仕事を溜めてはいけません
「皆、聞いてくれ!」
「?」
両手に大量の荷物を持ちながら外出先から戻ってきたエドワードは、
司令室に入って来るなり大声で皆の注目を集めた。
一体何だろう?
「何ですか?少将」
日常と化している将軍の奇行に慣れている為か、皆を代表してロイがおざなりに尋ねる。
書類仕事に追われて忙しいのである。
まともに相手をして疲れるわけにはいかない。
何とも冷たい部下である。
それが不満なのだろう。直ぐに頬を膨らませてエドワードが抗議をする。
「何だよ、ロイ。もっとちゃんと聞けよ!重要な話なんだぞっ」
「はいはい、分りました。で、何ですか?
我々は今将軍が溜めまくった書類の仕分け作業でもの凄く忙しいのですが」
「・・・・・・・」
そう。ロイ達は今もの凄く忙しかった。
ロイが指摘したように、エドワードがやれ出張だ、やれジジイの呼び出しだ、やれ息抜きだ、
等と言い訳しながら、三ヶ月もの間に溜めに溜めた書類をようやく決済したのが
つい一時間ほど前のことであり、その決裁された書類を重要度や項目毎に仕分けし、
担当部署へと渡さなければならないのだが、その量たるや尋常ではない。
幾ら緊急性の低い書類ばかりだとはいえ、三ヶ月分である。
千枚に達しようかという勢いの書類の分類は、全員で取りかかっても直ぐに終わるものではない。
増してや、他の仕事もしなければならない者もいる中、
書類の仕分けに借り出されているロイの口調がいつになく辛辣で冷たい対応になってしまうのも無理はなかった。
幾ら親愛なる将軍の仕業でも、許容範囲というものがある。
今回の件はロイの許容範囲を超えたのだろう。
そんなロイの心情が伝わったのか、他者の気持ちに多少鈍いエドワードも一瞬黙り込む。
一応悪いとは思っているのだろう。・・・・多分。
「何だよ、冷たいなロイ。書類を溜めちゃったのは俺のせいじゃないぞ?他の仕事が忙しかったんだ」
「・・・・・・・・・・・・・」
「だろ?」
「・・・・・・・・・・・・・」
やはり反省はしていなかったらしい。
自分は悪くないなどと、どの口がほざくかっ!
内心で怒り沸騰のロイだったが、怒鳴ったところで何十倍にもなって反撃される理不尽さをよく知っているだけに、
無言で抗議することにしたようである。
と、いうより、呆れて言葉も出ないといった方がより正しいかもしれない。
自分達のこの現状を見て、よく自分は悪くないなどと言えたものである。
全く、困った将軍様である。
「なあ、ロイ。ジャン?アレックス?ホークアイ中尉・・・・?」
救いを求めるように部下達の名を呼ぶが、反応は無い。
全員が同じ思いを秘めているらしい。
あくまでもクールな対応をする部下達に四面楚歌の雰囲気を感じ取ったのか、
エドワードの勢いは徐々に萎んでいった。
偶には反省すれば良いのである。
いつも将軍に振り回されているロイ達のささやかすぎる反抗であった。
「悪かったよ!書類を溜めたのは俺が悪かった!謝るから話聞いてくれよっ!」
そんな、部下達の無言の抗議に耐えきれなくなったのか、
とうとうエドワードは謝ることにしたようだが、その謝罪はどこか上から目線であった。
やっぱり将軍様は将軍様なのである。
「で、何なんですか?重要な話っていうのは」
これ以上の反省を促すことは無理だろうと判断したのか、又は、
これ以上将軍の相手をしている暇はないと判断したのかは不明だが、
ようやくロイはその重い口を開いた。恐らく後者であろう。
ロイの促しに、パッと表情を明るくしたエドワードは本当に単純で、
この人物が本当にあの、鋼の錬金術師なのだろうかと疑わしいところではある。
ロイをはじめ、部下達の心中は複雑なのだが、それでも、
愛すべき将軍で在ることに変わりはないのである。
だが、次に発せられた将軍の発言は愛すべきものでは無かった。
「あのな!俺、明日から一週間休暇取るからよろしくな!」
「何ですか、それ!駄目に決まってるでしょうがっ!!」
「何で駄目なんだよっ!俺は絶対に休むぞっ」
「ふざけないで下さい!どれだけ仕事溜まってると思ってるんですかっ!!!」
「そうですよ!俺達がどれだけ大変な思いしてると思ってるんすかっ」
「赦されませんぞ、エルリック少将。もし本当に休まれるのならば、我がアームストロング家に代々伝わる・・・・」
「冗談は聞きたくありません」
「何言ってるんです?」
「嘘ですよね?」
「・・・・・・・・・・・」
「少将・・・・・・・」
重要な話だというから聞いたのに、その結果がこれである。
ロイ達の堪忍袋の緒が切れるのも当然だったろう。
ロイ、ハボック、アームストロング、ホークアイ、ブレダ、ロス、ファルマン、フュリーの順で、
一斉に放たれた遠慮無い文句は、怒濤の勢いでエドワードに突き刺さった。
この混乱を招いた張本人があっさりと休めると思うなんてとんでもないことだ。
大体、一気に書類を片付けたからといって他に仕事が無いわけではない。
次から次へともたらされる書類仕事に終わりというものは無いのである。
こんな時に一人のうのうと休もうなんて信じられないし、許せることでもない。
部下達の抗議も当然だろう。
それなのに、当の本人であるエドワードは呑気なものである。
「え、だって、アイシャの誕生日が明後日なんだから、リゼンブールに帰らなきゃならないんだぞ?
