「信じられないかもしれないけど本当の事なんだ。だから、俺たちが側にいない時は十分周囲に気をつけてくれよ、エド」 「そうか。分った。心配してくれてありがとな。リック、ユージン」 心配のあまり沈痛な表情になっているウルリック達に比べ、全然不安そうに見えない明るい表情のエドワード。温度差が有りすぎる。 驚くこともなく、あまつさえ笑顔まで浮かべてやけに呑気に返事をするエドワードに、ウルリック達の不安が募る。 意を決して告げた内容は、間違いなく深刻なものだと思うのは自分達だけなのだろうか? 確かに、命にかかわるような危険な目にあう事はないとは思うが、それでも、軍人を目指している人間が何かを仕掛けようとしているのだ。怪我をする可能性はあるだろうに・・・。 それとも、やっぱり自分達が気にし過ぎなのだろうか? 困惑を隠せずにお互いを見つめあうウルリックとユージンだった。 「そんな顔するなよ2人とも。大丈夫。ちゃんと気をつけるから。俺、意外と俊敏なんだぜ」 「・・・・・・・」 「あっ、信じてないな。本当だぞ!身の軽さと勘の良さだけは自信があるんだ」 自慢する物がそれだけしかないのかと突っ込みたくなる発言だったが、当のエドワードは満面の笑みである。確かに軍人である限り、戦場に於いて生死を分けるのは最終的には勘の良さかもしれないが、それだけではどうにもならないだろうに・・・・。 一瞬の内にそんな事を考えていたウルリック達だったが、今はそれを吟味する時ではない。 思考を戻したウルリック達は、改めて心配になる。 何故なら、エドワードの飛び抜けた頭の良さは実感しているが、身体能力に関しては些か疑問を抱いているからだ。 何せ、士官学校始まって以来だと教官が嘆く程最悪な射撃の成績と、格闘の授業での昏倒を目の当たりにしているのだから。 まあ、射撃はともかく、格闘に関して言えば相手が悪かったとは思うのだが。 ニコニコと目映いばかりの笑顔を惜しげもなく浮かべている呑気なエドワードを横目に、意外と失礼な感想を抱きつつウルリックとユージンは決意した。 可能な限り、どちらか一人は必ずエドワードの側にいよう、と。 ウルリック達が心底心配そうな顔をしている事に、エドワードは苦笑しつつも内心では感謝していた。 自分達の杞憂であれば良いと思いながらも放置することは出来ず、古い付き合いの友人が、新しい友−自分のことだ−を傷つけてしまうかもしれないという辛い状況を詳らかに語り、忠告してくれたのだから。 ただ、不本意な事に、エドワードはこの様な状況には慣れていた。 何故と言ってしまえば簡単な話で。 軍始まって以来の稀にみる昇進スピード、それに伴う軍功の数々。史上最年少で取得した国家錬金術師の資格。常人離れした格闘センスや明晰な頭脳。秀麗すぎる容姿と、それに反するようにぞんざいな口調と不遜な態度(大総統にさえ敬語を使わないのだから、推して知るべしである)などが相まって、崇拝者が多い半面、妬む者や敵視する者の数も半端なかったのだ。 特にエドワードに反感を持っているのは、エドワードに出し抜かれてばかりの同年代の佐官達や、いつその地位を脅かされるのかと戦々恐々としている将官達であった。 要は、佐官以上の者は少なからずエドワードを煙たく思っていると見て間違いはない。 そんな彼らは、隙あらばエドワードを蹴落として痛い目を見せてやろうと手ぐすね引いて日々を過ごしており、事ある毎に嫌がらせを仕掛けて来るのだった。 嫌がらせと言えば可愛らしく聞こえるが、その内容たるや全く可愛くない。 エドワードには全く身に覚えのない汚職や不正等の濡れ衣を着せようと画策したり、一般人に暴力を振るい怪我をさせたという根も葉もない噂をばら撒いたり、部下達へ難癖を付けてはエドワードの監督責任を指摘して降格させようとしたりするのである。 エドワード自身や、一筋縄ではいかない曲者揃いの部下達をターゲットにして狙ってくる分には、腹は立つし面倒臭いこと極まりなくても大抵の事なら苦も無くかわす事が出来るから良いのだが(いや、良くはないのだが)、一番厄介なのが、戦場や危険な任務中に間違った情報を流されることだった。 常に前線での戦いを指揮しているエドワードに対し、後方でぬくぬくとしているアホな輩が、自分の部下を使って偽の情報を流し、エドワードを窮地に陥れようとするのだ。 