「我輩は、アレックス・ルイ・アームストロングと申す。以後、よろしくお願い申しあげる。マスタング少佐」 「こっ、こちらこそよろしくお願いする。アームストロング少佐・・・」 翌日、出勤して自分の席に着いていたロイの目の前に突然現れたのは、おかしな髭と髪型をした巨大な男だった。 辺りを薙ぎ払うように大きな声に驚きながらも何とか返事をしたロイに、ニッコリと微笑んだアームストロングの笑顔は眩しいほどに強烈だった。 強襲に驚いたためか、ロイの口から飲み込もうとした言葉がポロッと零れた。 「本当にあのオリヴィエ・ミラ・アームストロング少将の弟なのか?全く似てないぞ・・・」 「おおっ!少佐は我が姉オリヴィエを知っておるのか!それはそれは」 ロイの少しばかり。いや、かなり失礼な発言にも全く頓着せず、更に満面の笑みとなったアームストロングの瞳はキラキラと輝き、暑苦しさが倍増した。 更には、実姉を知っていることに感激したアームストロングはロイを抱きしめようと突進した。 スッと体を動かし、危険な抱擁から危うく逃れたロイは、冷たい汗をかきながら思う。 どんな遺伝子の気まぐれが、この激しく造形と性格の違う姉弟を生み出したのだろうか、と。 そして納得した。確かに彼ならば”豪腕”の二つ名が似合いすぎるほど似合うと。 行き場を無くした両腕を自分の体に巻き付けながらアームストロングは尚もロイに迫る。 「マスタング少佐は”焔”の二つ名をお持ちの錬金術師だとか。我輩は”豪腕”の二つ名を大総統から拝領致した。同じ錬金術師同士としてもよろしくお願い申す」 「あ、ああ。私は昨年資格を取った若輩者ですが、こちらこそよろしくお願いします」 「なんのなんの。聞いておりますぞ。昨年の受験者32名中2位以下を大きく引き離してのトップ合格!しかも史上二番目の若さでの資格取得は伊達ではなかろう」 「恐縮です」 そう。ロイは昨年国家錬金術師の資格を取得したのだが、その際の成績の良さは際立っていた。 結局その他の受験者とのあまりの差故に、昨年の合格者はロイ一人になってしまった程だった。 一緒に受験した者にとっては不運だったとしか言いようがない。 しかも22歳という若さと甘いマスクも手伝い、女性軍人からの人気は鰻登りとなったとか。 多少背が低いが、若くて顔が良くて金もある。しかも家柄も良く、中将を父に持つというおまけまで付いている。 そんな背景もあり、これからの出世頭となるのは間違いないと考えられたのだろう。 「それにしても、我が司令室は実に優秀な人材に恵まれましたな、少将」 「そうだな、少佐。俺も優秀なお前達がバリバリ仕事してくれてすんごく助かるよ」 二人の衝撃の対面を面白おかしく見物していたエドワードは、突然振られたコメントに素晴らしい笑顔で受け答えをする。 その根底にあるのがどんなに底意地の悪いモノであっても許したくなってしまうような、そんな質の悪い極上の笑みだった。 そのエドワードが何を考えていたかと言えば、本当はもっとアームストロング少佐がかっ飛ばしてロイを混乱の渦に巻き込んでくれるものと思っていたので、少々期待外れではあったのだが、まあ多少の肩透かしは仕方がないだろう。と言うことだった。 そんな碌でもないことをエドワードが考えていたとは露知らず、自身の笑顔とは違う意味で強烈な笑顔を向けられたアームストロングは鼓動を跳ね上げながら負けずに笑った。 「はっはっはっ!イヤ、恐縮です少将。それもこれも少将ご自身が優秀なお陰でござる。何せ少将こそが国家錬金術師資格を史上最年少で取得したご本人ですからな!しかも30歳にして将軍職とは素晴らしい!我がアームストロング家にもこれ程優秀な逸材は居りませんぞ!」 「あっ、バカ少佐!」 舞い上がったアームストロングは、エドワードが止める間も無く余計なことをペラペラと喋ってしまった。 そして、披露されたその内容は、ロイにとってあまりにも強烈なモノだった。 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたロイが、息を詰まらせながらようやく口に出来たのは、衝撃の発言からたっぷり30秒は経過してからだった。 「少、少将が国家錬金術師?まさか史上最年少で資格取得と言うことは・・・・。はっ、”鋼”? ”鋼”の錬金術師ですかっっ!!!」 「おや?ご存じでは無かったかな?マスタング少佐。そう。