Troublemaker 「へぇ〜少佐は俺の事大好きなのか?そんな熱烈な告白は初めて聞いたなぁ」 案の定、面白がってマリアの捨てゼリフを拾う将軍が、そこには居た。 相変わらず素敵なニヤニヤ笑いを続けている将軍が憎らしい。 だが、こんな時こそ冷静に、将軍のペースに巻き込まれてはいけない。 ロイは自分自身を奮い立たせる。 「言った事ないですから初めて聞くのも無理からぬ事かと思いますが、私が少将の事を好きだなどという、そんな事実はありません。あれはマリアが少将を女性だと思って勝手にヤキモチを焼いただけのことです」 「何だよ、じゃあ少佐は俺の事嫌いなのか?しかも俺が女に見えるって?どこ見てそんな事言うんだ少佐」 「嫌いだなどと、そんな事は一言も言っておりません」 どこが女に見えるのだという将軍の疑問は、敢えて黙殺する。 そんなことは、将軍以外全員にとって何の疑問もないからだ。 大体、本人がどう思っているのかは不明だが、その言動や、事件の時に見せる敵を射殺せそうな鋭い瞳がなければ、十分女性に見えるのだから。 エドワードもその辺を追及すると自分の立場が弱くなると、過去の屈辱的な経験により知っているので、黙殺したロイを咎める事はしなかった。 ただ、もの凄くムカつくので、仕返しは必要だろう。 物騒な思考を表に出さずに、エドのロイへの報復劇は決行される事が決まった。 ―― 哀れなり、ロイ・マスタング。 「言ったじゃないか。”好きだなどというそんな事実はありません”って」 「それは・・。いや、だからって直ぐさま嫌いって事にはならないでしょうが」 「じゃあ好きなんだな?」 「いや、だから、そうではなく」 「そうではなく、何なんだ?」 全く、ああ言えばこう言う。 ロイの言う事の意味など端から分かってるだろうに、わざと困らせて楽しんでいるのだから性質が悪い。 その証拠に、将軍の顔から満面の笑顔が消えていない。 この遊びに付き合えというなら付き合うが、せめて場所を弁えて欲しいと思うのは贅沢な願いなのだろうか。 ロイがそう願うのも無理はない。 将軍が現われてから只でさえ注目の的だったのに、マリアの暴挙のお陰で、騒ぎは先程よりも輪を掛けて大きくなっており、野次馬は三倍以上にも増えていたのだから。 何でこんな事になったのだろう? 将軍と同じ日に非番だったのが悪いのか? こんな場所でデートしていたのが悪いのか? それとも、偶然見かけた将軍を凝視してしまったのが悪かったのか? ―――やはりこれが一番大きな失態だろうか・・・・。 あれやこれやと思わず自問自答するロイに助け船が現れたのは、その時だった。 「いい加減にしなさいよ、エド!少佐が困ってるじゃないの!」 「何だよ、ウィンリィ。俺が少佐と遊んでるのに邪魔すんなよなー」 ―――遊んでるって認めちゃったよ!!この人。 周囲の野次馬たちの思いは一致した。 そして、普段滅多に拝めない軍人のプライベートな言動に、益々興味が湧き、こんな面白い騒ぎから目を離してはいけないとの思いが強くなる。 「邪魔すんなじゃないでしょ!少佐に迷惑かけてるのが分からないの?」 「迷惑なんて掛けてないだろう?俺は少佐と偶然出会って、会話を楽しんでるだけなんだから」 その言葉通り、思いがけず自分の部下と出会った好機を逃すことなく、有意義に使っていたエドワードは至極ご機嫌だった。 だが、それもそう感じてるのはエドワードだけで、ロイは十分迷惑を受けていた。 いや、別に将軍と話すのも出会ったのも迷惑ではないが、その内容と場所と状況が問題なのだ。 どう足掻いてもこの上司に口で勝った例がないのだから・・・。 一刻も早くこの場を立ち去りたいと、ロイが切望してもなんら不思議はないだろう。 