一通り紹介や説明が済み、エドワード少将以下、全員が通常の仕事へと戻っていたところにノックの音が響いた。


「入れ」


先程までのふざけた様子は微塵も感じさせない軍人らしいの声音に、ロイは少なからず感心する。
いつもいつもふざけているわけではないのだ、この将軍も。


感心しているようで、実はとんでもなく失礼な感想を抱いているロイだった。
この司令室に足を踏み入れてからたったの数時間で、既にエドワード少将の色に染まりつつある事は明らかだった。


「失礼致します。エルリック将軍、大総統がお呼びです。30分後に大総統府においで下さい」

「分かった」


パタンとドアが閉まると同時に、エドワードは文句を言う。


「またかよ〜。しょうがねぇなぁ・・たくっ、あのじいさんは」


ブツブツと文句を言うエドワードに、ロイはまたもや驚愕する。
『じいさんっ』!!今、じいさんと言ったのか、この将軍は?
聞こえてしまった衝撃発言に固まるロイだったが、ロイ以外の者達はといえば。
またか、というような顔をしているだけで、取り立てて驚いてはいなかった。


と、言う事は。このような仰天発言は日常茶飯事だという事だ・・・・。
仮にも一国の支配者をしてじいさん呼ばわりとは・・・。
例え心の中で思っていたとしても、こんな衆目のある所で言う者など皆無だろうに。
つくづく信じられない将軍である。


それにしても、大総統に呼ばれるとは。
しかもエドワードの言動からして、始終お呼びが掛かっているらしい。
一体何の用で呼ばれているのだろうか。


「仕方無い。中尉、悪いけどそういう訳なんで多分また2時間くらい戻って来れないかもしれない」

「了解しました」


2時間も帰って来られないかもしれないと言うエドワードに、ホークアイは快諾する。
仕事は滞ってしまうだろうが、相手が大総統となれば致し方ないだろう。


「さて、後30分でこいつを片付けるか」


そう言ってエドワードが手にしたのは、およそ30分で片付けられそうもない量の書類。
目を見張ったロイの前で、エドワードの手が先程までとは桁違いの速さで動き出した。
そのスピードたるや、信じられない速さで、本当に文字が書けているのだろうかと、思わず自分の目を疑う程だった。


そんなロイの杞憂を余所に次々に決済されて山積みになっていく書類。
大丈夫なのかとチラッと隣のホークアイを見やれば、何の心配も無さそうに自分の仕事をしている。ロス少尉や他の面々も同様だった。
と、いうことは。
適当に捌いているのではなく、的確に処理されているのだ。あの速さで。





それからきっかり25分が経過した時、エドワードはピタッと手を止めて席を立った。


「じゃ、行ってくるわ。後よろしくな少佐、中尉」

「「了解しました」」


席を立ち敬礼する部下に笑顔を見せて、エドワードは司令室を出ていく。
エドワードの机の上にはノルマにしていた書類が決済され、綺麗に積まれていた。
まさか本当に終わらせるとは。
何もかもが型破りに見えるエドワードだったが、伊達にこの若さで将軍職に就いているわけではないのだ。
勿論、書類処理と実戦では発揮される能力は違うだろうが、実戦での結果が伴わなくてはこんな破格の出世はありえないだろう。
ロイは益々現場でのエドワードの姿が見たくなった。
その手腕がどのくらい素晴らしいのか。
ロイは新しく上司となった将軍の未知なる能力に震える。


エドワードが席を外した途端に、ハボックやブレダが話し始める。


「またかよ。少将じゃないけど文句も言いたくなるよな」

「ああ、つい4日前にも呼び出されたばかりだもんな」

「これじゃ少将の仕事が滞っちまって大変だろうにな」

「っていうか、俺たちも困るよな。少将の指示がないと先に進めないこと結構あるのによ」


そんな会話を耳にしたロイは、堪らず会話に口をはさむ。


「少将はそんなに頻繁に大総統に呼び出されるのか?」

「はい。多い時は月に3度から4度。少ない時でも月に1度は呼び出されてますね」


器用にタバコを口に銜えたままのハボックがロイの質問に答える。
この銜えタバコだが、本来許されない態度である事は明白だ。
それでも、エドワードが黙認しているのならロイが口出すことでは無いだろう。
別に気にもならないし。
それにしても、やはり変わっている。この司令室は。


「そんなに?」


ハボックの答えにロイは驚く。今日は一体何度驚けば終わりが見えるのだろう・・・・。


「はい。そんでもって一回行くと最低2時間は帰って来ません」

「一体何の用事なんだ?軍議でもしているのか?」


大総統と二人で軍議など有り得ないが、それ以外思いつかないロイは重ねて質問をする。


「いや〜それが全く分らないんスよ。ただ、疲れた顔して帰ってくることが多いですかね」

「分からない?ホークアイ中尉、本当なのか?」


突然話を振られたホークアイだが、それまでの会話は勿論聞いていたので、何の躊躇もなくロイに返答する。


「はい。分かりません。少将がセントラルに異動になった直後からこのような事になったのですが、少将にお聞きしても『大した事じゃない』と仰って、何も答えて下さいません。叱責を受けているわけではないのはその様子からも分かるのですが。それに、以前少将が地方司令部に勤務していた時にも大総統から時々電話での連絡が入っていました。」

「大総統が態々直接地方司令部に電話してきたのか?そういえば、この司令室も他の将軍達が使用している棟とは少し場所が違うな。かなり大総統府に近い。もしかして少将を呼びつけるのに便利だからとか言わないだろうな?」

「いえ・・・恐らくその通りではないかと思われます」

「一体どういう事なんだ?普通ではそんな事は有り得ないだろうに・・・」


ホークアイの言葉に、ロイは今日何度目になるのか分からない衝撃を受ける。
少将とはいえ、まだ若いエドワードをそこまで特別扱いする理由は何なのだ?
いや、若いからこそなのだろうか。


出会ってから数時間しか経っていないのに、こんなにも謎だらけの人物には初めて出会った。
年齢は分からないが、相当若いのに少将位。
将軍とは思えない言動の数々に、素晴らしいスピードで裁かれる書類。
そして、大総統からの頻繁な呼び出しに電話。
司令室の位置。
大総統に対する暴言etc.





念願の中央への異動には、更に嬉しいおまけまで付いていた。
いや、もしかしたらおまけは中央への異動だったのかもしれない。
そう思えるほどエドワード少将という存在は面白い。
勿論、自分とそう違わなく見える若き将軍に対する嫉妬心も無いとは言えない。
それでも。
俄然、エドワードに対する興味が膨らんできたロイであった。