我がアメストリスきっての天才国家錬金術師、”鋼”の錬金術師とは、誰あろう、ここにおわすエドワード・エルリック少将その人でござる!」 えっへん。と、我が事のように自慢気に語るアームストロングとは裏腹に、エドワードは、あちゃーと両手で顔を覆って溜息を付き、ロイは自分が目標にしていた憧れの錬金術師が目の前の将軍だと知って衝撃を受けていた。 「何だよ、少佐。こんなに早くバラしちゃあ面白くないじゃないか。俺が”鋼”の錬金術師だと言うことは追々話そうと思ってたのによぉ」 「そっ、それは失礼申した。まさか将軍のように有名な方を知らないとは思わなかったもので・・・」 「俺の履歴は結構トップシークレットになってるんだぞ。知らないのか?ちょっと調べたくらいじゃわからないようになってるんだ」 「そうなのですか?何故その様なことになっているので?」 「それは内緒。とにかく、少佐は俺の楽しみを一つ奪ったんだからな。それ相応の報復は覚悟しておくように」 「そんな理不尽な;;;」 「理不尽でも何でも俺が決めたんだから逆らうなよ。逆らったら更に酷い目に遭わせるからな」 自分の目の前で繰り広げられる低レベルな会話に目眩がする。 この人が本当に、”あの人”なのだろうか?本当に??? ロイは、自分は大概のことには慌てることなく対処できると自負している。 だが、今現在の自分の状態を考えると、その自負は撤回するべきかもしれないと思い直す。 確かにこの若さで少将位。 おまけに自分とアームストロング。国家錬金術師を二人も同じ指令室内に抱えられるような人物と考えれば、成程納得も出来る。 だがしかし! 自分が幼い頃からあこがれていた人物像と目の前の将軍の姿が噛み合わない・・・。 遠い昔の忘れられない記憶。 青く美しい巨大な錬成光。 遠くからしか見られなかったが、垣間見た背中は大きく頼もしかった。 そして、父から聞いた彼の人の素晴らしい功績と才能。 確かに、父は彼の人物について大まかな事は教えてくれたが、詳しいことは教えてくれなかった。 幾ら身内とはいえ、軍人のプロフィールや姿形、その戦略や思考系統を教えることは厳禁だ。 どんな些細なことからでも機密に関わる情報が漏れる可能性があるからだ。 だからロイは知らなかった。 ”鋼”の錬金術師の名前も容姿も地位も。勿論勤務地も。 だが、この人が”あの人”なのだ。 最初の衝撃が去った後にロイの心に残ったのは、込み上げる歓喜だった。 自分の想像とは掛け離れた姿で現れた”鋼”の錬金術師。 軍属になってから調べたにも係わらず、全く正体が掴めなかった彼の人。 (そう。先程言っていたではないか。トップシークレットになっていると。 何故秘密になっているのかは不思議だが、それは後で考えよう) その本人が目の前に居るのだ。 父から聞いたほんの一部の軍功。それだけでも凄いモノだった。 では、実際の軍功は一体どれ程のモノなのだろう。 胸の勲章は彼の人の軍功が如何に素晴らしいモノなのかを静かに物語っている。 間違いなく実力で勝ち取ったであろうそのモノ。 希った場所に今自分は立っている。 その事実にロイは感謝した。 憧れは只の憧れで終わるのか。 それとも、更なる目標へと変わるのか。 それは未だ分からないが、予感がある。 きっと裏切られることはない、と。 「まあ、バレちまったならしょうがない。そう言うわけで、俺が”鋼”の錬金術師エドワード・エルリックだ。改めてよろしくな、マスタング少佐」 「こちらこそ。御高名は父から聞いておりました。お会いできて光栄です。エルリック少将」 「マスタング中将か。一体どんな噂を聞いてたんだか。どうせ悪口ばっかりだろう?あのおっさんはどこか人を喰ったところがあるからな。と、息子目の前にして言うことじゃないな。内緒にしておいてくれよな少佐」 「はっ。父とは滅多に会うことはありませんのでご心配なく」 ニヤッと笑いながらロイは答える。 そして、いい人と言われることが多い父を正しく言い表わしたエドワードに更に好感を持った。 やはり自分は運が良い。 この司令室に配属されたこと。 それが自分の人生の中で一番大事なことだった。 間違いなくそう言いきれる。 【That’s the name of the game】 END ロイとエドワードの出会い編でした。 ロイにとってエドは憧れの人なんです(笑) エドのバックグラウンドは追々お話の中で書いていきたいと思ってますv そんな大層な設定があるわけではないのであまり期待はしないで下さいね;;; 2009/01/24 |