「あっ、エド!」

「えっ!」


ウルリックと組み手をしていたユージンが、しっかりとした足取りでこちらに戻って来るエドワードを見つけて、うっかり大声を出してしまった。
そのセリフに反応したウルリックがユージンの視線の先へと振り向く。
その瞳に映るのは、確かに先程グラン准将に担がれていったエドワードだった。
元気そうな姿に安心したウルリックは、ユージンに釣られて自らも大声を出してしまった。

「おーい!エド!もう大丈夫なのかっ?」

「お前達!誰が手を止めて良いと言ったっ!続けろ!」

「「すっ、すみません!」」


エドワードを見つけた嬉しさに気を取られてしまった2人は、雷の如き准将の叱責を受け、身を竦ませる。腹の底から響く准将の怒鳴り声は、ビリビリとした空気を辺りに撒き散らし、当事者でない者達の心臓まで凍らせた。
ウルリックとユージンは、背中でエドワードの様子を気にしつつ、元の組み手へと戻り、その他の生徒達も慌てて目の前の相手に集中する
そんな遣り取りに苦笑しながら、エドワードはグラン准将の元へと歩を進めると、敬礼しながら報告をする。


「エドワード・エルリック、只今戻りました。訓練に復帰します。(宿直室の首尾は?)」

「ああ。3人で組んでるグループがあるからそこに合流しろ。(まだだ。この授業が終わったら行く)」

「分かりました。(んだよ、おっさんにしては鈍臭いな)」

「では行け。(医務室からここに直行したんだから仕方なかろうが)」

「失礼します。(あーそう。はいはい)」

「ああ(本当に可愛くない小僧だな、おまえはっ!)」


離れているとはいえ、一体どうやって周囲に気取られずにこんな会話を繰り広げているのか不思議である。流石は鋼の錬金術師。流石は鉄血の錬金術師である。


エドワードの遠慮ない発言に些か気分を害したグラン准将に、更に追い打ちを掛けるかのように、ペロッと舌を出して不適な笑みを浮かべたエドワードは、そりゃもう楽しそうだった。
そして、そんな表情でさえ魅力的なのが腹立たしいと、グラン准将は顔を顰める。
だからなのだろうか。生意気で可愛気がないと思いつつもついつい相手をしてしまうのは。
・・・・・イヤイヤイヤ!しっかりしろ俺!
厳く無表情な顔の下で、妙に焦って色々なことを否定しているグラン准将の姿は、何だかとっても気の毒だった。





「よし、そこまで」

「全員整列」


グラン准将の制止で動きを止め、続くブロッシュ軍曹の号令と共に生徒達が一糸乱れずに整然と並ぶ様は結構圧巻だった。
流石に士官候補生と言うところだろうか。


「今日の訓練はこれで終了。当番は格闘技場の整備をすること。それ以外の者は解散」

「ありがとうございました!」


グラン准将とブロッシュ軍曹へ敬礼すると、生徒達はシャワー室へと移動する。
散々動いて汗をかいている上、泥にも塗れているので、早く汗を流してスッキリとしたいのだろう。
おまけに、この訓練の後は帰宅するだけだから、皆の気も緩むというもの。
そして始まるのが雑談である。


「エド!本当にもう大丈夫なのか?」

「エド、大丈夫。怪我はない?」

「リック、ユージン。ああ、全然平気だぜ。心配してくれてありがとな」

「そっか、なら良いんだけど無理はするなよ」

「今日は早く寝た方が良いよ」

「ああ、サンキュ。大丈夫だよ」


解散した途端に走り寄ってきたウルリックとユージンが、気遣わしげな表情でエドワードを見やる。
それに極上の笑顔で、心配ないと応えるエドワードは、当たり前だが本当に元気だった。
そして、ちょっとだけ申し訳なく思う。
任務で必要とは言え、本気で心配させてしまうなんて本意ではないのだから。
ゴメンな、リック、ユージン。と、内心でそっと謝るエドワードだった。


「それにしても、やっぱりグラン准将は凄いな!一瞬だったもんなー!」

「ホントだよね!俺なんて2人が何やってるのか全然見えなかったもん」

「俺が弱いだけだろ」

「そんなこと無い!いや、あるか・・・。あっイヤ、そうじゃなくて!グラン准将に勝てる生徒なんていやしないんだから、エドが弱いわけじゃないさ!」

「そうだよ!俺なんて准将に指名されたことさえないよ・・・・」


言ってて少しだけ落ち込むユージン。気の毒に。


「まあ、ここの生徒であのオッサンに勝てる奴が居たら、それは凄い事だよな」

「オッサンって・・・。エド。いくら何でも准将をオッサン呼ばわりは拙いと思うぞ」

「そうだよ。誰かに聞かれたらどうするのさ」

「まあ、固いこと言うなって。あのオッサンはそんなことで怒らないだろ」


二カッと笑ってそう言うエドワードはやっぱり凄い。
あのグラン准将をオッサンって・・・・・・。
ふたりして顔を引き攣らせながら思う。
やっぱり差があるとはいえ、あんなにもあっけなく負けたのが悔しいのだろうか?と・・・。






