文化祭パニック







3

文化祭まであと3日。
生徒達の準備には鬼気迫るものが感じられる。
そんな中、文化祭実行委員をしている一部生徒が、心配のあまり毎日やつれていき、幽鬼のようにフラフラと廊下を歩いている姿が目撃されたとかなんとか・・・。

資料展示をするだけのクラスは余裕で作業を終えており、後は前日に資料を貼り付けたり飾ったりするだけとなっていた。しかし、一護達のクラスのように喫茶店や、演劇やお化け屋敷等を出店するクラスは、衣装の作成の他にまだまだ大道具の制作や小物の準備、演技のリハーサルなどしなければならないこと満載で、思うように進んでいないのが現状だった。

今日も今日とて衣装作成に勤しんでいた一護達は、またも時間の経つのを忘れて作業しており、7時を過ぎて教師に急かされ名残を惜しみつつ、やっとの事で教室を後にする。
下駄箱に着いた時、既に時間は7時30分を過ぎていた。
時間に気付いた一護の顔色が一気に真っ青になる。

「俺先に帰るな!お疲れっ!」

一護は一方的に別れの挨拶をすると鞄を抱え走り去ろうとした。
しかし、そんな一護の気も知らずに何時もテンションの高い啓吾が、両手をあげて腰をひねりながら一護に誘いをかける。

「なあ一護っーー、腹減ったからマック行こうぜぇ!!!」

「無理っ!!」

焦っていても、人の良い一護はその場で足踏みしながらも啓吾の相手をする。
ただしあっさりと断ったが・・・。

「えええぇぇっ!!何でだよ〜〜!行こうぜーー!」

断られるとは思わなかった啓吾が、更にオーバーアクションで一護に迫る。

「駄目っ!!!!」

即答である。

「い〜〜〜ち〜〜ごぉ〜〜〜!!!」

「煩いよ啓吾。行かないって言ってるんだから諦めなよ」

両手を握り締め、泣きながら中腰になって一護ににじり寄っていた啓吾に、水色が横槍を入れる。

「何だよ水色ー!お前は一護とマックに行きたくないのかよーー!!」

「別に。今日じゃなくても良いんじゃない」

至極まっとうでクールな意見を出す水色に啓吾がショックを受ける。

ショックを受けた啓吾が一瞬固まった隙に、一護は『じゃなっ!』と言い放ち走り去る。

啓吾が騒がしいのは今に始まった事ではないので、周りの生徒達もまたなんかやってるよくらいにしか思わなかったが、普段自ら騒ぐ事の無い一護があんなにも慌てるのは珍しいと皆首を捻っていた。

後に残された生徒達が自分達も帰ろうと下駄箱から動き始めた時、走り去ったはずの一護が校門前で立ち止まっているのが見えた。
復活した啓吾が、やっぱり待っててくれたんだ〜〜と狂喜乱舞してクルクル回っていたら、一護の焦ったような声が聞こえた。

「あ・・・・兄・・貴。な・・・なんで・・・・」

「兄貴?」

一護に兄が居るなどと聞いた事の無かった啓吾がその台詞に首を傾げる。

「なあ水色、一護に兄貴なんて居たっけ?」

「うーん、聞いた事はないね。遊子ちゃんと夏梨ちゃんのことは知ってるけどね」

「そうだよなー」

二人が首を捻りながら呑気な会話を交わしている間に暗闇の中からぼんやりと黒い塊が現れた。
近づくにつれ段々と輪郭がはっきりしてきたその人物が、下駄箱の明かりに照らされた時、一護以外のクラスメイト達の口がポカンと開いた。

その姿、秀麗にして鮮烈。
見た者の目を釘付けにして離さない圧倒的な存在感。
現れたのは尸魂界護廷十三隊六番隊隊長にして一護の兄。
朽木(現在は黒崎)白哉その人だった。

義骸とはいえ、尸魂界に於いてさえ特別な存在感を表していた白哉である。霊圧を低く抑えていてもどこか隔絶された雰囲気に現世の高校生が目を奪われたまま立ち尽くすのも無理はないだろう。

そんな生徒達には目もくれず、白哉の関心は一護のみ。

「一護」

地を這うかのような白哉の声に一護はビクッと体を振るわせる。
突然の白哉の出現にちょとしたパニックに陥った一護は直ぐに反応できない。
どうしてこんな所に白哉が居るのだろう。

「な・・なんでこんな所に居るんだ?」

やっと口にした言葉は心の中で思っていたことそのままだった。

現世での白哉の職業は翻訳家。

死神に言葉の国境はないのか、白哉だけが例外で語学に堪能なのかは分からないが、何ヶ国語も操る白哉にとって翻訳家というのは正に適職。
家に居ながらにして仕事を請けられるし、版元との打ち合わせも自宅で済む。あまり出歩きたくない白哉にとって願ったり叶ったりだった。

本当は英語やフランス語等、ヨーロッパ方面の言語の方が需要が多くて良いのだろうが、それでは仕事が立て込んで忙しくなってしまう。別に現世で金儲けをしたい訳ではなく、現世でいい年をした男が職もなくフラフラしていては世間体が悪いから働いているだけなのだ。

