チョコレイト
『ジャンケンポン!』
『あいこで、ショー!』
『やったーまーた私の勝ちーー!!』
『あぁーーーー;;;』
『パ・イ・ナ・ツ・プ・ルッ!』
『もう一回!』
『ジャンケンポン!』
『わーーい!勝ったーー!!』
『チ・ヨ・コ・レ・イ・トッ!』
先程から遊んでいる子供達を見ているようで全く見ていなかった一護は、
『チョコレイト』という単語に激しく動揺する。
無邪気に遊ぶ子供に罪は無いが、今一番聞きたくない言葉だった・・・。
普段の一護ならチョコレートと聞くだけで、表情はともかく内心はウキウキしてしまう程大好物なのだが、
今の一護にとっては悩みのタネ筆頭の座を堂々と確保している厄介な代物なのだった。
何故なのか?
それは・・・・・、今がバレンタイン商戦真っ只中だから。
だから何?と言う突っ込みがどこからともなく飛んできそうだが、
悩むからにはそれなりの理由がある。
毎年この季節になると、遊子は手作りのチョコ制作に精を出し、
夏梨は夏梨でバレンタイン特設コーナーにしょっちゅう通っては美味しそうなチョコを吟味する。
そして、心のこもったチョコを頼りになって優しい兄である一護と、
暑苦しい愛情表現に辟易しながらも憎めない父親である一心に、
バレンタイン当日に手渡してくれるのである。
妹から貰う事に少し恥ずかしさを感じるが、やはり嬉しい。
一心などはあまりの嬉しさに涙を流しながら二人に抱きつき頬擦りまでしてしまう始末。
当然夏梨に蹴飛ばされ更に涙を流す破目になるのも毎年の事だった。
ただ、今年に限ってはこの妹達の愛情が一護を窮地に追い込んでいたのだ。
それはひとえに一護を溺愛してやまない白哉のせいである・・・・。
去年まで、黒崎家は一護・夏梨・遊子の子供3人と、大黒柱である一心の、仲良し(?)4人家族だった。
しかし、今年の黒崎家にはもう一人・・・何処からともなく降って湧いた長男・白哉が増えている・・・・・。
いつの間にか5人家族になっていた黒崎家だったが、どこからも不審がられずにご近所様から親類一同までが、白哉の存在を当然の事として受け止めていた。
つくづくどうやっているのか疑問だ・・・と一護は未だに頭を悩ませる事がある。
まあ、それはよいとして、何故一護が窮地に追い込まれているのか・・・。
それは、初めて現世で暮らしバレンタインの存在を知った白哉が一護にチョコを要求した事から始まった。
甘いものが好きではないくせに何故チョコを要求するのか・・・・。
それは遊子や夏梨からバレンタインは恋人同士が愛を確認しあう日であり、好きな男の子に女の子がチョコを渡しながら告白する日である。
つまり主に恋人同士のイベントであると聞いて、恋人である自分が一護からチョコを貰うのは当然という、要は一護への独占欲が発揮されたからに他ならない。
一護にとっては迷惑この上ない事態となってしまった。
当然の事ながら今まで貰うばかりで、自分が誰かにチョコをあげるなんて事は考えたことがない一護。
欲しいと要求されても、どうやってチョコを調達したら良いのか皆目検討もつかない。
この時期に男である一護がチョコレート売場に行くには大変な勇気が必要である。
突き刺さるような女性達の視線に耐えられる自信は全くないし、そんな恥ずかしい事は断じて出来ない。
残された選択肢はコンビしかないが、コンビニでも売ってるバレンタイン仕様のチョコはやはり恥ずかしくて買うことは出来ない。
そうすると、後は普段から普通に売ってるチョコを買うしかないが、
何の梱包もされていないチョコをポイッと渡すのも何だか味気ないし、白哉には似合わないような気がする。
渡せば何でも良いようなものなのに、変な所に拘るあたりがやはり一護も白哉に惚れている証拠である。
痘痕もえくぼというやつである・・・・。やはりバカップル・・・。
結局の所どうしたら良いのかわからない一護は、バレンタイン前日になってもまだチョコの調達が出来ていなかった。
期限はあと1日。
大好物のチョコレートが大嫌いになりそうな一護だった。
2月14日。バレンタイン当日。
朝から空座高校では、登校時、休み時間、昼休み、放課後と、あちらこちらで本命の男子にチョコを渡すべく奔走する女生徒や義理チョコをばら撒く女生徒。照れながらも嬉しそうな顔をして受け取る男子生徒、または一つも貰えずにどんどんと暗いオーラを纏いながら沈んでいく男子生徒等々、悲喜こもごもな光景が見られた。
一護の周りでも水色が上級生の女子に呼び出されては、確実に義理ではなく本命と思われるチョコレートを幾つも貰っていた。
水色は、何時ものとおりお姉さまたちの母性本能を擽らずにはいられない笑顔を浮かべながらチョコを受け取っており、そんな水色を涙を流して羨ましがっている啓吾は、一つも貰えず更に滝のような涙を流して身悶えていた。
傍迷惑なほど鬱陶しい・・・・・。
一護はといえば、竜貴から毎年恒例の義理チョコを貰い、織姫から本命チョコを受け取った。
勿論本命チョコと知らないのは一護のみ・・・。
何が入っているのかは食べるまで分からないロシアンルーレットのような織姫の手作り本命トリュフチョコレート。食べたら確実に腹を壊すだろう・・・・。
確かにコレを本命チョコだと思う男は居ないだろう。
「はい、浅野君。何時もお世話になってます!チョコレート作ったんだけど受け取ってくれる?」
「もっ勿論だよ〜〜〜〜!!!ありがとう井上さんvvvv」
啓吾も織姫からやっと義理チョコを貰い、飛び上がって喜ぶ。
恐怖のロシアンルーレットチョコとも知らずに。
「一護!チョコ貰ったぞ!!!」
「あ?・・・ああ良かったな」
自分の世界に籠もっていた一護は啓吾のはしゃいだ声に現実に戻される。
そんな気のない一護の反応に不満たっぷりの啓吾は頬を膨らませて抗議する。
「何だよーー一護!チョコレート貰ったんだぞっ。嬉しくないのかよぅ!!!」
「い、いや嬉しいよ」
「そうだよなーーー!やっぱバレンタインデーはチョコ貰ってなんぼだよなvvv」
恐ろしいまでの啓吾の喜びように一護は引きながらもきちんと答えてやる。
ここで放っておいたら更にテンションが上がり厄介な事になる。
まったく、良い奴だが手のかかる友達である。
そんなことよりも今は自分の問題の方が重要だ。
タイムリミットまであと5時間。
一体どうしたらいいんだろうか・・・・。
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