文化祭パニック
6
「一兄、明日の文化祭皆で行くからねー!」
「なっ何?!」
それまで平和だった食卓が一瞬にして壊れた。
まあそう思ったのは一護だけだったが・・・。
「だ・か・ら、文化祭に行くって言ってるの!」
「夏梨ちゃんとあたしと、お父さんと3人で行くんだよv」
「そうだぞ一護!絶対行くからな〜〜!」
口々に叫ばれる内容に眩暈がしてくる。嘘であって欲しい。夢であって欲しい。
でも悲しいことに現実だった。
確かに家の家族は鬱陶しいくらいに仲がいいと思う。それは認める。
学校の行事といえば授業参観以外は必ず家族総出で出かけていって応援するし観覧する。
そのお陰で毎回毎回一心の恥ずかしいほど過剰なリアクションに兄妹全てが犠牲になってきた。
それなのに何故いつまで経っても全員参加の習慣が改善されないのか。
それは、何を言っても絶対に来てしまう一心の被害を全員で受け止めようという兄妹の団結力のせいだった。
つまり一人で一心を受け止めるだけの勇気と体力が無いのだ・・・。
だから授業参観は悲惨だ。一人で全てを受け止めなくてはならないから・・・。
遊子と夏梨はまだいい。一緒のクラスになることもあるから。だけど一護は・・・・。
子供の苦労も知らずに本当に傍迷惑な父親である。
高校に入って初めての文化祭。家族一同がやってくるのは覚悟していた。
それでも今回に限っては本当に来て欲しくない。心から一護はそう思う。
中学までは、文化祭とはいえそこは所詮中学生。
展示や演劇、合唱の発表などが中心で、喫茶店やミスコンなどは無くとても地味なものだった。
だから家族が来ようがどうしようが大した被害は無かった。まあ迷惑だったのは間違いなかったが。
けれども・・・・。
今年の文化祭はそうはいかない。
いや、百歩譲って今日の朝までなら来てもまだ許せた。でも今は・・・。
家族はまだ知らない。一護がミスターコンに出ることを・・・。
自分だって今日の今日まで知らなかったのだから当然だ。
この事実を特に一心に知られたらどんな事になるのか今から目に見える。
確実に自分が悲惨な目に会うだろう。
逃げたい。
真実そう思う一護を責める事は出来ないだろう。
誰だってかかなくていい恥をかきたくは無いものだ。
一護は敵に背を向けず立ち向かう強さはあるが、公衆の面前での
羞恥に耐えられる面の皮のあつさは持ちあわせていなかった。
ふと思う。先程、聞き間違えでなければ、遊子は3人で行くと言わなかったか?
いや、確かに言った。という事は・・・・。
知らず、一護は横目で隣を盗み見る。
その視線の先には、家族の団欒など素知らぬ様子で、静かに食事をしている白哉の姿があった。
この三日というもの、毎日のように文化祭準備中の一護を嫌がらせのように迎えに来ていた白哉。
兄という仮面を付けてはいるが、事実は違う。
度が過ぎるほどの過保護な恋人。それがこの男の正体だ。
嬉しいというよりは困る。もっと普通にして欲しい。それが一護の偽らざる気持ちだった。
横道にそれた。今はそれはどうでもいい。いや、良くは無いが今考えるべきことは他にある。一護は思考を元に戻す。
3人で来るということは白哉は来ないのだろうか。そんな事があるだろうか。
黒崎家において単独行動を取るのは非常に難しい。常に誰かしらのチェックが入るからだ。
しかも納得するまでしつこいくらいに理由を問いただされる。
白哉に聞きたい。でも聞きたくない。ジレンマに陥る一護。
既に箸は止まり、食欲はなくなっていた。
そんな、ぼけっと呆けたままの一護を現実に引き戻したのは夏梨だった。
「一兄、聞いてるの?」
「・・・・あっ?」
「もうっ!『あっ?』じゃないよ!明日は何時に行けばいいのかって聞いてるの!」
「何時って・・・」
「一兄のクラスは喫茶店なんでしょ?」
「ああ、そうだけど」
夏梨たちは一護のクラスが喫茶店だということは知っている。
但しそれが仮装喫茶だとは知らなかったが・・・。
まあ、それはまだ良い。
問題はミスターコンだ。
こんな恥ずかしいものに出場することだけは知られてはならない。
それだけはなんとしても阻止しなければ・・。
さっきから同じことばかりが頭の中をグルグル回っている一護だった。
しかし、夏梨の問いかけで、やっと一護の脳細胞が機能し始めた。
「一兄が喫茶店に居るのは何時なの?その時間に合わせて行くから教えてって言ってるの!」
「あっあぁ、そうか、悪ぃ。ええっと、俺がクラスに居るのは午前中だな」
「午前中?10時くらいなら居るの?」
「ああ。その時間なら確実に居ると思う」
もう、この際タキシード姿を見られるのは仕方がない。
さっさと来てもらってさっさと帰ってもらおう。それが一番だ。
もう少し良い考えはないのか一護。と突っ込みたくなるような安易なアイディアに泣けてくる。
追い詰められた羊には上手く考えをまとめる事が出来なかったらしい・・・。
「わかった。じゃああたしと遊子と親父はその頃行くね」
「おう、分かった」
やっとの事で夏梨との会話を収束できた事に安心したのも束の間。
遊子の口から爆弾発言が飛び出した。
「白哉お兄ちゃんは後から来るんだよね?」
!!!!!
何ーーーーーっと言う一護の心の叫びは、勿論遊子には聞こえない。
やっぱり来るのか!そうだよな。来ないわけ無いよな。
葛藤する一護を他所に血の繋がらない兄妹の会話は続いていた。
「ああ。私は11時頃に行こうと思っている」
「一緒には行けないの?」
「9時から編集と打ち合わせがあってな。どうしても都合が付かないのだ」
「そっか・・・。じゃあ一護お兄ちゃんのクラスで合流しようね」
「分かった」
何よりも団体行動を嫌い。騒がしいのを嫌う白哉が。
団体行動を好み、騒がしいとこ天下一品の黒崎家に馴染んでいる・・・・。
恐ろしい現実がそこには広がっていた。
本気か?!白哉。本当にこんな親父と一緒に居て大丈夫なのか?
自分のピンチにも拘らず、思わず白哉の心配をしてしまう一護。
白哉の心配というよりは、自分が視覚の暴力に打ちのめされそうだったから、という方がより真実に近いが。
家族全員が文化祭に来る一家というのはもの凄く少数派だろう。
しかもそれが高校生男子の文化祭となればまず皆無。
両親が来るなんて事はありえない。
世間の常識が一切通用しない家族。それが黒崎家だった・・・。
兎に角明日、午前中に家族は来る。
どんなに長居しても所詮は喫茶店だ。二時間が限度だろう。
12時には帰るように仕向ければミスターコンの件はばれずに済む。
また一つ苦悩が増えた一護には文化祭が終わるまで安寧は訪れない。
文化祭前日の夜。一睡も出来ない一護が哀れだ。

文化祭パニック6話目です。
早くお届けするとか言って2ヶ月も経ってしまいました;;;
しかも当日の話になるはずが、何故か前日の家族団らん風景に終始してしまいました(汗)
なんだか周囲に翻弄されている一護を書くのが楽しくなってしまって;;;
流される一護って可愛い(苦笑)
次はいよいよ文化祭当日です!間違いありませんv
一護がどうやって数々の試練を回避するのか。っていうか回避できるのか。見守ってやってくださいv
2005.12.5