Rainyday













空気が悪くて隣に座った人の声も聞こえないほど五月蠅かった店内から出てみれば、そこは三時間前では考えられないような悪天候に見舞われていた。


豪雨。


騒がしい店内には届かなかったが、その降りっぷりは凄まじく、目の前を歩いているだろう人間の性別が、一瞬とはいえ分からない位の猛烈なものだった。


ついてない時は悪い事が重なるもので、朝から定春に噛まれ、ダラダラと血を流しながら躾をしっかりしろと詰め寄った神楽には『銀ちゃんが定春の気に障ることしから噛まれたアル』と、反撃され更に流血が酷くなり、事務所の床に倒れ込んで動けなくなっていた所に洗濯物を抱えた新八に踏みつけられた。
『洗濯カゴ持ってたから前が見えなかったんです。わざとじゃありませんよ』
と言っていたが、絶対に違う。態とだ。
普段駄メガネだのオタクだのと言っておちょくっている事への仕返しだ。
なんて暗い野郎だ・・・・。


そんな腐った気持を晴らそうとパチンコに繰り出してみれば、結果は常にないほどのボロ負けで。
こんな時は甘いものに限ると思い立ち、一銭も持っていないのも気にせず誰に強請ろうかと考えながら外に出てみれば、前も見えないほどの豪雨。


思わず溜息も吐きたくなるというものだろう。
そうして呆然としている所に自分以外の情けない愚痴が聞こえて来て、
何だと思い隣を見てみれば長谷川がおり、ああそういえばこの人もココに居たんだとようやく思い出す。


店内で偶然出会った長谷川とは週に二回はこの店で会ってるような気がする。
別に示し合せているわけではないのだが、お互い暇を持て余しているのは共通しているため、自然と生活サイクルが重なっているのかもしれない。
嫌過ぎる・・・・。





「こりゃ酷い降りだな・・・・。どうする銀さん?傘持ってる?」

「持ってるわけないだろう。ついさっきまでは雲一つない青空だったんだからさ」

「そうだよね・・・。天気予報だって豪雨なんて一言も言ってなかったもんね」


天気予報なんか真面目に見てるのかこの男は。
思わず汚い部屋で一人ラーメン啜りながら寂しくテレビをボーっと見てる長谷川の姿が目に浮かび、間接的にとはいえ、彼がこんな境遇になった原因が少なからず自分にあるかもしれないと考えると何とも言えない気分になる。
嫌、俺のせいじゃない。長谷川が男の意地を貫いただけの事だ。うん。


「もしかしたら通り雨かもしれないからもう一回店に戻るか・・・って、一銭も無いんだった!」


頭を抱えて一人百面相をしている長谷川を綺麗に無視し、銀時は自分もどうしようかと考える。
長谷川同様、既に金は無い。
普段なら気にならないが、今日に限って言えば店内に戻って落ちた玉を惨めったらしく拾い集めるのも我慢ならない。
だからといって、この豪雨の中をびしょ濡れになって歩くのも嫌だ。
只でさえついてない日にそんな事したらどんな目に会うのか分かったもんじゃない。
長谷川に負けず劣らず銀時の思考もかなりネガティブになっているようだ。
大体、今日の自分の負けを、本人は認めないだろうが受け入れてる時点で負けている。








二人が呆然としながら只々雨を見つめ続けて十分程経った頃だろうか。
その声が聞こえたのは。


「旦那?万事屋の旦那じゃありやせんか?」


突然滝のような雨の中から黒い色が現れたかと思ったら、見なれた顔が目の前にあった。
栗色の髪にパッチリとした無邪気な目、一見すると可愛らしく如何にも女にモテそうな顔をしている。だがその服装はといえば、誰もが恐れる真撰組の隊服。
しかも隊長服に身を包むその人物は、鬼の副長と恐れられる土方と同様、最近は暴走度が上がったせいか本性が広く認知されるようになり、市民から歩く破壊兵器と恐れられている一番隊隊長沖田総悟だった。


「沖田君」

「やっぱり旦那だった。どうしたんですかィ、こんな所で。雨宿りですかィ?」


店先で傘も持たずに突っ立っていれば誰でも分かるだろう事を沖田は真面目に聞いてくる。
半分以上は銀時をからかう為だろうが、もう半分は心配する純粋な気持ちがある事も間違いではないだろう・・・・多分。