休むしかないじゃないか。その為にプレゼントも買ってきたんだからさ」
両手に携えた袋を掲げ、さも当然のように休みを主張する将軍の神経が理解できない。
先程から何かと思っていた袋の中身は、街で買ってきた姪へのプレゼントらしい。
(当然だが、仕事を抜け出して買いに行ったのである・・・・)
大体、姪っ子の誕生日だからといって一週間も休みを取るなんて言語道断である。
何を考えているのだ。この将軍様は。
「姪御さんが可愛いのは分りますが、だからといってその誕生祝いに
駆けつけるために休暇を取るなんて絶対に許可できません」
「何でだよっ!アイシャの誕生日なんだぞ?今度五歳になるんだぞ?
直接プレゼント渡して祝ってやりたいだろう?」
「気持ちは分りますが、許可は出来ません」
「何でっ!?」
断固として許可しないと主張するホークアイに対し、
まさか止められるとは思っていなかったエドワードの驚きは半端ではなかった。
「自分の子供の誕生日さえ一緒に祝えない軍人は多数います。
増してや、姪御さんの誕生日なんて普通は一緒に祝える職業では、軍人はありません。
しかも、少将は現在多忙の一言に尽きます。無理です」
「そんなのおかしいだろ!俺だって休みを取る権利はあるはずだっ!」
「勿論です。但し、少将はこの三ヶ月間というもの、何かと理由を付けては仕事をサボりまくりました。
その結果が現在の状況を作り出しています。我々が手を休める間もなく処理しても、
この書類を整理するのに後2日は掛かります。更に、現在進行形で書類はまた累積しつつあります。
因って、少将が休暇を取る余地は一切ありません。お解りですね?」
解らなければ容赦しないぞという気迫が籠った鋭い視線と、その手にいつの間にか握られていた拳銃が、
安全装置を外した状態でエドワードに突きつけられていた。
脅しとは思えない殺気が漲る銃口に、エドワードの喉が鳴る。
怖すぎる・・・・・・。
「でも・・・な。アイシャが・・・・」
「何ですか?」
少しだけ青ざめた顔つきで、尚も言い募ろうとするエドワードの勇気は、
ホークアイの瞳に跳ね返された。
常になく本気で怒っているホークアイにとりつく島はない。
「この話は以上で終わりです。少将は席についてさっさと次の書類を決裁して下さい」
ロイ達の無言の圧力と、ホークアイの有無を云わせない殺気にエドワードは敗北した。
例え、この場を振り切って故郷に帰っても、部下達に手を回されて結託した弟夫婦に
家の敷居を跨がせて貰えないだろう事は目に見えている。
げに恐ろしきは共闘した部下と弟夫婦である。
と、自らの行いを棚上げにして、エドワードはこっそりとごちた。
END
ほぼ一年ぶりに拍手を更新しました・・・・(汗)
何だよそれっ?!と呆れている方々のお顔が目に見えます;;;
本当にすみません(>_<)
こんな体たらくならば拍手なんて撤去してしまえば良いと思うのですが、
何となくそれも出来ずにグズグズとした更新を続けている次第です・・・・。
情けないですねー。
そんでもって、ようやくUPした内容がコレって・・・(滝汗)
本当に申し訳ないです。
こんなにもヘタレたお話ですが、少しでも笑っていただけたら幸いです♪
ではでは、また一年後に!(洒落にならないから止めろっ!!!)
りお拝
2012年8月17日にUPした拍手でした。
更新遅すぎ;;;
2013年4月21日拍手より移動。