Troublemaker 「ねえ!ちょっと見て見て!すっごい綺麗な人がいる!!」 「えっ、何処?」 「あそこ!あのカフェの窓際の席に座ってる人!」 「あっ、ホントだ!凄い綺麗〜!」 「でしょー!ちょっと見ないような綺麗な人だよねっ!」 「うん、ホント!・・でも、あの人男?女?」 「う〜ん。確かに見分けが付かないかも・・・。服装もどっちとも取れるし髪長いし、何しろあの顔!綺麗過ぎるよ〜!!!」 「ねえ!あたしたちもあの店入ってもっと近くで見てみない?これだけ遠くに居てももの凄く綺麗なんだもん、近くで見たらもっと凄いんじゃないかしら?」 「そうしよっか!・・・あっ、ちょっと待って。もう一人女の人が来た!しかも子供連れてる・・・・」 「・・・・・凄く親密そうにしてるね。やっぱり男の人なのかな?もしかしてあの女の人と夫婦?子供もあの二人と同じ金髪だし。それとも女同士のお友達なのかな?」 「う〜〜ん。微妙だなぁ。やっぱり入ってみようよ」 「そうだね。行こう!」 休日の午後。 最近知り合った黒髪の美女とデートしていたロイの耳に、女性二人の興奮した会話が飛び込んできた。 その中の、”凄く綺麗な人”という、聞き逃せないフレーズに、ロイは反応する。 美しい女性に目が無いロイにしてみれば、隣にどんな美女がいたとしても、新たな出会いを控える事は出来ない。 要は、多情で女性にだらしないだけだといえばそれまでだが、ロイの容姿がそうは思わせないのが曲者だった。 そんなロイが、彼女達の話題の中心になっている件の人物へと目を向けて固まった。 女性をして綺麗と言わしめるその人は、ロイのよく知る人物だった。 ――――― エドワード・エルリック少将。 ロイの直属の上司である彼(そう、この人物は男性だったのだ)は、若干三十歳という若さで少将位を得ているだけでなく、天才的な才能を持つ国家錬金術師でもあった。 少将と自分の非番が重なったことも珍しいが、まさかこんな所で出くわすとは、凄い偶然もあるものだ。 そんな、驚きを隠せないロイの目に映る将軍は、普段とは全く違っていた。 休日なのだから当然だが、将軍は普段着だった。 軍服を着ていても一見して女性かと見間違うほどの玲瓏たるその容姿は、私服だと尚更顕著だった。 オフホワイトのサマーニットに淡いベージュのスラックス。 爽やかでカジュアルな服装を足元のダークベージュの靴で引き締めている。 軍服を着ていても若く見える上司だが、更に輪を掛けて若々しく見える。 とてもではないが、周囲に居る人々に三十歳には見られていないだろう。 そして、男女どちらにも見えるだろうと思われる最たるモノが、その髪型だった。 普段、頭の高い位置で纏められている長く美しい金髪は、今日は肩甲骨の辺りで緩く結ばれており、カーブを描いた金糸が、只でさえ美しい顔を縁取りキラキラと輝いていた。 「ちょっと、ロイ!ロイったら、聞いているの!」 「あっ?ああ・・・済まない。何だったっけ、マリア」 初めて見る上司の姿に見惚れていたロイを現実に引き戻したのは、ロイよりも三歳ほど年上の、どこか勝気な顔をした黒髪の美女、マリアだった。 デートの途中だというのに、自分をほったらかしにして、他の女(?)に目を奪われるなんて、彼女のプライドが許さないのだろう。 「何だったっけ、じゃないわよ!ランチに連れて行ってくれるって言ってたじゃないの」 「ああ、そうだったね。じゃああそこのカフェに入ろうか」 「嫌よ!ちゃんとしたレストランに連れて行って頂戴!それとも何、あそこに居る女の傍に行きたいって言う訳?!だったらあなた一人だけで行く事ね!あたしはご免被るわっ!」 マリアが怒るのも無理はない。 確かに、彼女の存在を忘れて上司に見惚れていた自分が悪いのだろう。 だが、こうも感情を顕わに嫉妬心を撒き散らすマリアにも軽く失望した。 おまけに、大きな黒目を見開いて、紅潮した頬をした彼女は確かに美しかったが、たった今まで見ていた上司に比べると見劣りする事は否めない。 そう思った途端に、彼女への興味が一気に無くなった。 なんとも最低な男である。 「きゃー!ちょっと、見て!凄い!!!」 「わっ、ホント!凄い!!!」 天下の往来で、堂々と痴話(?)喧嘩を繰り広げていたロイ達の周りには、いつの間にか多少の人垣が出来あがっていた。 