「見りゃー分かるだろう。突然降られたもんだから雨宿りしてるんだよ」

「突然って。一時間以上前から降ってやすよ。気が付かなかったなんて、旦那今まで何してたんですかィ?って、パチンコですね。どんだけココに居たんです?」

「あーまあ、そのなんだ。一時間くらいかな・・・・」

「えっ、銀さん違うでしょ。三時かっ・・・ぐあっ」


”三時間ぐらい”と、言おうとした長谷川の顔面を殴り付けて黙らせると、さも何も無かったかのように銀時は沖田に向き合う。


「そんな事より沖田君は何してんの?」

「俺はこの近くでちょっとした捕りモノがあったんで出張ってたんでさァ」

「そりゃ御苦労さん。でもその割に雨にも大して濡れてないし隊服も綺麗なままだな。ま〜たサボってたんだろ。ったく、隊長さんがそんなんでイイのかねぇ真撰組は」

「心外ですぜ、旦那。相手が雑魚攘夷志士だったんで下の奴らだけで簡単に片付けられたんでさァ。俺は勿論土方の野郎でさえ出る幕無いぐらいあっけなかったんでィ」

「あーそうですか、そりゃ無駄足だったな。ま、仕事だからしゃあないわな」

「分かってくれればいいんでさァ」

「んじゃ、後始末頑張れや」

「いえ、もう終わったんでさァ。後は撤収するだけなんで」

「ふ〜ん、あっそう」

「旦那は?この後は何か予定でもあるんですかィ?」

「あん?」

「どうなんですかィ?」

「あるっちゃぁあるけど、ないっちゃあ無い」

「何ですかそりゃ?」


腐った気分のまま誰かに強請ってパフェでも食べようと思っていた、その誰かの中には、当然ながら沖田は一番手としてリストアップされていた。
だが、曲がりなりにも職務を遂行していた沖田に対し自分はといえば、朝っぱらから特に何をするでもなく憂さ晴らしにパチンコに興じていたのだ。
普段の銀時ならば何の負い目もなくここで沖田に強請って好きな物を奢ってもらい、今後の予定を埋めるところなのだが、如何せん今日は珍しく思考が下降指向だった為に何となく切り出せなくなっていた。
なので、予定はあるようでないという曖昧で可笑しな返事をしてしまったりしたのだ。
そんな銀時の心の葛藤を知ってか知らずか、沖田はいつも通りの気安さで銀時を誘うのだ。


「もし何も予定がないならこれから屯所に来やせんか?」

「屯所〜〜。何で?」


悶々としていたところに誘ってくれたのは嬉しいが、何故にその場所が屯所なのか・・・・。
激しく行きたくない。常に屯所は銀時の鬼門だ。碌な事がない。


「いや、何でって事もないんですが、この間ワッフルって言う菓子を貰いまして、それに生クリームだの果物だのをのっけて食べるんですが、コレがまた結構イケるんでさァ。かなり沢山あるんで良かったら旦那に食べさせて上げたいと思いましてね。どうです?来ませんか」

「行くっ!!!」


鬼門だと言って憚らない屯所も、大好きな甘味の誘惑には勝てないのだろう。
何の躊躇もなく銀時は首肯する。


「そりゃ良かった。じゃ、ちょっと車回させますんで少しここで待ってて下せェ」

「えっ、良いよ。態々車なんか乗らなくても。歩いていけばいいだろうが。そんなに遠くないんだしさ。悪いけど傘だけ貸してくれれば助かるんだけど」

「でも旦那。この雨じゃ傘さしてもあんまり意味がないくらい濡れますぜ。車の方が良いと思いますが」


そういう沖田の隊服は、いつの間にか傘を差しているにも拘らず肩のあたりは勿論、足もとから何から結構ビショビショに濡れていた。
そうして自分を見てみれば、パチンコ屋の軒先から出ていないにもかかわらずかなり足もとが濡れている。確かにここから遠くないとはいえ、屯所まで歩いて行ったらびしょ濡れになってしまうかもしれない。
それでも・・・。


「良いよ濡れたって。兎に角車は乗りたくない」

「・・・・・分かりました。じゃ、ちょっとあいつ等に声掛けてきますんで待ってて下せェ」

「おう」


クルっと背を向けて歩きだした沖田の姿は、あっという間に雨に紛れて見えなくなる。
それ程の豪雨の中を歩こうというのだ。内心では嫌だと思ってるんだろうな・・・。
自身が望んだくせに、いざ沖田が了解すると、何故だか罪悪感に苛まれる。
今日の銀時はとことんネガティブなようだ。
そんな事をグルグルと思い悩んでいた時に責めるような悲痛な叫び声が耳に飛び込んできた。
鼻血を出しながら抗議したのは、勿論長谷川だ。


「ちょっと銀さん!酷いじゃないかよ、殴るなんて!!」

「あぁ?まだ居たのかよ長谷川さん」

「居るに決まってんだろう〜〜!忘れたとは言わせないからね!俺の事放置してラブラブしてたくせにさー!どんだけ二人の世界作っちゃってんの、銀さんってば!」


言い終わるのと同時にドコっと音がして、今度は銀時の肘が長谷川の鳩尾へ深々と喰い込んだ。
再び地面に倒れ込んだ長谷川の顔は苦悶の表情のまま固まり、その口元からは泡を吹いていた。口は災いの元。長谷川はそのことわざを身に染みて実感している事だろう。





「お待たせしました、旦那。行きやしょう」


そういって差し出された傘には当然沖田が入っており、その仕草からすると、どうやら銀時にも同じ傘に入れと言ってるようである。
まさかっ;;;
イイ歳した男二人がまさかの相々傘ですかっ!
いや、それは駄目だろ!
恥ずかしいだろ!見苦しいだろう〜〜〜〜〜〜!!!
うが〜〜〜〜〜〜っと、内心のたうち回っている銀時を余所に、沖田はさっさと銀時の腕を掴み傘の中へと招き入れる。


