チョコレイト









一家団欒がモットー及びルールである黒崎家では、いつも全員が揃って食事をする。
例え娘達に恋人が出来てもこの習慣をなくすつもりなど一心には毛頭ない。
心底迷惑極まりない父親の信念に、いつか娘たちの過激な抵抗が起こることは間違いない。


この日も、白哉が席に着いたところで食事が始まった。
一心は、今朝遊子と夏梨に貰ったチョコのことで一日中浮かれ、更に患者から貰った多くはない義理チョコに舞い上がり、やはり自分は人気者なのだガハハと調子にのって騒いでいる。
いつも以上に鬱陶しいこのテンションに切れたのは夏梨だった。
とても小学生の女の子が繰り出すとは思えないようなキックをかまし黙らせるが、懲りない一心は直ぐに復活し食卓をバトルの場へと変える。


「三人ともいい加減にしないと明日からご飯抜きにするよっ!!!」


いつの間にか一護まで参戦していた戦いは、激しさを増し、収拾が付かなくなりそうになっていたが、黒崎家の家事一切を取り仕切ってる遊子の、生死にかかわる発言で、なんとか事無きを得た。
が、一触即発の雰囲気は損なわれていない。
いつでも緊張が絶えない黒崎家の食卓風景は異様だ。





「そういえば、一兄大きなケーキ貰ってきたよね。冷蔵庫に入れなくて良いの?」


夏梨の突然の爆弾発言に、一護は口にしていた物を目の前に座っている遊子に噴出してしまう。


「いやーっお兄ちゃん、汚い!!!」

「わ・・っ・・わりぃ遊子;;;」

「か・・夏梨っ!何言ってんだ?そんなもん貰ってきてないぞ;;」

「えっ?だって一兄の机の上にケーキの箱みたいなの乗ってたじゃん。あれってケーキじゃないの?」

「・・うっ・・・あ・・あれはだな・・・その・・」


どうしたらいいんだ・・・、白哉にあげるためにバレンタイン用のケーキを買って来たなんて、いくらなんでも言えるわけがない。
どう誤魔化したら良いのか分からない一護は、パニックに陥り、結局上手い言い訳が思いつかないまま言葉を発してしまった。


「ぅ・その・・ケ・・ケーキ・・だ・・けど・・」

「やっぱり!一兄も隅に置けないねーv誰に貰ったの?竜貴ちゃんじゃないよね」


ニヤニヤしながら夏梨が一護を冷やかす。


「う・・・それは・・その・だな・・・」

「それは?」

「・・・・ぅ・・あの・・」

「夏梨ちゃんもうやめなよ、一護お兄ちゃん困ってるよ」


なんと答えていいのか苦慮している一護に、天の助け、遊子の制止がはいる。
一家のお母さん的存在の遊子の言動には、何故か逆らえない黒崎家の面々。夏梨も渋々ながらその矛先を治める。


「一護お兄ちゃんも、いくらまだそんなに気温高くなくても冷蔵庫に入れないと折角貰ったケーキ悪くなっちゃうよ」

「あっ・・・あぁ・・そうだな・・・」


一護にとっては冷や汗もののこのやり取りの間、何も言わないが、白哉の射るような視線が自分に注がれているのをひしひしと感じていた。
白哉が、未だ自分へのチョコレートを持ってこないばかりか、誰かから貰ってきたケーキを家に持ち帰ってきた一護に憤然としているのは一目瞭然。
早いとこ誤解を解かないことには後が怖い。
一護は愛すべき妹によって窮地に立たされていた。





「「「「ごちそうさまでした」」」」

「はい、お粗末さまでした」


今時の家庭では見られないような古き良き時代の家族の光景が、そこにはあった。
白哉でさえきちんと挨拶している。・・・・・恐るべし黒崎家の掟。


食事後、遊子と夏梨が後片付けのために台所に下がり、一心が入院患者のための回診に向かった。意外にも、真面目に仕事をしている一心だった。


取り残された一護と白哉の間には、なんとも気まずい雰囲気が漂っていたが、白哉が立ち上がったことで、その沈黙が破られた。
そのまま自室へと下がろうとする白哉に一護が慌てる。
このままでは、折角用意したケーキを渡すきっかけが失われてしまう。


「白哉・・・、っと兄貴。俺の部屋来てくれないか?」

「・・・・・・・」


あまりにもストレートな誘い文句に、自分で言ってて恥ずかしくなった一護をよそに、白哉は無言で返す。
その瞳が笑っていない。というか怒っている。
はっきり言ってもの凄く怖い。
が、ここで臆しては、今までの苦労が水の泡だ。
そんな事態にだけは絶対にしたくない。
一護の必死な顔に何か思うところがあったのか、白哉が促す。