そんなロイにとって、将軍の連れの女性―ウィンリィと云うようだが―の助け船は、心の底から嬉しかった、筈なのだが・・・・。 どうしたというのだろう。 何故か先ほどからこの二人の事を考えると気持ちが騒ぐ。 「とにかく、もうこれ以上騒ぎを大きくするのは止めてちょうだい!」 「何の騒ぎだよ?別に俺は騒いでないぞ」 「この周囲の状況を見て言ってるわけ???大体、エドの存在そのものが騒がしいんだから、否定なんてしないでよ」 「何だよそれ!俺が五月蠅いって言うのか」 「そうよ。昔から何度も言っているけど、そろそろ自分がトラブルメーカーだって事を認めなさいよ」 「俺はそんな事認めないぞっ!大体、今までのトラブルだって俺が起こしたんじゃなくて、向こうからやって来んだからなっ!!!」 「だから、それがトラブルメーカーだって言うの!普通は向こうからやって来る厄介事なんて一生に一回か、精々多くても二回よ!それなのに何?エドなんて歩いてるだけで何かしら事件に巻き込まれてるじゃない!!!しかも、否定してるけど、自ら飛び込んでいくことだって多いくせに!」 「歩いてるだけで事件に遭遇なんてするわけないだろう!言掛りは止めろよ!」 いや、言いがかりではないだろう。 ロイは、将軍の言葉に思わず内心で突っ込んでしまう。 将軍との付き合いが短いロイが少し思い出しただけで、数々の事件が思い起こされる・・・。 正にトラブルメーカー。 彼女の認識は正しいと思う。 それにしても、ロイが一人で黙考している間に、事態は先程よりも悪化したようだ。 既にロイの存在はどうでも良いらしく、将軍達は二人の世界へと突入し、白熱した口論を繰り広げている。 一見、冷静そうに見えた女性も、流石に将軍の連れらしく、激しい性格を持ちあわせていたようだ。 ロイが唖然としている間に、口も挟めないほど遠慮のない二人の会話は、どんどんとヒートアップしていき、今や先程以上の騒がしさで周囲の興味を引いている。 ―――― このままこっそりと退散してしまおうか・・・・。 どうにも収拾の着かなくなった事態に、嫌気のさしたロイがそう思った時だった。 「な、少佐!俺はトラブルメーカーなんかじゃないよな?」 「・・・はっ?いや、あの・・・その」 「なんだよ。ウィンリィに遠慮なんかしないで正直に言えよ」 「いや、遠慮している訳では・・・」 「ん?じゃ、なんだ、少佐はこいつと一緒で俺の事をトラブルメーカーだと。そう思ってるって事か・・・」 ヤバイ・・・・。 将軍の目が据わっている。 はっきりとしないロイの返答が気に食わなかったのは明らかで、エドワードの目は細められ、獲物を狙うかのような鋭さは、平時のそれではなくなっていた。 何も、こんな下らない話題で、そんなとっておきの目をしなくても良いのではないか。 内心でそう思いつつ、その視線が自分に向けられていると思うと、情けなくて泣きそうになるロイであった。 俺は犯罪者では無い・・・・・。 否定してもしなくても角が立ちそうな立場に追い込まれたロイは、本当に困っていた。 こんな時、あの優秀なホークアイ中尉ならば、即座に肯定し、将軍の鼻っ柱を折ってしまうのだろうな。 ふと、そんな事を考えながら、勇気の出せない我が身の不甲斐なさに、なんだかやるせない気持ちになってきた。 「エドパパ、ママのいうとおりよ。しょうさをいじめちゃダメ!!ごめんなさいしなさい!」 「何だよ、アイシャまでそんなこと言うのか?俺は少佐を苛めてなんかいないぞ。ただ、楽しくお話ししてるだけなんだからな」 「ウソだもん。しょうさ、すごーくこまったおかおしてるもん!」 「うっ、(鋭いな・・・・)」 突然聞こえてきた可愛らしい女の子の声。 少し舌足らずながらも、はっきりと自分の意見を主張している。 