そんな人波の一部から驚きと喜びの声があがり、俄かに騒がしくなったかと思ったら人垣が割れ、道が出来た。 ようやく周囲の状況に気が付いたロイが、何事だろうと疑問に感じたその次の瞬間、突然その声が聞こえてきた。 「マスタング少佐じゃないか。何やってんだ、こんな所で?」 そんな、どこか面白そうで、明らかな悪気を含ませた、耳に心地よい響きの声に、ロイは嫌というほど聞き覚えがあった。 「―――エルリック少将」 「よう!何だか大変そうだな、少佐」 いつの間にカフェから出て来たのだろうか。 今にもカフェに行こうとしていた先程の彼女達も、突然目の前に現れた渦中の人物に目を丸くして見入っている。 彼女達の、ぽかーんと口を開けたその表情は、あまりにも間が抜けていたが、気持ちはよく分かるし、無理もないことだとも思う。 実際、この将軍を初めて目にする多くの人間が、男女を問わず同じ表情をするからだ。 事実、この時も周囲に居る者達は少なからず皆同じ顔をしていたので、あまり気にする事もないだろう。 それにしても、遠目で見た時よりも更に美しさが光る将軍は、何度見ても見慣れる事が無い。 その存在一つで周囲を圧倒する将軍の隣には、先ほど見た女性が居り、ロイをからかおうとしている彼を止めようとしていた。 この女性も中々の美人である。 将軍よりも濃い金髪に青目、可愛らしさと頭の良さを感じさせる知的な雰囲気が好感が持てる。ロイよりも多少年上に見えるが、十分に若く、将軍ともお似合いに見えない事もない。 そして、将軍の腕の中には三歳くらいの女の子が大事そうに抱えられており、先程見掛けた子供だとすぐに分かった。 女の子は濃い金髪に淡い青目の、将軍の連れの女性に似た顔をしていた。 どう考えても、仲の良い家族にしか見えない。 聞いた事はないが、やはり将軍の妻子なのだろうか。 そう思った途端に、胸がちくっとしたのは気のせいだろうか・・・。 自分の心中が今一つ掴めないロイであった。 そんなロイの葛藤に、当り前だが頓着する事もなく、女性に窘められても一向に考えを改める気が無い将軍は、ニヤニヤとした笑顔をロイに向け、心の底から楽しそうだった。 見かけに依らず、本当に人の悪い上司である。 そして、エドワードに見惚れていた周囲の者達は、その口調と心地よいテノールの声、化粧っ気の全くない顔、女性にしては多少高いと思われる身長などを自らの目で確認して、漸く彼の人物が男性だと理解した。 そして、理解した途端に驚愕する。 こんなにも綺麗な顔をした男が居るのか、と。 「おっ、男!?少将って・・」 ロイに怒りをぶつけていたマリアが、エドワードの正体に気が付き、目を瞠る。 まさかこんなにも綺麗な男がいるなんて・・・。 誰もが思う事を、マリアもまた実感する。 しかもロイよりも若く見えるのに少将だとは更に信じられない。 容姿に自信を持つマリアにしてみれば、幾ら綺麗だとはいえ、自分とデート中の男が他の女に目を奪われるのだって許せないのに、それが男だったなんて尚更許しがたい屈辱だった。 しかも、気が付けば自分の周りには人垣が出来て、その中心に自分がいた。 それでも、主役が自分ならば我慢できるが、そうではないのだ。 明らかに自分はおまけ的な見かたをされていると分かる。 侮辱されたり、蔑ろにされることに免疫のないマリアは、未だかつて無いこんな屈辱的な状況には一時たりとも我慢ならなかった。 バシッ! 「バカにするのもいい加減にして!!さよなら、少将大好きなマスタング少佐!!」 100m先にまで音が響きそうな勢いでロイの左頬を打つと、とんでもない捨てゼリフを吐き、プライドの高いマリアは、足音も荒くその場を立ち去った。 マリアの平手を、避けようと思えば避けられたが、多少とはいえ自分の非を否定できなかったロイは、甘んじてその攻撃を受けた。 ただ、一緒に吐き捨てられた言葉には焦らずにはいられなかった。 ロイは、予想外だったマリアの報復に動揺し、頭を抱えたくなる。 ”少将大好き” だなんて、なんて事を云うのだ。 そんな事を言おうモノなら・・・・。 |
大した話でもないし、一話で終わらせるつもりが、
どうにも区切りがつかなくなってしまいました(>_<)
次で終わると思いますので、もう少しお付き合い下さい;;;
2009/04/11