「では、行くぞ」

「おう、サンキュ、兄貴」


なんとか白哉を自分の部屋に呼ぶことに成功した一護は心底ホッとした。
あとはケーキを渡せば白哉の誤解も怒りも解けるだろう。





パタンという音とともにドアが閉まると、一護は急に緊張した。
首尾よく白哉を部屋に呼んだのはいいが、どうやって切り出したら良いのかが分からない。
とはいっても、机の上にデン!っと置かれているケーキ箱は、意識しなくても自然と目に入る。
当然、白哉の視線も一護からケーキへと移っている。
何を思っているのか、その表情からは全く読み取れないが、機嫌がよく無さそうなのは何となく感じる。
ただし、先程の食事の時よりは幾分落ち着いているようだ。


「えっと・・白哉・・」

「これはお前が誰かから貰ったものなのか?」


一護の言葉を遮るように白哉が口を開く。
その口調が幾分追求するような響きを持っているのは、決して一護の気のせいではないだろう。
しかし、とんだ勘違いで怒られるのはたまったものではない。一護は慌てて否定する。


「えっ!ちっ違う;;;貰ったんじゃなくて、俺が自分で買ったんだ」

「自分で?何のために?」

「何って、そりゃ・・・・その、白・・・哉に渡すために;;;」

「私に?ケーキを?何故?」

「何故・・・って、そりゃ、バ・・バレンタイン・・・だから;;;;;;」


たったこれだけの言葉だが、実際口にするのと、想像していたのとでは、その恥ずかしさの度合いが桁違いだった。
バレンタインの贈り物をするのが、こんなに恥ずかしい事だとは思ってもみなかった。一応両思いである自分が、恋人にチョコを渡すだけでもこんなに恥ずかしいのに、世の女性達は片思いの相手に告白とともにチョコを渡す事もあるという。
想像も出来ない。
一体どの位の勇気を振り絞ったらそんな事が出来るのか。
改めて女は凄いと、変なところで感心した一護だった。


一方、そんな一護の心の葛藤も知らずに、白哉は顔を真っ赤にして、しどろもどろに言葉を紡ぐ一護をみつめていた。そして再び疑問に思ったことを一護に問質す。


「バレンタインだと?バレンタインと言うのはチョコレートを渡すものではないのか?何故ケーキなのだ?」


バレンタインの知識を妹達から得た白哉には、バレンタイン=チョコレート。という、ごく単純な図式のみがインプットされていた。
故に、何故一護がチョコレートを買ってこないのかが理解できず、尚且つ腹立たしくもあったのだ。


「バレンタインって、絶対にチョコじゃなきゃダメってわけじゃなくて、ケーキでもいいんだ。白哉にはチョコじゃなくて悪かったけど、このケーキ買うのだって凄く大変だったんだからな!!!」


やっと弁解する場が持てた一護は、ここぞとばかり、白哉に如何に自分が大変な思いをしてこのケーキを買ったのかを力説した。
帰ってきてからも、直ぐに渡したかったのに遊子や夏梨に見つかって、スムーズに渡せなくて申し訳ないと思っていることなど、必死に言い募る一護は、不機嫌だった白哉がつい微笑んでしまうほどに可愛い。
こんな一護をみて、いつまでも不機嫌な様子を保つのは難しい。
一護の顔を両手に挟み、ふわりと笑顔を見せた白哉は、突然の白哉の行動と、その笑顔に目を丸くしている一護を更に驚愕させる言葉を紡いだ。


「つまりお前は、そんなにも恥ずかしく大変な思いをしてまでも、途中で諦めたりせず、私のためにケーキを買って来てくれたのだな?そんなに私の事が好きか?」

「!!!!!!」


一護の顔は、もうこれ以上赤くなれないだろうと思われるほど真っ赤だったのに、この言葉を聞き、理解するとともに、更に赤く、完熟林檎のように真っ赤になった。それも、顔だけでなく耳や首筋。手の甲までもが赤く染まった。


「なっ・・なっ・・・・・・・なっ、何言ってんだ!そんな事一言も言ってないだろ!!!」

「そうか?私の耳にはそうとしか聞こえないがな」

「違う!そんな事は言ってねぇ;;;;」


あまりの恥ずかしさに、一護は思いっきり否定する。
が、白哉に頬を挟まれたまま、振り払いもせず、全身から湯気を上げんばかりに真っ赤になっていては何の説得力も無い。
何時もの事だが、図星を指された時の一護の反応は決まっている。
必ずむきになって白哉の発言を否定するのだ。正に今のように。
白哉にとって、それは肯定しているのと同じこと。笑みが深くなるのも当然だろう。
そして、白哉が一護をからかう時、白哉の機嫌がどんどんよくなり、普段見せないような笑顔を振りまくのも、いつもの事。


