなければならないが)し、自由時間は夕食後の3時間と意外に長く、各々が好きに過ごすには十分な時間があるからだ。 厳格な規律があることで、時間を有効に使うスキルが身に付く上に、健康的な生活も出来るのだった。 しかも、男女別棟の学生寮だが、門扉から寮までの間にある中庭などは男女共有で使用することが出来るの。人目があるので、特定の相手と親密に過ごすのは難しいが、多少の潤いを感じることは出来るのだ。 結果として案外楽しい寮生活をおくることが出来るのだった。 そんな生活の中での最大の不満といえば、やはりプライベート空間が確保できないことだろう。 部屋は共有で決して広いとはいえないし、唯一1人になれるのがトイレでは、若い生徒達の不満も分かる。だが、それもコレも軍人になるための第一関門だと耐えるしかない。 だが、卒業して晴れて軍人となった時、彼らは知るのだ。 士官候補生時代が如何に恵まれていたのかを。 それ程に過酷なことなのだ。国と民を守ると云うことは。 消灯まで後30分弱となったところで予習を切り上げ、自習室から5階の自室へと戻る途中、ウルリックは談話室の少しだけ開かれた扉から漏れ聞こえた会話に足を止める。 室内から聞こえる声から推測するに、恐らく3名ほどの人物がいるようだった。時間が遅いせいか彼ら以外の生徒は居ないようで、小声ながらも物騒な会話をしているのが聞き取れた。 「大体、最初から気にくわなかったんだよ。ちょっと見てくれが良いくらいで調子に乗るんじゃねぇってんだよ」 「おまけに頭の出来が少しばかり良いからって人を小馬鹿にしてるのもムカツクしね」 「頭が良いっていっても教官にダメ出しされるようなアホな作戦立てるくらいだからな。大した事ないさ」 「確かにな。おまけに運動神経もすげぇ鈍そうだしな」 「言えてる!最高だったよね、地面に倒されたあの無様な姿っ」 「射撃の腕も最悪だしな」 「段々と化けの皮が剥がれてきたんじゃねぇのか」 「そうかもね。いい気味だよ」 「なあ。ちょっと痛い目見せてやらないか?」 「面白そうだな。乗ったぜ、その話」 「良いね!そうこなくっちゃ!」 「じゃあ、計画を練ろうか」 少し乱暴な話し方をする人物と、少し高めの声で少年のような話し方の人物、冷めた感じで皮肉っぽい話し方をする人物。ウルリックは彼らの事をよく知っている。 同じ学校で同じ寮に生活しているのだ。知らないわけがない。 だが、ウルリックの知っている彼らはこんな事を言うような人物だっただろうか? 彼らが話題にしている人物のことは嫌でも分かる。だが、何故そんなにも憎々しげに彼のことを語るのだろうか? 扉の前で呆然と立ち竦んでいたウルリックを正気付かせたのは、消灯25分前を告げるチャイムだった。このチャイムが鳴ってから5分後に点呼が始まり、全員が自室へと戻っていなければならないのだった。同室の者が1人でも揃わないときは全員に罰則が科せられるのだ。それだけは回避したい。 我に返ったウルリック同様。談話室の人物達も会話を打ち切り、自室へと戻ることにしたようだった。 「仕方ない。詳しい話はまた明日しようぜ」 「分かった」 「了解」 彼らの動く気配に、ウルリックは慌ててその場を離れる。 どうにか音を立てずに2階へと続く階段とは逆方向へと向い身を潜めたウルリックは、談話室から出て来た人物達の姿を確認する。ウルリックに気付くことなく階段を上っていく彼らは、ウルリックが思っていたとおりの生徒達だった。 胸の中にモヤモヤした複雑な思いを抱えたまま、ウルリックは自室へと戻る。 彼らがどこまで本気なのは分からないが、さっき聞いた話をそのまま放置することは出来ない。どうしたらいいのだろう。 足取り重く階段を上るウルリックは、思わず重い溜息をついた。 「ハボック少尉、只今戻りましたー。って、何でみんなでお茶してんすかっ!」 南部での聞き込み調査を終え、疲れながらも意気揚々と帰ってきたハボックの目の前に広がっていたのは、エルリック少将をはじめ司令部の面々がのんびり優雅にお茶を飲んでいる姿だった。