故に、白哉は主に中国、韓国、ロシアというようにアジア方面の、それもビジネス書の翻訳をメインに仕事を請けている。
結果として、大した収入はない。
翻訳業は一般人が思っているより低収入なのだ・・・。あまり収入のない白哉というのもちと情けないが、まあ・・黒崎医院の収入もあるし、朽木家の財産もあるので金の苦労は無い・・・。

そんな、普段から出歩かない生活をしている白哉が何故一護の通う高校に居るのか・・・。
勿論、一護を迎えに来たのだ。

「なんで?お前が7時半には帰宅すると言っていたのに帰ってこないからに決まっているではないか」

「だってまだ7時40分にもなってない・・・」

「まだ?これから帰ったのでは8時近くになるではないか。7時半には必ず帰宅するといったのはお前だぞ。1分たりとも遅れることは許さん」

きっと瞬歩・・とまではいかないだろうが、義骸であっても白哉にとって黒崎医院から空座高校までの道程などあってないのと同じ。2分も掛からずに辿り着いたのだろう。

普通なら10分以上は掛かるはずの距離をどうやってこんな短時間で来たのかという疑問は隅に追いやられ、兄馬鹿炸裂の白哉の言葉に絶句する一同。

高校生にもなった男が7時半を過ぎて帰ってこないからと言って迎えに来るだろうか?
いや、来ない。断じて来ない。

白哉の爆弾過保護発言に呪縛が解けたかのように騒ぎ出すクラスメイト達。
特に啓吾は煩い。

「なあなあ一護!お前に兄ちゃんなんか居たのか??」

「今まで全然聞いた事ないぞーー!!」

「何で黙ってたんだよぅぅ〜〜〜〜〜!!!!」

他の生徒達も思い思いの発言をかましてくれた。

「えぇーーー!黒崎君のお兄さん!?すっごく格好良くないvvvv」

「美形〜〜〜〜〜vvvv」

「妙に迫力あるなぁ;;;;」

「すげぇ・・・モデルかなんかやってるのか・・・・?」

「黒崎君と全然似てない;;;」

等等等・・・・・。

収拾の付かなくなったその場に白哉の言葉が響く。

「騒ぐな」

この短い一言が白哉の口から発されただけでその場が一瞬にして静まり返る。誰もが平伏せずには居られないような迫力。
命令する事に慣れた者の言葉だった。

「一護。約束した次の日に破るようではお前の言葉を信用するわけにはいかん。後2日は私が迎えに来る。よいな」

「ええぇーーー!!!」

「ええぇ、ではない。あたりまえだろう。お前は子供でも守れるような約束が守れないのだから。(勿論仕置き決定だな)」

いや、当たり前ではないだろう。一護は心の中で突っ込む。
突っ込みながら白哉の心の言葉も正確に読み取り血の気が引く。
しかし、一度白哉が口にしたことで実行されなかったものはない。
つまり、明日から白哉が一護を高校まで迎えに来るのは決定事項となったのだ。

周囲を無視して交わされる会話にますますクラスメイト達は呆然とする。
一体この兄弟は何なのだろう?本当に兄弟なのか?
兄弟だとしたら恐ろしいほどのブラコン度にかなり引く。
むしろピンクの色が似合う怪しい関係なのでは・・・。

最後の予想は大正解。
口が裂けてもそんなことを白哉や一護に聞ける者は居ないだろうが・・・。
もし啓吾辺りが無神経にも一護に聞いたとしても、絶対に否定するのは決まり切っている。当たり前である。

「帰るぞ」

周囲を全く無視した白哉の声が辺りに響く。
白哉のあまりにも恥ずかしい発言に反論する気力をなくした一護が、顔を真っ赤にしたり真っ青にしたりしながら口をパクパクさせていたが、最後にはがっくりと肩を落とし白哉の隣に並んで歩き始めた。

「いっ・・一護ぉ・・」

啓吾が心配そうに一護に声をかける。

「悪いな啓吾。また明日な」

振り向きざま啓吾に詫びる。

「う、うん・・」

呆然としたまま固まっているクラスメイト達の奇異の視線に見送られながら一護と白哉は空座高校を後にした。

取り残された彼らのその後の混乱は想像に難くない。
今時分たちが目撃したのは一体なんだったのか。あれは本当に一護だったのか?

普段、眉間にシワをよせて面白く無さそうな顔をして、周囲の、取り分け女子に怖がられている一護と、兄の言葉に殆ど反論もせず従順に従う一護とのあまりのギャップに驚きが隠せない。
そして、一護の兄だという白哉。
怖いくらいに綺麗な顔で周囲を引かせるほどの兄馬鹿発言の数々。
出来れば記憶から抹消したい・・・・。

彼らは次の瞬間に思い出す。
明日から2日間。白哉は一護を迎えにここに来る。
その度にあの聞くに堪えないあほな会話を聞くことになるのだ・・・・と。

文化祭まで後2日。
一部の生徒に暗雲が立ち込めた瞬間だった。





















文化祭パニック3話目です。
とうとう高校まで迎えに来ちゃった兄様の巻;;;
更に兄馬鹿炸裂の兄様。見事に周囲を引かせています・・・;;;
そりゃそうでしょうねぇ。あれじゃあねぇ(^^;
書いてる私もつい失笑しちゃいましたよ;;;
残す所後2日の空座高校文化祭当日まで、
一護たちのクラスには災難が舞い込みました。
この様子だと当日にも一悶着ありそうですね・・・
まだ続きますv

2005.2.7