案外、というか絶対に、お互い相手のその反応が見たくて、いつも同じような問答を繰り返しているとしか思えない。
つまりはバカップルである。
二人っきりの時ならば許されるだろうが、公衆の面前でこのような事をしていたら、立派な犯罪。公衆わいせつ罪(?)である。
男同士というだけでもマイナス要因だが、例え男女のカップルだとしても、この痴話喧嘩には、周囲の人間が呆れてものも言えなくなる事は簡単に想像が付く。


「とっ、とにかくだな、俺は言われたとおりにちゃんと、バレンタインのチョコじゃないけど、ケーキを買って来たんだからな!絶対全部食べろよ!」


いつまでも白哉のおちょくりに付き合ってはいられない。勢いに任せて言いたい事を言い切り、一護はやっとすっきりした。
そこには、顔は赤いながらも、いつもの如く不敵な顔をして、白哉に対し、いかにも、どうだ!恐れ入ったか!と言わんばかりの表情をした一護が居たのだ。生意気な子供のような一護の仕草が可愛くて仕方が無い。
結局、白哉は一護が何をしても可愛く見えるのだ・・・・。
そのまま一護の顔を引き寄せふわりとキスをする。


「勿論、食べさせて貰おう」

「#&☆$*♪!」


白哉の恥ずかしい行為に声も出せずに口をパクパクとさせてうろたえる一護は、傍から見ていてかなり面白いが、いつまでもそのままでは事が進まない。
白哉は一護を促す。


「どうした?くれないのか?」


はっと気を取り直した一護は、動揺して震える手で、机の上に置いていたケーキを慎重に取り上げ、白哉へと渡す。生クリームケーキではないので、多少傾いても中身には何の影響も無いのだが、やはり綺麗なまま渡したいと思うのは当然だろう。何しろ相手は恋人なのだから。


「は・・はぃ・・・・、どうぞ!」


ずいっと腕をいっぱいに伸ばし、ケーキを白哉の胸の辺りに差し出すが、その視線はといえば、思いっきり下を向き、目までギュッと瞑っている。
勢いがあるんだか無いんだかよく分からない、なんともぎこちない渡し方だが致し方ないだろう。何せ初めてなのだ。しかも人一倍恥ずかしがり屋で、ぶっきらぼうな態度しか取れない一護なのだから。


「では、貰おう」


一護から受け取ったケーキをもとの机の上に置き、丁寧に包装を剥がす。
出てきたのはシンプルな赤ワインケーキ。
甘いものは苦手な白哉だが、一護の贈り物だと思うとそれだけで嬉しくなる。
しかし、これをいったいどうしろというのだろうか?その疑問はそのまま一護への質問となった。


「どうやって食べるのだ、これは?まさかこのまま丸ごと食べるわけではなかろう?」

「えっ?どうやってってナイフで切り分けて・・・!ナイフとフォークと皿を持って来るの忘れてる;;;」

「お前は、私に丸ごと手掴みで食べさせる気だったのか?」


呆れたような、からかっているかのような、どちらにしてもひどく楽しそうな口調で、白哉が一護に突っ込みを入れる。
ますます楽しげな白哉とは反対に、さっきからおろおろと落ち着きが無く慌てている一護は、もうパニック寸前である。渡す事だけに夢中で、その後のことなどまったく念頭になかったのだ。初心者なのだから仕方が無いといえば仕方が無いが、間抜けである・・・。


「俺、台所から取ってくる!待っててくれっ!」

「よい、自分で切ろう」

「えっ?どうやっ・・・」


一護の言葉が終わる前に、目の前では、白哉が少しの手振りでいとも簡単にケーキを切っていた。見事に3センチほどの幅で切られたケーキのピースを見て、一護はあっけに取られる。
恐らく鬼道の一種なのだろうが、まさか鬼道でケーキが切れるとは思わなかった。というか、鬼道をこんな情けない事に使った死神は、今まで絶対に居なかったに違いない。
まあ、斬魄刀で切るよりはましかも知れないが・・・。


一護の驚きを意にも介せず、白哉は切り分けられたケーキを優雅な仕草で掴み上げ、自らの口に運ぶ。
あっけに取られていた一護も、緊張して白哉の反応を固唾を呑んで見守る。気に入ってくれるだろうか・・・。


「ど・・どぅ・・?」

「あぁ、なかなか良い味だ」


一口分のケーキを食べ終えた白哉に、一護が恐る恐る訊ねる。
表情を変えずに答える白哉に、不味くはなかったようだと一護は取りあえず安心するが、それ程気に入っては貰えなかったのだと思い、少し落胆する。