「オッサン!今度こそ首尾はどうだった?」

「・・・・・問題ない」

「そっか、サンキュー。助かったよ」

「お前に礼なぞ言われると気色悪いな」

「何だよそれ。失礼なオッサンだな」

「事実だろうが」

「どこが事実だ!んな訳あるか!俺はいつだって礼儀正しいんだよっ」

「ほう。それは初耳だな」


中央司令部に戻ったグラン准将とエドワードは、人気のない資料室で落ち合った。
そこで盗聴器の設置の有無を確認する2人と、何故か同席していたのがブロッシュ軍曹である。
乗りかかった船というところだろうが、本人にしてみれば災難であった。
軍曹は居心地の悪い思いをしながら、資料室の隅で小さくなっていた。
そして、2人の掛け合いを聞きながら、確かにエルリック少将が礼儀正しいという噂は聞かないなぁ。逆に、自由奔放で階級の差をまるで気にしない少将の破天荒な行動や言動はよく耳にするような・・・等と、エドワードに聞かれたらボコボコにされかねないことを考えていた。
声に出さなかったのは賢明である。


結局、プリプリと怒りながらエドワードが出て行ったことで、決着はついたようである。
何気に強いグラン准将を心から尊敬するブロッシュ軍曹であった。




















「オッサンが取り付けた盗聴器から何か聞き取れたか?フュリー曹長」

「いえ、今のところ何もありません」

「まあ、今日の今日だからな。流石に無理か。もう少し様子を見よう」

「了解しました」

「昨日の話に戻るけど、自宅通学者が寄り道をしなくなったのには、別の理由が発生したんだと思う」

「例えば何ですか?」


ロイが問う。


「内部で揉め事が起こってトップダウンが通用しなくなっている。それに伴う流通経路の乱れ。それか俺の存在が警戒されているのかも知れないな」

「警戒ですか?」

「ああ。俺達の動きが漏れているのかも知れない」

「それは・・・」

「無いとは言いきれないだろ。穿って考えてみれば、俺の転入も不自然っていえば不自然だ」

「ですが、珍しいとはいえ、転入自体は通常でもあることです。たったそれだけの理由で今までの流れを変えますか?」

「いや、無いだろうな。恐らく最初に言ったように、犯人達の内部でゴタゴタが発生してるんだろう。まあ勘だけどな」


エルリック少将の勘はすこぶる的中率が高い。
高いというよりは外れたことがない。つまりは百発百中ということだ。
いくつもの伝説的な逸話を持っているが、これもその中の一つである。


「それはそうと、南部に行ったハボック少尉からはまだ連絡がないのか?ロス少尉」

「はい。二時過ぎに、これからサウスシティに戻ってもう一人の運転手から話を聞いてくると連絡があったんですが、その後は何もありません」

「そうか」

「今日はグラン准将との作戦があったので、少将のお戻り時間が遅くなりそうだと伝えたのですが、もしかしたらそのせいで帰ってきてから報告した方が早いと思ったのかもしれません。申し訳ありません」

「いや、少尉のせいじゃないよ。でもそっか。んじゃ列車に乗ってて電話できないのかもしれないな。待つしかないか」

「そうですね。良い報告を期待しましょう」

「ハボックは絶対に何か掴んで帰ってくるさ」


晴れやかな笑顔のエドワードからは、部下達への揺るぎない信頼が伺える。
その期待に応えるために、彼らは更に精進し、実力以上の力を発揮しようと努力するのだった。
流石は天然のタラシである。


「ファルマン准尉達もまだなんだな」

「はい。ファルマン准尉とブレダ少尉も朝から出掛けてますが、まだ何の連絡もありません」

「そっか、皆頑張ってるな」

「全体像が見えてきましたからね。皆必死ですよ」

「そうだな。もう少しだな」

「はい」

「よし!じゃあ皆が帰ってくるまでちょっと休憩しようぜ。鯛焼き買ってきたんだ〜」

「少将・・・・」


少なからず真面目な話をしていたはずなのに、エドワードの発言により、一瞬で緊張感が無くなった。
何故ここで休憩となるのだろう?
必死になって働いてるハボック少尉達の事を考えたら休むなど出来そうにもないのだが。


「何だよ。どうせ皆が帰ってきたらもっと頭使うことになるんだぜ。だったら今の内に休んで糖分補給した方が頭が回るだろ?」

「それは・・・そう、ですか?」

「そうだよ!だからおやつタイムだ!」

「・・・・分かりました。お茶を入れてきます」


おやつモードになった少将に何を言っても無駄である。
ロス少尉は諦めてお茶を入れに行く。
そして、ホークアイ中尉は鯛焼きを皆に配り始めた。


どこまでいっても少将は少将である。
それが長所でもあり短所でもあるのだから仕方がない。
まあ、言っていることにも一理あるのでよしとしよう。
確かに疲れた頭には糖分の補給が必要だ。












 





前の更新から3ヶ月も経ってしまいました;;;
亀更新も大概にしろと言いたくなりますよね!すみません(>_<)
しかも、またもやあまり話は進んでいないという体たらく;;;
いつになったら終わるのでしょうか、この話は・・・(苦笑)
広げた風呂敷を畳むのに必死になっております;;;
グラン准将の出番もここでひとまず終了かな?
凄く気に入ってしまったので、また登場するかもですが(笑)
なるべく早く更新したいとは思いますが、どうか長い目で見てやって下さい。
そして、鋼の世界に鯛焼きがあるかどうかは不明です;;;

ではではv


2010/06/01