こうなると、エドワードだけではなく、直属の部下達は勿論のこと、その他多くの兵士達も危険に晒されることになるのだから堪らない。 幸い、今まではその明晰な頭脳と自慢するぐらい冴えている勘のお陰で偽情報を回避して事なきを得ているが、それで済む話ではない。 当然ながら、そんな大馬鹿な者達はそれに相応しい報復や処分を受け、エドワードの前から姿を消していった。 だが、減らないのだ。 ミジンコよりも掬いようのない馬鹿な輩が、後から後から雨後の竹の子のように出てくるのだ。 鬱陶しいことこの上ない。 そのおまけとして、使えない無能者を大手を振って排除できると冗談交じりに公言しながらも、この事態を重くみている大総統が、最近何かと不穏な話を持ちかけてくるのでエドワードは非常に迷惑していた。 その話とは何なのか。 大総統曰く、 『私の後継者として周知徹底すれば、それ以後の君への手出しは私への反逆罪と同様になる。つまり問題は解決する。そうだろう?』 ということである。 お陰で、エドワードは頻繁に大総統に呼びつけられては、昇進を押しつけられそうになっているのだ。迷惑極まりない。冗談ではない。 大体、並み居る上級士官達を差し置いて大総統後継者などになったら、更に恨みを買いそうではないか。 どちらにしても、エドワードにとっては不愉快な事態である事に変わりはない。 と、まあ。こんな経緯があるエドワードにしてみたら、まだ正式な軍人になってもいない子供達が何かを仕掛けてこようとどうって事はないというのが本当の所だった。 「ヘンリ・ダグラス大佐か。一体どんな人物なんだ?」 いよいよ核心に迫ってきた事態に、エドワード以下、司令部の面々の表情も引き締まる。 全員の期待に満ちた強い視線を一身に受け、不貞不貞しく見える顔を珍しく緊張させながらブレダが資料を開く。 「ヘンリ・ダグラス大佐は1ヶ月前に突然異動になり、現在は憲兵司令部北方支部に所属しています。階級はそのままですが、どうやら左遷扱いになっているようです。」 「昇進もせずに中央から地方に異動だもんな。確かに左遷だろうけど、ダグラス大佐は一体何をやらかしたんだ?」 「それが・・・。幾ら調べてもハッキリとした左遷の理由は判明しませんでした。ただ、ダグラス大佐が左遷させられる半月ほど前に、ヘルムート・アイジンガーという人物が准将に昇進し、大佐の直属の上官となる人事異動があったそうです。もしかするとこの辺りに左遷の原因はあるのかもしれませんが、事実確認は取れていません」 アルトナー元少尉への金の流れに続き、ダグラス大佐左遷の決定的な手掛かりが掴めなかったことが情けないのだろう。 眉間に皺を寄せて悔しそうに告げるブレダだった。 「少尉が調べて分からなかったのなら極秘扱いになってるって事だろ。気にすんな。腹立たしいがどこの組織も部外者に知られたくない暗部っていうのは存在するからな」 「はい。ですが不本意です」 本来、全ての事象が詳らかにされなければならないのに、保身の為に失態を隠蔽したり、面目を保つために黒を白にする不正はどこの組織にも付きものなのだろう。 かくゆう軍司令部にもその体質は少なからず存在する。非常に残念なことだが。 「で、兎に角今は北方支部にいるんだな。ダグラス大佐は」 「そうです。しかも資料室に配属されており部下はいません」 「凄いな。絵に描いたような転落だ。つまり、そうされるだけの何かをやらかしたって事だな」 「恐らくは。セントラル時代の大佐の素行や過去の実績を調べたところ、非常に評判が悪かったです。まず、コーエン准尉と共に大佐の下で働いていたかつての部下達に聞き込みをしましたが、誰一人として大佐の事を尊敬している者はいませんでした。逆に、理不尽な叱責を受けたり、手柄を横取りされたり、大佐のミスを押しつけられて降格処分になってしまった者などがおり、少なからず恨みを持っている者の方が圧倒的に多かったです。コーエン准尉の事件時も大した調べもせずに収束させたらしく、同僚達は納得できなかったようです」 「なんだそりゃ?最悪な野郎だな」 「全くです。その他、先程名前が出たヘルムート・アイジンガー准将ですが、ダグラス大佐とは対照的に、実直で清廉潔白な性格らしく、部下達のみならず周囲の評判も非常に高く、人望の厚い人物のようです。