反省を促している人物の腕に抱きかかえられているという姿が、なんだか微笑ましい。 それにしても、五歳ほどの女の子に説教されてる将軍様とは・・・・。 ちょっと。いや、かなり情けないかも。 連れの女性や、部下相手には平然と屁理屈を捏ねられる将軍も、さすがに子供相手には出来ないのだろう。図星を指されて反論を封じられているのが笑える。 「分かったよ、謝れば良いんだろ。そうしたら許してくれるか?アイシャ」 「うん!」 「そっか、じゃあ、そう言うことだから。悪かったな、少佐」 「・・・・・いいえ」 謝ると言いつつ、将軍の瞳は笑っていない。 愛してやまない子供の言葉に渋々従っているのが丸わかりである。 その証拠に、ロイへの無言の圧力はひしひしと周囲にも伝わり、一種異様な空気がそこには流れていた。 そして、ロイもその事には気が付いていた。 目が語っているのである。 不本意ながら謝らなければならなくなった事が腹立たしいのだ、今度会ったら覚えてろよ、と・・・・・。 明日はロイも将軍も勤務日である。 つまり、今度って明日ですよね・・・少将。 思わず明日の我が身を嘆いてしまうロイだった。 そして、そんな恐怖を凌駕する衝撃的な事実の発覚に、ロイは自分でも驚くほど打ちのめされていた。 ―――― 『エドパパ』『ママ』 ロイは、アイシャと呼ばれた少女の口から飛び出したこれらの言葉に、頭から冷水を浴びせられたような気分になった。 やはり、この女性と少女は将軍の家族だったのだ。 そんな予感はしていたが、まさか本当にそうだったとは・・・・。 何となく、将軍は独身だろうと思いこんでいた自分がなんだか滑稽だった。 考えてみれば当たり前だろう。 将軍の様に、若く、地位も名誉も才能も、有り余るほど持つ男が、美しい妻と可愛い子供を持っていない方が不思議というものだ。 そして、その事実に何故こんなにも自分はダメージを受けているのだろう? 「マスタング少佐。本当に迷惑掛けてごめんなさいね。こんな駄目な上司だけどこれからも見捨てずにいて下さいね」 「・・はっ、はい。勿論です」 「ありがとう。少佐」 「さ、もう行くわよ。エドは後でもう一度きちんと少佐に謝っておきなさいね」 少将の妻である女性は、ロイの葛藤に気付くことなく、ニコッと邪気のない笑顔をむけると、まだグズグズとしている将軍を引っ張って立ち去っていった。 嵐が去った後、大観衆の中取り残されたロイの心には寒風が吹きすさび、呆然と立つその姿に、周囲の野次馬達は同情した。 そして、彼らは思った。 変わった将軍様もいるもんだ。それにしても、あんなに自由な人間の下で働く軍人さんは大変だろうな。今まで、軍人にはあまり良い印象を持っていなかったけど、やはり同じ人間。 この可哀想な少佐や、それ以外の軍人達にも、今までよりも少しだけ親しみを持って接してみようかな、と。 「頑張れよ、少佐」 「あなたに似合う素晴らしい女性は必ず見つかるわよ」 「今度デートするときは俺の店に来れば一杯奢るよ」 「上司は中々選べないもんだ。我慢するしかないぞ」 等々。 良かれと思って掛けられた、人々の励ましの言葉に、益々落ち込みが激しくなったロイだった。 エドワード・エルリック。 正に、彼はトラブルメーカー。 受ける被害が本人よりも周囲の方が大きいという特徴がある。 |
本当は、エイプリルフール用に書いていたお話だったんですが、
あまりに時間掛かった上に長くなってしまったので、ちょっと軌道修正。
ロイには少しビックリして貰いました(笑)
そんでもって、何となく恋心自覚編(苦笑)
でも、片思いですからv
どうでもいいおまけを書きましたので、宜しければどうぞv
2009/04/29