文化祭パニック








白哉は早めに終わった編集との打ち合わせに少しだけ気分をよくし、その足ですぐさま一護の高校へと向かった。
時刻は10時10分過ぎ。この分なら10時半頃には着く。予定より30分も早い。
たった30分とはいえ貴重だ。
それだけ早く一護に会えるのだから。
毎日会っているくせに白哉の爛れた思考は止まらない。





「ありがとうございました〜」


大盛況の店内では啓吾達の元気のいい声が響いている。
テーブルは全て満席。店の外には数人が待っているほどの人気だ。
嬉しい悲鳴とはこのことだろう。大変だけどやる気が出る。
まあ、若干一名ほど不機嫌全開の者がいるけども・・・・。


一護の気分とは裏腹にご機嫌なのが黒崎家御一行様だろう。
やっとのことでコーヒーをせしめることに成功した一心は勿論、遊子と夏梨もおいしそうにケーキやシュークリームを
頬張っている。
娘たちが美味しそうに食べているのを見て我慢できなくなった一心は、コーヒーだけじゃ嫌だ、お父さんにも分けてくれっっと
大人げなくも娘たちのケーキを奪おうと必至だ。
しかし、当然ながら夏梨の反撃に遭いあえなく撃沈。
そんなアホな攻防が先ほどから繰り返されている。
この光景に周囲からは失笑が漏れている。
そんな一心を見るにつけ、一護の機嫌は更に下降の一途を辿る。
・・・・・・・・・・絞める。
心の奥底で一護は決心する。
そんな心穏やかでない一護に次の試練が近付いていた。





白哉が一護の教室に着いたのは10時半過ぎ。
教室の場所は予め遊子から聞いていたので探し出すのは難しくなかった。
もし知らなくても一護の霊力を辿れば探し出すのは容易い。
数人の列が出来ていたが、白哉はそれらを綺麗に無視して真っ直ぐにドアの前まで進み入室しようとした。
静かに、優雅に、音もなく歩く白哉の姿に周囲に居た人々が呆然とした視線を注ぎながら道をあける。
こんなに美しい顔を見たことが無い。
その玲瓏とした容貌と、無意識だろうが身についた優雅な仕草。
明らかに自分たちとは何かが違う。
そう思わせる白哉に陶然としたした表情を浮かべるのは、何も女性だけではない。
不気味だが多くの男性陣が頬を染めながら見つめていた。
こんなことは日常茶飯事。
特に気に留めることもなく、全ての視線を地に叩きつけながら白哉は進む。


ドアの前で客の誘導を担当していた猫む○め姿の女生徒は、仕事を忘れて同じように夢見る視線を白哉に向けていたが、
列を無視して入ろうとする白哉に気が付き、立派な事に自分の職務に立ち返った。


「あっ、あの・・・こっ困り・・ます。こちらでお待ち下さい・・・」


か細い声で自分に話しかける少女に、白哉はチラッと視線を向け告げる。


「先に入った家族と待ち合わせをしている」

「あ・・・そっそうだったんですか。すみません。でっでは・・どうぞ・・」

しどろもどろになりながらも懸命に使命を全うしている少女に特に何の感慨も持たず、少しだけ頷くとドアを開けて中に入る。





ガラッと開いたドアの音に、生徒達が振り向きざまに「いらっしゃいませ」と声を出すが、その声の多くが途中で途切れた。
その現象を不審に思った客が数名入口を見る。
そして固まった。
つい数秒前にドアの外で繰り広げられたのと同じ光景がここでも見られたが、当の白哉はそんな事は一切関知せず、
先程と同様泰然とした足取りで目的の場所を目指す。


「あっ、白哉お兄ちゃん、こっちこっち!」


白哉の姿を見つけた遊子が大きな声で呼び寄せる。
そんな遊子の声に、今まで周囲の状況に気が付いていなかった店内の者全ての視線が白哉に注がれる。
そして固まった。
以下同様。


「早かったねお兄ちゃん。打ち合わせもう終わったの?」


空いていた一心の隣の椅子に座りながら白哉が答える。


「ああ」

「そっか、良かったね。あたしたちもついさっき来たばっかりなんだよ」

「そうか」

「うん。こんなに早く終わるんだったら一緒にくればよかったね」


残念。と言いながら話す遊子に薄らと微笑を浮かべながら、「そうだな」と返す白哉。
そんな白哉に今度は夏梨が声をかけるが、答えたのは一心だった。


「白兄、何か注文する?」

「夏梨、お父さんには聞いてくれないのか?」

「親父はコーヒー飲んでるじゃん。それで充分だろ」

「酷いぞ夏梨!お父さんは悲しいっ!」

「あーっ煩いなー!何で同じこと何回も繰り返すんだよ。このバカ親父っ!!!」


再び、今度は夏梨に脳天チョップをくらい沈む一心。
本当に煩い・・・。
すぐ目の前で繰り広げられる光景も、こんな事はいつもの事と遊子も白哉も完全無視。
固まったままの周囲の視線をものともせずに黒崎家劇場は続く。


「あのね、あたし達の注文は一護お兄ちゃんが受けてくれたんだよ」

「そうか」

「うん。凄く美味しいよ。白哉お兄ちゃんも何か注文しなよ」

「ああ」

「あたしのお勧めはねぇ・・・」


一生懸命メニューを見て考える遊子を余所に、白哉の視線はカウンター近くに居た一護へと注がれていた。
店内に背を向けるようにしている一護に突き刺さる白哉の視線。
当然ながら、白哉が来た時点でその視線に一護は気付いていた。
それでも、無駄なあがきだと分かっていながらどうにか逃れられないかと思う心は止められない。
しかし、結局はどうにもならないのだ。
丁度諦めたその時、遊子に呼ばれたのでようやく店内に顔を向ける。
直後に絡まり合う2人の視線。
思わずドキっと高鳴る鼓動は既に条件反射のようだ。


「一護お兄ちゃん、白哉お兄ちゃんの注文お願い!」

「おう、分かった」


重い足取りで短い距離を囚人のような気分で歩く一護の表情は冴えない。
服装が服装なだけに、見ようによっては花嫁に逃げられた花婿のようだ。


「何にする?」

「紅茶で良い。それよりも、その格好は何だ」

「これは・・・」

「あのね、花婿さんなんだって!凄く格好良いよねー」

「ほう・・・花婿とな」

「・・・・・・・っっ!」


もの凄く嫌な感じがする・・・。
無関心そうに向けられた白哉の言葉が、実は曲者だと一護は知っている。
思わずそっとついた溜息には苦さが混じっていた。



























文化祭パニック9話目です。
ようやく兄さま登場ですが、一護との絡みは殆どなし;;;
じっ次回はもう少しどうにかなるんではないかと・・・。

昨日UPする時にコメント変えるの忘れてました;;;
変だな〜と思った方いらしたらすみませんでした。
それではまた次回でv

2007.10.30