そのせいなのか、当時大佐だったアイジンガー准将とダグラス大佐は事ある毎に揉めていたそうです。と、いうよりは、常にダグラス大佐がアイジンガー准将、当時は大佐ですが、にいちゃもんを付けていたというのが本当の所のようです。そんな経緯があるせいか、現在の人事には満足している者が多いようです」 「最低最悪野郎と軍人の見本みたいに立派な人物か。確かにダグラス大佐の人事にはこのアイジンガー准将が関与している可能性大だな」 「アイジンガー准将の周囲をもっと調べてみますか?」 「そうしてくれ。案外ここから事件の真相が分かるかもしれない」 「了解しました。明日はアイジンガー准将を中心に地取りをしてみます」 「頼むな。それと、同時進行で引き続き生徒達の動向調査と薬の出所やシティの調査。それと、何故ダグラス大佐が部下達を手に掛けたのかも手分けして調べてくれ」 「了解!!!」 全員の士気が一気に上がる。 が、エドワードが発した次の発言で、只一人ブレダの高揚した気分が一瞬にしてかき消された。 「あっ、ブレダ少尉。ついでに北方司令部のマイルズに連絡して、憲兵北部支部のダグラス大佐の動向を調べさせてくれ。勿論、ダグラス大佐本人に絶対に気付かれないようにだ」 「了解しました。あの・・・それはつまりアームストロング少将にも知らせないと不味いって事ですよね?」 「あん?ああ、そうだな。頼むわ」 ニカッと素晴らしい笑顔で押しつけられた貧乏くじにブレダの顔が思わず引き攣る。 『氷の女王』『ブリッグズの北壁』という、その異名を裏切らない人物であるオリヴィエ・ミラ・アームストロング少将とは、電話とはいえ出来るならば接触を回避したい。 「あの・・・!アームストロング少佐かマスタング少佐にお願いしても良いすか?少佐達ならアームストロング少将とも親交が深いですし、適任かと思うのですがっ!」 「なっ!何ですとっ!」「なっ!何だとっ!」 保身のために必死になったブレダは、あろう事か自分の上官達を人身御供に差し出した。 卑怯だが気持ちは分かる。 抗議の声を上げたのが前述の2人だけだということからも、ブレダに対する同情票が多い事が察せられる。 気の毒なのは、対岸の火事だと思って同情していた不幸が、突然我が身に降り掛かってきた事に慌てるアレックスとロイである。 実の姉、元上官とはいえ、恐怖の対象であることに変わりはない。寧ろ、実情を知っているだけに尚更係わりたくないという気持ちは強い。 それにしても、幾ら苛烈な性格で知られる人物とはいえ女性に対して随分失礼な態度である。 まあ・・・・オリヴィエ・ミラ・アームストロング少将を知った上で、彼の人物を女性扱いできる猛者はそう多くはないだろうが・・・・。 「ん?それもそうだな。んじゃ、どっちでも良いから連絡しといてよ」 自身も苦手としている彼の少将とは出来るだけ係わりたくないため、先程ブレダに向けたものよりも晴れやかで綺麗な笑顔を見せたエドワードは、ブレダ同様ロイ達をあっさりと人身御供に差し出した。 元よりブレダを犠牲にしようとしていたのだから、その姑息さはブレダを凌ぐ。 酷い上官もいたものである。 それでも、敬愛する上官の言うことは絶対である。 泣く泣くどちらが貧乏くじを引くかを真剣に議論し始めるロイとアレックスの姿は醜くもあり哀れでもある。 何とも世知辛い職場である・・・。 真剣ながらもどこかユーモアを交えたエルリック少将率いる司令部の作戦会議は、こうしていつまでも続くのであった。 |
半年以上掛かってどうにかこうにか更新しました。
ここまで来ると、逆にお詫びする方が失礼な気がするので、
今回は謝りません!(勘違い野郎です;;;)
前回も少し書きましたが、広げた風呂敷を畳むのに四苦八苦しております(>_<)
故にですね、辻褄が合わないことが多々出てくると思うのですよ・・・・。
(ご都合主義的なオリキャラ登場とかも含む)
お願いですからサラッと読み流して頂けると嬉しいです;;;
ダメダメだぁ〜〜〜!!!
だったらいつまでもごちゃごちゃと書き直さないで更新しちゃえば良いのにって話ですよね;;;
恐らく、今後も更新は遅れがちになるかと思いますので、
忘れた頃にサイトをチェックして頂ければ丁度良いかと(苦笑)
2011/11/21