「そっか・・・」


先ほどの勢いをなくし、落ち込んでしまった一護に白哉が首を傾げる。


「どうした?」

「だって、あんまり気に入らなかったんだろ?」

「何故?」

「美味いって言わないから・・・」

「?良い味だと言ったが?」

「良い味と美味いってのは別だろ?良い味だけど、白哉は好きじゃないんだよな?だから美味いって言わないんだろ?」

「何を言ってるのだ。良い味というのは気に入ったという事ではないか」

「違う・・・」


溜め息をつきながら、つくづく一護に甘いと白哉は自覚する。こんなにも甘やかしたい相手が自分に出来るとは思ってもいなかったが、悪くない。
思い切り甘やかして自分なしで生きられないように出来るならば、いくらでも甘やかそう。どんなに一護が嫌がっても、もう手放す事は出来ないのだから。


「では、言い直そう。私は甘いものは好かないが、このケーキはほどよい甘味でしつこくなく、私の口に非常に合う美味しさだ。苦労して買って来ただけのことはある」


一護のためならば、白哉はいくらでも饒舌になれる。また、絶対に嘘はつかない白哉だから、一護の機嫌を取るためでもあるが、この言葉は本心でもある。それが分かる一護は、やっと笑顔を取り戻して白哉に向き合う。


「ホントか!良かった!」

「ああ、私は嘘は言わないし、そんな必要も無い。お前も食べてみればいい」

「おう」


白哉の食べかけのピースを貰って少しだけ食べようとした一護に、白哉の唇が降ってきた。


「うぅっ!」


「ぅんっ・・ふっ・・・ぁ・・あぅ・・」


突然の口づけに一護は驚く。おまけに白哉の口の中には、新たなケーキの欠片が入っていたのだ。しかし、どんどん深くなる口づけに段々と余裕が無くなり、重なった唇からはくぐもった喘ぎ声が漏れる。
自分はケーキを食べようとしただけなのに。どうして、こんな事になっているのだろうかと、頭の隅でチラッと疑問が過ぎったが、直ぐに思考は霧散した。


一護の口の中にケーキとともに入ってきた舌が、自分の方に誘うように一護の舌とケーキを絡めとりつつ引いていく。戸惑いつつも行為に溺れかけていた一護は、無意識に白哉を追いかけ、その口内に深く入り込む。
ケーキをお互いの口内で転がしながらの口づけは甘い。一護は、夢中になって白哉の口内とケーキを貪る。
白哉はひっそりと微笑みながらたっぷり3分は一護との口づけを楽しんだ。
最後に口の周りを舐めて一護を解放する。


「っ・・はぁ・・・はぁ・・・」


長い口づけから解放された一護は息も荒く顔も真っ赤だ。白哉との口づけは何時も激しい。しかも今回は互いの間をケーキが行ったり来たりしていたのだ。呼吸が整うまで、いつも以上の時間がかかるのはあたりまえだろう。しかし、白哉はそんな一護に頓着せず口を開く。


「美味しかったか?」

「?」


何のことを聞かれているのか一護には分からない。何が美味かっただって?酸欠のようになって頭に霞が掛かったようになっている一護には、白哉の質問の意図が掴めない。知らず問いかけるような視線を送ることになる。


「ケーキの味だ。美味かったか?」

「!!!」


やっと白哉の言っていることが理解できた。
普通に食べさせてくれれば良いのに、態々口移しで味見させたのだ。
なんて恥ずかしいことをするんだこの男は!!一護は激しく抗議した。胸の中で・・・。


「先ほど食べたときより、お前と一緒に食べた今のほうが美味かったな」


衝撃のあまり言葉も無い一護をよそに、白哉はご機嫌である。


いつの間にか恥ずかしい男になっていた白哉だが、本人は至って幸せそうである。
その被害を全面的に受けている一護もまた、なんだかんだ言いながら眉間のシワが取れ幸せそうである。


何日も一護を悩ましたバレンタインは、多少(?)のアクシデントを乗り越え、なんとか無事にやり過ごす事が出来た。
来年もこんなことをしなければならないのかという疑問は横に置き、今はこの事実を喜ぼう。そう決心した一護だった。










END










やぁーーーーーーーーーーーーーっと終わりましたーーーー!!!
恐れ多くも続きを待って頂いていた方々には、
本っ当に申し訳ない気持ちでいっぱいです;;;;
何が、次はもう少し早くUP出来るかもだよあたし(爆)
一ヶ月掛かってますから!前回から・・・・。
申し開きのしようが無い(>_<)
本当に本当にごめんなさい;;;
しかも、なんだか終わりかた強引だし・・・(汗)
おまけに長い・・・・。無駄な文章が多いのは分かってるんですが、
どうやって纏めたら良いのかがさっぱり分からん!
なので、このままUPします!(←開き直ってるよこの人・・・)
では、最後までお付き合い頂いた方、ありがとうございましたvv
少しでも楽しんでいただけてたら、
髪振り乱して踊るほど喜びます(体重くて踊れないけど;;;)

2005.5.5