チョコレイト









放課後、学校を出た一護はあてもなく町を彷徨っていた。


どうしよう。どうしたら良いんだろう・・・・。
門限まであと3時間。それまでにチョコを買って帰らなくては・・・。
ブツブツと呟きながらふらつく一護はかなり怪しい。そんな一護の周囲には妙な空間が広がっている。皆、目が合ったら何をされる分からない恐怖に怯え、遠巻きにしながらチラチラと様子を伺っていたのだ。


ふと、一護の目の前に今にもつぶれそうなケーキ屋らしき店が目に入った。
バレンタイン当日というのに、路地を入った奥にあるせいなのか、店の周りには人気が無く閑散としていた。
こんな所にケーキ屋なんてあったっけ?
そんな疑問を抱きつつ、一護は、吸い寄せられるようにそのケーキ屋へと近づいていった。
よくよく見ると、そこはケーキ屋ではなくパン屋らしい。5坪も無いのではと思われる狭い店内には、愛想の無さそうな中年親父が店番をしていた。


よく見かけるパン屋のように、菓子パンや調理パン等はなく、カイザーゼンメルやひまわりの種のパン、パーティブロート等のドイツパンが存在感たっぷりに陳列されており、およそ、女子高生やおしゃれな女性達が好んで訪れる店には見えなかった。
しかし、一護にとっては天の助け。
店の中にはパンの他に一種類だけケーキが置いてあったのだ。


『Rotweinkuchen 赤ワインケーキ』


ドイツではよく食べられているが、日本ではあまり馴染みのないスパイスを効かせた赤ワインケーキは、冬に食べるのにぴったりの大人のケーキである。
温めた赤ワインの中でチョコレートを溶かして作るため、見た目の色はチョコレート色なのでバレンタインにもぴったり。派手さはないが味わいのあるケーキだ。


物も言わずにケーキを凝視している一護に、店主の不機嫌な声が掛けられた。


「おい兄ちゃん、買うのか買わないのかどっちなんだ?」

「あっ?ああっ買う買う!!このケーキ一つ下さい!」


およそ、客商売をしてる人間とは思えない店主の言葉だが、舞い上がっている一護は、そのぞんざいな口調に腹も立たない。
店主も口は悪いが、信念を持っているからこその頑固さが表に出ているだけで、人は悪く無さそうだった。


ようやく手に入れた白哉へのチョコは、ケーキへと姿を変えてしまったが、まあ問題ないだろう。
無骨な職人気質の店主が経営するパン屋で販売しているケーキだけに、バレンタイン用の可愛らしいラッピングではなかったが、箱の上に赤のシールリボンを貼ってくれた。


女性達の奇異の視線に晒される事なく、店員の女の子にも不気味がられることなく手に入れたバレンタインケーキ。
一護は十分過ぎる収穫に大満足だった。
ただ問題はその大きさ。
22cmのクグロフ型のホールケーキはかなり大きい。
妹達に気付かれずにどうやって家に持ち込もうか・・・・。
一つ問題が解決した途端に次の問題が発生する。
人生は甘くない・・・。





「一護お兄ちゃん、おかえり」

「げっ遊子;;;;」


玄関で、ただいまも言わずにこっそりと家に入ろうとした一護をよそに、階段を上がりかけていた一護の背中に、遊子の声が掛けられた。



「げっ、って何驚いてるの?」

「なっななななっ・・・なんでもないっ;;;」

「ふーん、でもなんだか焦ってるみたいだけど」

「うっ・・いや・・そんな事ないぞ!」

「そうなの?」

「ああ。本当に何でもないぞ。急に声掛けられたからビックリしただけだ」

「そっか。ごめんね驚かせちゃって」

「遊子が謝ることなんかないぞ。俺が勝手に驚いただけなんだからな」

「うん」

「じゃあ、あとでな」

「うん。もうすぐご飯出来るからね。そしたら呼ぶね」

「分かった。じゃあな」


体の前にケーキの箱を隠すようにして持っていたため、
首だけ後ろに捻って話すという不自然な姿勢を取っていた一護は、
遊子が去った後にほーーっと息を吐いて脱力した。
やっぱり何事もなく部屋まで行き着くのは無理だったかと思いつつ、見付かったのが遊子で良かったと安堵する一護。
これが夏梨だったら、もっと厳しい追求にあってたところだろう。
一護は、今度は夏梨に見付からないうちにさっさと自室に戻ろうと足を運ぶ。


「ふー、危なかった・・・」


やっと自室に辿り着いた一護は、扉に体を預けてへたり込む。
これで妹達に見付かる心配は無くなった。
あとはどのタイミングで白哉に渡すかが問題だ。
それにしても、いざ渡すとなるともの凄い恥ずかしさが込み上げてくる。
それはそうだろう。男である一護がバレンタインに、男である白哉にチョコ(ケーキ)を渡すなんて全くの未経験。どうやって切り出したら良いのかなんて分かるはずも無い。


こうなると、一直線に白哉の部屋に行って、勢いのままにさっさと渡してしまえば良かったと後悔しきり。
一旦自室に入ってしまったことで余計に手間が増えたように感じる。
第一、廊下に出てしまっては、また遊子や夏梨に見付かってしまうかもしれない。そんな事にもたった今気づいてしまった。
つまり、白哉をここに連れて来なければならないということだ。
・・・・・・どうやって?


白哉の霊圧が感じられるという事は家の中に居るはず。
当然、一護が帰ったことに白哉は気付いてるだろう。
このままでは、帰宅した一護が自分の所にやって来ない事に白哉が苛立ち、不機嫌になってしまう。そうなると後が怖い・・・。


ええい、ままよ!どうやっても恥ずかしいのは変わらない。それならば考えても仕方がない。白哉の機嫌が悪くなる前に思い切って渡してしまえと一護は立ち上がり、白哉の部屋を訪ねるべく勢いよく扉を開けた。


「うわぁ!びっくりしたーー;;;」


開けようとした扉が急に開いた事に驚いた夏梨が、思わず声を上げる。
人がいるとは思ってなかった一護もまた、驚きの声を上げる。よくよく今日は叫び声を上げる日だ。


「うわっ夏梨!なっ何してんだこんな所で」

「何って、夕飯の支度出来たから呼びに来たんだけど・・・。一兄何焦ってんの?」

「ぅ・・焦ってなんかねえよ。夕飯だろ、直ぐ行くから。サンキューな夏梨」

「うーーん。なんか怪しいけどまあ良いか。遅くなると遊子に怒られるしね。じゃあ、あたし白兄にも声掛けてくるから先に行っててね」

「おう」


出鼻を挫かれた上に心臓に悪いほど驚かされた一護は気が抜けてしまい、大人しく階下へとむかう。
仕方が無い、白哉へ渡すのは食事の後にしよう。
その方が自室に誘いやすいし、返って都合がいいかもしれない。
気を取り直した一護は足取りも軽く食卓に付いた。
しかし、そこに本日最後の試練が待っていようとは思いもしない一護だった



















すっすみませーーーーん;;;;
散々お待たせした上に終わりませんでしたーーー(>_<)
っていうか、書いてたら何だか長くてキリが悪くなってきてしまったので、
一旦ここで切って、次で纏めようと思います;;;
途中までは書いてあるので、次は今回のインターバルよりももう少し早くUP出来ると思います・・・・多分・・・(殴)
本当に申し訳ありませんが優しいお心でもう少しお待ち下さい。
バレンタインの話なのにとっくの昔にホワイトデーまで過ぎてるってどうよ?

2005.4.4