「マスタング少佐、こちらの机を使って下さい」


騒ぎを収めたホークアイ中尉が、上司に任せていてはいつまで経っても埒が明かないと判断したのか、ロイを相手に様々なことをテキパキと説明し始めた。

ロイに宛がわれた席は、エドワードの執務机の前に並んでいる左側の席だった。

ロイを含め、部下たちの机は全て向かい合わせに並べられている。
手前左側、つまりロイの机の直ぐ右隣がホークアイ中尉、その正面がロス少尉。
中尉の右隣がハボック少尉、その正面がブレダ少尉。
ハボック少尉の右隣がファルマン准尉で、准尉の正面がフュリー曹長の順番となっている。


要は、入口から一番遠い所にエドワードの机があり、入口に一番近い所にファルマン准尉とフュリー曹長の机があるということだ。

そこで疑問に思ったのが、自分の机の正面。
つまり、ロス少尉の机の左の席が開いているという事だ。


「ホークアイ中尉、こちらの席は誰の席なんだ?書類等があるから誰かいるのだろう?」

「ああ、そうでした。申し訳ありません、紹介してませんでしたね。こちらの・・・」

「そうだ、忘れてた!」


ホークアイが説明しようとしていたのを横からエドワードが割り込み遮る。

先程までホークアイに怯えていたのも忘れたかのように元気良く喋り出すエドワードは、とことん将軍らしく見えない。

話の腰を折られたホークアイは、特に気にした様子も無く、エドワードが説明してくれるのならと口を噤む。


「少佐、こっちの席には、もう1人の少佐が居るんだ。今まで俺の不在時の代理や補佐を頼んでいたんだが、仕事が多すぎて手が回らなくなってきてしまったんだ。だから、もう1人人を補充して貰った。それがマスタング少佐ってわけ。だから、これからはアームストロング少佐と一緒に俺の補佐をよろしく頼むな。あいにくアームストロング少佐は今日非番で紹介は明日になってしまうんだけどな」


あっけらかんと告げられたエドワードの説明に、ロイは驚愕する。


「アームストロングっ!・・・・少佐?アームストロング少佐って仰いましたか?少将では無く?」

「そうだけど・・ああ!そういえば少佐って北方司令部に居たんだよな。そっか、それなら驚くのも無理はないけど、ここに居るのは正真正銘アームストロング少佐だ。オリヴィエ・ミラ・アームストロング少将の弟だぞ」


目を丸くして驚いているロイが面白くて、エドワードはニンマリとして言葉を重ねる。


「更には少佐と同じ国家錬金術師でもある」

「国家錬金術師なんですか、アームストロング少佐は」


数が多いとは言えない国家錬金術師が、同じ司令室に2人も配属されるとは驚きだった。
オリヴィエと姉弟というのもビックリだが、彼が国家錬金術師というのにも驚いた。


「そうだぞ、少佐も知ってるんじゃないか?”豪腕”の二つ名を持つ錬金術師だ」

「聞いたことがあります。確か手甲に書かれた錬成陣で様々なモノを粉砕し、その威力は絶大だとか」

「そうだな。確かに少佐の錬金術は周囲に与える威力が凄いな・・・」


そう答えるエドワードは、何故か遠くを見るように半目になり乾いた笑いを漏らしている。
そんなエドワードの様子にロイは首を捻るが、ホークアイやハボック等も同様に引き攣ったような半笑いをしているのに気が付き、更に疑問が深まる。


個性的に見えるこの司令室の面々をしてこの反応。きっともの凄い錬金術なのだろう。
やはり、流石は、あのアームストロング少将の弟と言うべきなんだろう。


微妙に違う想像をしているだろうロイに気が付きながらも、エドワードは面白いのでそのまま放置することにした。


きっと、本人の姿は勿論として(失礼過ぎる)、初めてアームストロング少佐の技を見る時はもの凄く驚くだろう。

是非にでもその場に立ち会い、直ぐ近くでマスタング少佐のリアクションを見たいものだと、エドワードは人の悪い笑みを浮かべる。



「ま、少佐には嫌でも明日には会えるから、その時にまたちゃんと紹介してやるよ」

「はっ、ありがとうごさいます」

「お前・・本当に真面目だな」



あくまでも丁寧な態度を崩さないロイに、エドワードは感心する。

これだけ型破りな上官によく反発しないものだ。
まあでも、あのオリヴィエの下で3年も勤めたのだから当然かもしれない。

オリヴィエ・ミラ・アームストロング少将。
彼女は女性でありながら30代で少将の地位に上り詰めた優秀な人物で、その功績は文句なく素晴らしいかわりに、素晴らしく危険で型破りでもあった。
親密とまではいかないが、オリヴィエと交流のあるエドワードは彼女をよく知っていた。

そんな彼女に比べたら自分なんか可愛いものだろう。
というより、寧ろ足下にも及ばない好青年だ。うんうん。


周囲が聞いたら首をブンブンと振って否定しただろう見解も、口に出されなければ否定しようがなく、意味がない。

エドワードはひとり納得して首を縦に振っていた。