しかも、よく見るとおやつまで食べているではないか。 あれは鯛焼きか? 「よう!お帰り。ハボック少尉。ご苦労だったな」 と、鯛焼きらしきモノを頬張りながらエルリック少将。 ともすれば間抜けそうに見えるその仕草も、何故かこの人は様になる。 美味しそうに食べる姿はとても幸せそうで、見ている方が嬉しくなるような微笑みだった。 「お疲れ様でした。ハボック少尉」 と、お茶を入れるために立ち上がりながらロス少尉。 「おお、ご苦労だったなハボック少尉。ささ、こちらに来て一緒に鯛焼きを食そうではないか」 と、満面の笑みを浮かべながらアームストロング少佐。 皆からの挨拶にそれそれ律儀に返事をしながら、アームストロング少佐の言葉に、やっぱりアレは鯛焼きだったのか等と、ハボックが1人で納得していると、 軽いノックの音と同時に司令室のドア開かれ、ブレダ少尉とファルマン准尉がドカドカと入室してきた。 そして、当然のことながら扉の前で立ちつくしていたハボックにドアがぶつかり、ガツン!と派手な衝撃音が奏でられた。 「ブレダ少尉、ファルマン准尉、只今戻りました。って、何だ今の衝撃と音は?」 手に伝わる衝撃と破壊音にブレダが首を傾げると、司令室の中から笑いが起こった。 不思議に思ったブレダが扉を手前に戻すと、そこには頭を抱えて踞るハボックの姿があった。 ああ、こいつにぶつかったのか。何でこんな所に居るんだこいつ? ブレダが不思議に思っていると、踞ったままのハボックからの猛抗議が始まった。 「痛ってー!何すんだお前」 「何すんだって。ドアを開けただけだ」 「気をつけて静かに開けろよ!危ないだろうがっ」 「何言ってんだ、お前。そんな所に突っ立ってるのが悪いんだろうが」 「うるせーな。ほっとけよ」 痛む頭をさすりながら上目遣いで文句を言ってみたものの、自分の分が悪いのは明らかなので、反論も何となく不発だった。 畜生ー悪いのは俺じゃない!呑気に鯛焼きを頬張っていた少将が悪いんだ! 涙目のまま悔しさを直接本人に告げられず、心の中で少将を罵倒するしかない気の毒なハボックだった。 「おーい、ハボック少尉。何時までも遊んでないでこっち来て一休みしろよ」 ハボックが踞っているうちに、いつの間にかブレダとファルマンはそれぞれの席に着き美味しそうに鯛焼きを頬張っていた。なんて薄情な奴らなんだ。 「別に遊んでないっす!!」 「美味しいぞ〜鯛焼きv食べないのか?」 悶々とした気持ちを抱えていたところに無慈悲な将軍様から理不尽な言葉を掛けられ、思わず反抗してしまったハボックだったが、その発言はあっさりと無視された。 悔しい・・・・。 こうなったらヤケ食いするしかないだろう。 「食べますよ!俺は一日中歩き回ってたんすからねっ!!!」 「何だよ。男のヒステリーはみっともないぞ。俺を見習え」 「誰のせいすか。・・・・・ってか、少将のこと見習ってたらどんだけ傍若無人な男になるんすか、俺は」 「何か言ったか?ハボック少尉」 「なんも言ってないっす」 「そうか。んじゃ、早くこっち来いよ。無くなるぞ〜鯛焼き」 段々に尻窄みとなった言葉はハボックの口の中で消えていき、彼の将軍様の耳までは届かなかったようだ。良いんだか悪いんだか釈然としないままハボックは席に着き、用意されていた鯛焼きにかぶりつく。食べなきゃやってられないってな気持ちだったが、何となく格好悪いと思うのは気のせいだろうか? それでも、疲れた体に甘い物は美味しく体に染みこんでいった。 |
番外編は何本か書いてましたが、
何と本編更新が5ヶ月も滞ってしまってましたーーー!!!
本当に本当に申し訳ありません〜〜〜(>_<)
そして、いつもの如くあまり話は進んでいないという・・・・。
重ね重ねすみません;;;
なんだか鯛焼きのことしか書いてないような;;;
ハボック達の報告会は次回に持ち越しです。
そんでもって、次回はもしかすると年明けかもしれません・・・・。
気を長くしてお待ちいただけると嬉しいです(ペコリ)
ではではv
2010/11/10