「ロイ・マスタング少佐。明日付でセントラルへの異動を命じる」

「拝命、賜ります」


ロイは、上官であるオリヴィエ・ミラ・アームストロング少将から告げられた辞令に、

薄々察してはいたものの、やはり驚きを隠せなかった。

だが、そんな様子は一切見せず、ロイは冷静に返答する。

その内心は嬉しさで溢れていた。

ようやくこの時がきた。

軍に入隊してから3年。

希望していたセントラルへの異動がようやく叶ったのだ。

知らず口元に微かな微笑が浮かぶ。

そんな様子のロイに、オリヴィエは皮肉を交えて揶揄する。


「どうだ?嬉しいか、マスタング?念願のセントラル勤務だ」

「はっ、いえ、そんな事は・・無くはないです」

「ほう。そうか」


上官の問いに、つい正直に答えてしまう。

そんなロイにオリヴィエは笑う。

氷の微笑と恐れられるその笑顔に、ロイは蒼褪める。

『ブリッグズの北壁』『心まで氷の女王様』と、様々な異名を持つ彼女の恐ろしさは本物だ。

逆らってはならない。

それが、ここ、北方司令部での3年間でロイが学んだ一番重要な事だった。

笑みを引っ込め、口元を引きつらせながら、ロイは前言を撤回する。


「いえ!とんでもない。私はもう少し少将の下で勉強させて頂きたかったです」

「そうか、それは良い。では、もう少しここにいるか?私がセントラルへ掛け合ってやろう」


一度下された辞令が撤回されることは無い。

それが分かっていながら、この少将ならば出来るかもしれないと思い、ロイの蒼褪めた顔

から更に血の気が引いて行く。

この上官相手にその場凌ぎの下らない言い訳などしなければ良かった。

ロイは心から後悔する。

北方司令部に配属になって3年が経つ。

国家錬金術師というだけでなく、周囲からもその実力や手腕を買われていると

自負しているが、どんな評価もこの上官の前では紙屑のようなものだった。

軍人としての経験や存在感が圧倒的に違うのだ。

ヒヨッ子扱いされて手玉に取られ、この3年間というもの一度として勝てた例がない。


「ま、冗談はさておき、マスタング少佐。3年間ご苦労だった。荷物をまとめてさっさと出て行け」

「はっ!アームストロング少将、3年間大変お世話になりました。またお会い出来る時までご健勝でいらして下さい」

「人を年寄りみたいに言うな。分かったから出て行け。仕事が忙しい」

「はっ、失礼致します」


ビシッと敬礼をして、ロイは上官の執務室を退室した。

オリヴィエは厳しい上官だが、部下思いの良い上官でもある。

憎まれ口や冷たい言葉を吐きながらもロイの実力は評価し、目を掛けていた。

そのロイが異動になるのだ。残念ではあるが嬉しくないわけがない。


剛毅過ぎる彼女の精一杯の励ましにロイは感謝する。

士官学校を卒業したばかりのロイに、軍人としてのイロハを教えてくれたのは彼女だ。

その教えを忘れることはないだろう。




荷物をまとめて三日後の朝一番の電車でセントラルへと出発しなければならない。

グズグズしている暇はない。

キッと顔を上げたロイは、迷うことなく一歩を踏み出した。

セントラルへと。