文化祭パニック















「一兄、あたしミルクティとチョコレートケーキね」

「あたしはねぇ、オレンジジュースとシュークリーム!」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「あっ、バカ親父は水でいいよ」


空いた席に妹達を案内し、それぞれの注文を受けている一護は一心には一瞥もくれずに黙殺していた。
妹達も父親には特に注意を払わず自分達の食べたいものをあれこれと悩んでいたが、ようやく決まったようだ。
無言のままの一心のために夏梨は水を注文してやる。
いや、水は注文ではないだろう・・・。
そんな容赦のない夏梨の横には、頭から煙を出してテーブルに倒れ込んでいる一心がいた。
その目はどこか虚ろで、よく見ると口端からは泡を吹いているようだ・・・・。
その原因を作った一護は平然としたもので、夏梨よりも冷たい視線をバカ親父に注いでいた。
先程不意をつかれて抱きつかれた一護だったが、すかさず立ち直り、一心の拘束を振りほどき容赦ないエルボーをお見舞いしたのだ。
当然だろう。公衆の面前でありえない恥をかかされたのだから。
そんな一護の恨みの篭った鉄槌は、「ガツッッ」という、周囲を凍らせるほどの音を轟かせて見事に一心の脳天に下されたのだ。


「相変わらず強烈だなー、一護の親父さん」

「ほんと、元気だよね」


啓吾と水色の感想はもっともだろう。
というより、それ以外コメントできないと言った方が正しい。
下手な事をいって一護の逆鱗に触れてしまったら、それこそ自分達も一心と同じ運命を辿る事になるに違いないのだから。
今日の一護は怒らせてはいけない。
一護との付き合いが長いだけあって、本能で危険を感じ取っている2人だった。
当然ながら2人以外のクラスメイト達はノーコメントである。
初めて接する強烈な家族(というより一心)に顔が引き攣るのは仕方ないだろう。


「ほらよ、お待ちどうさん」

「わー、美味しそう。ありがとうお兄ちゃん」

「ありがとな、一兄」

「ああ」

「一護ぉ〜お父さんには何も出してくれないのかー」


妹達と微笑ましい会話を交わしている横から、恨みがましい一心の泣き言が聞こえてきた。
ちっ、立ち直りやがったか。鬱陶しい・・・。
内心で毒づきながら、怒りの冷めやらない一護は、ドンっと無言のまま一心の前に水を置く。
その水も今の衝撃で3分の1はテーブルに零れてしまった。


「一護ぉ〜〜お父さんは悲しいぞー!酷いじゃないか折角息子の晴れ舞台を見に来てやったのにー!」

「うるせぇ!晴れ舞台じゃないし、来てくれなんて一言も言ってねえっ!!!」

「そんなに恥ずかしがらなくたって良いじゃないかっ!そんな格好して待っててくれたくせに」

「そう言われれば・・。一兄、何でそんな格好してんの?」


うっ、このクソ親父っ。本当に要らん事ばっかり抜かしやがって・・。
本当に殺してやろうか。実の親に対してどこまでも容赦ない一護がいる。
でもまあ、この格好については聞かれる事は分かっていたのでそれ程の動揺はない。


「見りゃわかんだろ。うちのクラスの出し物は仮装喫茶なんだよ。裏方以外は皆何かしらの仮装してんの」

「へぇーそうなんだ、面白いね」

「凄く似合ってるよ、お兄ちゃん!ね、夏梨ちゃん」

「そうだね。確かに結構似合ってるかも。やるじゃん、一兄」


俺は全然面白くないけどな。
妹達の誉め言葉も一護には何の感慨も与えられない。
自分が嫌な事は人に何を言われても嬉しくないのが普通だろう。


「それってタキシードっていうの?それとも花婿さん?」

「花婿だろ、この激しい決め方は」

「そっか、じゃあ花嫁さんもいるの?」

「いや、関係ないから。皆個人仮装だから」


何だ、個人仮装って?
自分で自分の発言が良く分からない一護。
そんな混乱気味の一護を逆撫でするのはやはり一心だった。


「いつでもお婿に行けるなー、一護!お父さんは嬉しいけど淋しいぞっ!」

「誰が婿だっ!ふざけんじゃねぇぞこのアホバカクソ親父っ!!!」


バキッ!
再び一護の肘が一心の脳天に炸裂する。
プシューという音が聞こえそうな光景に、周囲からは恐怖と共に失笑が起こる。
目立ちたくないと思っている一護の意に反して思いっきり目立ちまくっている。
その原因は勿論一心のなのだが、被害の拡大には一護も大いに貢献しているのは間違いない。


「俺は仕事があるから戻るぞ。お前達も早く食べて他の所見て来いよ」

「うん分かった。でも、白哉お兄ちゃんとココで待ち合わせしてるからそれまではここにいるね」

「・・・・そうか」


やっぱり追い出すのは無理か・・・・。
出来れば白哉をここに来させないようにしたかったのだが。
まあ無理だろうとは思っていたのでそれほどの落胆ではないが、残念なのは確かだ。
無駄な疲労はしたくないと思うのは誰だって同じだろう。
この家族といる限り心の平穏はありえない。
したくもない再確認をしてしまった一護だった・・・。


現在10時18分。
白哉の予定来店時間まであと40分あまり。
それまでも、それ以降も何事もないことを祈るしかない。





















文化祭パニック8話目です。
なんと前回から1年5ヶ月も経ってます・・・・!
すっすみません;;;;;;
弁解の余地もないです(土下座)
すっかり内容忘れちゃって自分が
何を書きたかったのか見失いそうでした(爆)
次は兄様出てくると思います。
なるべく早く書きたいと思いますが、いつもいつも嘘ばっかり吐いてるので
誰も信じてくれないと思う・・・・。


2007.8.29