「少将、いい加減そのニヤニヤした笑いを止めて頂けませんか?非常に不気味です」

「失礼だな、ホークアイ中尉。俺はニヤニヤなんかしてないぜ」

「いいえ、してらっしゃいます。お疑いなら鏡でもお持ちしましょうか?」


仮にも、自分の上官である将官にこのような言動をする部下は普通居ない。
だが、そんな軍の常識もこの司令室の中では一切通用しないのだ。
その証拠に、と言っては何だが、聞いている他の部下たちは、上司達の恒例ともいえる掛け合いが始まったとばかりに面白がっている。

そんな2人の会話が更に続くかと思われた矢先、司令室のドアをノックする音が聞こえた。


「失礼致します。エルリック少将、ロイ・マスタング少佐がお着きになりました」


告げられた内容に将軍は先程ホークアイ中尉に指摘されたとおりのにやけた笑いを引っ込め、真面目な顔を取り繕う。
新しい部下が配属されると決まった時から、いや、正確にはロイ・マスタング少佐が部下になると分かった時から、彼は楽しみで仕方がなかったのだ。

だからこそ、つい顔が緩んでしまい、部下である中尉に注意されてしまったのだが・・・。
だが、決して自分はニヤニヤなどしていなかった筈だ。
それだけは否定しておかなければ。

と、そんな下らない夢想を頭から追い出し、将軍は伝令の軍曹に声をかけた。


「御苦労。入ってもらえ」

「はっ」

「マスタング少佐、どうぞお入りください」

「ああ、ありがとう。失礼致します」


軍曹に礼を言いつつ、彼が開けてくれたドアからスッとしなやかな動作で入室した少佐は、
今度自分の上官となる少将へと目を向け、軍人の見本のような敬礼をした。
ロイが顔を上げて少将へと目を向けた途端、東側にある正面の窓から日が差し込み、見開いた瞳が眩しさに眩んだ。
一瞬何も見えない状態となったが、次の瞬間には気を取り直して隙のない挨拶をする。


「本日付で中央へ配属となりましたロイ・マスタング少佐であります。今後とも・・・・」

「堅苦しい挨拶は良いよ。俺はエドワード・エルリック。階級は少将だ。よろしくな、少佐」


広い執務室の奥から聞こえる少将の声は、耳に心地よいテノールで、やけに若く、しかもノリが軽かった。
そんな少将の言動に思わず唖然としたロイは、逆光でよく見えなかった少将の顔が次第に見えてくるにつれ、驚きの形のままに開いた口が閉まらなくなってしまった。


そこに居たのは、自分とそう変わらないような年齢に見える、信じられない程美しい青年だった。
陽に映えてキラキラと輝く黄金の髪は後ろの高い位置でポニーテールにされており、
髪と同色の金色の瞳はけぶるような睫毛に縁取られ、活き活きした光に溢れて輝いていた。
ロイを真っ直ぐに見詰める瞳はスッと細められているが、そんな鋭さの中にも楽しげな様子や優しさが垣間見える。
小さな顔は端整過ぎるほど整っており、一見どこか冷たい印象を与えるが、クルクルとよく動く目と表情がその冷たさを柔らかく包み込んで、温かい印象へと変化させていた。


黄金の化身かと思うほどすべてが金色の将軍は、その姿からは想像も出来ない程多くの勲章をその胸に並べており、この年若い将軍の地位を違えることなく物語っていた。
実際、少将という地位にあってもまだ不足ではないかと思えるその勲章の数には心底驚いた。
若く見えるが、実際はかなり年齢を重ねているのだろうか。
また、当然の事として、目の前の将軍も他の軍人と同じ軍服に身を包んでいるのだが、
彼が着ていると、どう見てもそうは見えない。
軍が特別に彼の為に誂えたのではないだろうか?
勿論、そんな事は有り得ないのだが、そうかと思えるくらい映えていたのだ。
それにしても、この軍服はこんなにもセンスが良かっただろうか。
ついそんなつまらない事を考えてしまうロイだった。


目を白黒させて自分を見ているロイの反応は、エドワードを楽しませた。
開いた口が塞がらないまま間抜けな顔を曝したロイがハッと我に返り、改めて将軍に向き直った時、机の上で両手を組み、その上に顎を乗せた状態で自分を見ている将軍は、本当に楽しそうに笑っていた。
初対面の部下の前で、威厳も何も無くニコニコと微笑んでいるありえない上官の存在に、ロイは二の句が継げない。


「どうした?少佐。俺の顔はそんなに驚くほど変か?」


ようやく口を閉じ、気を取り直そうと思ったのか、ごくっと唾を飲み込んだロイを面白がって、エドワードは声をかける。
低くも無く高くも無いその声が、またなんと心地よく耳に響くことか。
北方司令部の司令官だったアームストロング少将も若く美しかったが、女性である彼女を凌ぎ、彼はその上を行く。


彼女は美しかったが、常に厳しい表情をしており、まず微笑む事など無かった。
彼女が微笑むときは、必ず誰かが死にそうな目に遭わされたものだ。
その時の様子を思い出して背筋が寒くなったロイは、ようやく現実へと戻る事が出来た。


「はっ、いえ、申し訳ありません。失礼しました」

「いいよ、別に気にしなくても」

「恐れ入ります。改めまして、本日より宜しくお願い致しますエルリック少将」

「ああ。よろしくな」