「イヤイヤイヤ、沖田君!俺は良いから!傘要らないから!っていうか、傘貸してって銀さん言ったよね?何で貸してくれないの?余った傘なかったの?まあそれは良いとして、良くないけどさ。いやもうイイから!どうせ差しても差さなくても変わらなそうだし、それだったら濡れていくからっ!だから傘は沖田君一人で使いなさいよ、ね!」

「何言ってんですかィ。そりゃこんだけ降ってちゃあかなり濡れるのは仕方ないでしょうが、最初っから丸っきり差さないよりましに決まってるじゃねェですかィ。イイから入んなせェよ」


そう言うと、沖田はグイッと銀時の腕を強く引き寄せ、問答無用で傘の中に入れる。
途端に暴れて抜け出そうとする銀時を渾身の力を込めて引き寄せ離さない。
どうせ濡れるのならば少しでも楽しみがないとやってられないというものだ。
相々傘なんてこんな機会でもないと中々出来るものではない。
傘を貸すなんて野暮な事するわけがないだろう。
好機を逃すほど沖田は甘くない。


「旦那。大人しく入んなせェよ。大丈夫。この雨じゃ誰も男同士で相々傘してるからって気にもしないし分かりませんって。周りを見てみなせェよ。全然何にもまともにゃ見えないでしょうが」


そう言う沖田の言葉に釣られて周囲を見てみれば、確かに皆しっかりと傘を握りしめて足早に通り過ぎている。数メートル先も見えないような豪雨だ。言われてみればそうかもしれない。
それでも。
「恥ずかしいもんは恥ずかしいだろうがっ〜〜〜〜〜〜〜!!!」
心の中で目一杯叫んだ銀時の言葉はしかし、音となって口から飛び出していたようだ。
突然の叫び声に、足早に歩いていた通行人の視線が銀時達の方へと向けられた。
それらの視線の多くは雨に阻まれ何も見えなかったが、たまたま銀時達の横を通りかかった数人の者にはばっちりと見えてしまった。
大の男が二人、腕をしっかりと組んで一つ傘の中で佇んでいるところを。
しかも、恥ずかしさゆえに興奮気味だった銀時の頬は薄っすらと赤い。


見てはいけないものを見てしまったというように、ヒクヒクと引き攣った表情をしたまま、彼らは銀時達から視線を逸らし立ち去った。
その行動が銀時を打ちのめす。
変態だと思われただろう。確実に・・・・・・。


「あ〜あ。旦那が悪いんですぜ。大きな声を出したりするから。大人しくしてくれてりゃ何の問題も無かったのに。まあ俺は別に良いんですけどねィ」


「おまっ・・・お前なぁっ!俺のせいだって言うのか、俺の!」

「だってそうでしょう?俺は車で行きましょうって言ったのに、旦那が嫌って言うから傘さして帰ろうとしたのに、旦那がそれも嫌がって大声出したんですから。俺の言ってること間違ってますかィ?」

「うっ・・・・;;;;」


あまりにも正論を吐く沖田に反論もぐうの音も出ない。
確かに自分が言った。車も嫌だし相々傘も嫌だと。
でも、だから言ったじゃないか。
傘を貸してくれと。濡れて行くから、と。


「さ、今度こそ大人しく入ってて下せェよ、旦那」


虚脱している銀時に構う事なく、畳み掛けるように沖田はさっさと歩きだす。
しっかりと銀時の腕に自分の腕を絡めながら。






激しい雨は何もかもを包み込み、道行く者の視界を奪った。
いつしか正気に戻った銀時は、ようやくその状況を受け入れ、大人しく傘の中に納まっていた。
考えてみればそう悪くない。
確かに今、自分達に注目している者は皆無だし、普段なら絶対にないこの近さで沖田と並んで歩いている。それは結構凄い事だ。




傘をさしているとはいえ、あちこちずぶ濡れになりながらも、楽しそうに笑い、
いつしか手を繋いでゆっくりと歩く二人が居た。










END









雨の日の二人でしたv
というよりは、手を繋いで相々傘をしている沖銀が書きたかっただけなんですけどね;;;
ちなみに二人が手をつなぐのはこれが初めてだと思います♪
だって普通男二人が手繋いで歩かないですもんね。そりゃ目立つったらないもんね;;;
このお話の銀さんは朝からツイてなくて、思考も珍しくネガティブなんです。
だけど、沖田君が現れてくれたことで変わるんですv
だって、無かった傘は手に入るし、美味しいおやつは手に入ったし、相々傘も出来たし、手も繋げたんですもんv
これは恋人同士の特権というものでしょう!
まあ、より沖田の方が楽しんでいるし、幸せ度も高そうですけどね(笑)

2008.6.27


BITTER&SWEET同様に別サイトでUPしていた沖銀SSです。
これまたありがちネタですねぇ・・・(汗)

2009/11/11