「冬獅郎ーー!」


遠くから呼ばれる自分の名前に微笑する。
瀞霊廷広しといえども、この自分を下の名前で呼び捨てにするのは一人しか居ない。
九番隊隊長黒崎 一護。
彼のみに自分を呼び捨てにする権利がある。
一番大切な者。


自分より20年遅れて護廷十三隊に入隊した一護は、
入隊と同時に席官となり、たったの2年で隊長へと異例の出世をした。
嘗ての自分と同じように、若くして出世するものには周囲の風当たりは強い。
自分が通った道を彼が歩くのを見ていられなかった。
だからだろうか。つい手を差し伸べてしまったのは。
しかし、それだけではなかったのだと今なら分かる。


自分と違って彼には他を寄せ付けない冷たさは無い。
最初 は疎まれていたが、彼の人柄に触れた者たちは
直ぐにその微笑ましいほどに子供っぽい性格に魅了されていった。
自分の庇護が無くても彼は何の問題もなく日々を過ごせただろう。
しかも彼は九番隊。自分は十番隊隊長だったのだから接点は全く無いといってよい。
返って他隊の隊長である自分が傍に居る方が迷惑だったのではないだろうか・・・。
面と向かって牽制されたことは無いが、本当はどう思っていたのか未だに聞くことは出来ない。


一護に対して必要以上に慎重な自分 が滑稽に思える。
それでも、やっと勝ち得た信頼を揺るがすようなことは出来ない。


一護は初め、自分よりも小さな子供が隊長と知って、かなり驚いていた。
見た目とは違って自分よりも何十年も年長だと分かっていても、
なかなか目に映るものを否定するのは難しい。
見た目子供の自分に敬語を使っているのが辛くなったのだろうか。
あっという間に 一護は自分に対する付き合いを砕けたものにしてきた。
それを不快にも思わず喜びを感じた自分は、やはり一護を特別に思っていたのだろう。
日番谷隊長と呼んでいたのが、気付いたら日番谷さん。
一護が隊長になってからは冬獅郎と呼ばれるようになっていた。


今まで自分を呼び捨てにするものはほんの僅かだった。
それこそ、霊術院に入る前の流魂街時代に遡らないと居ないだろう。
特に何とも思っていなかった自分の名前がもの凄く良い名に聞こえる。
一護が呼ぶ時。その名は耳に心地よく甘く響く。


出会ってから5年。
いつか、一護にとっての自分が、友から違う存在へと変化することはあるのだろうか。
先の長い自分達の生。
しかし、待つのにも限界がある。
いつか自分が暴走してしまうのではないか。
そんな不安が常に付きまとう。
傷つけないように大事にしたい思いと、無理やり奪いたい思いが錯綜している。
複雑な心境に自分でもどうしたら良いのか分からなくなる。
誰かを思うことが、こんなにも楽しく、辛く、嬉しく、痛いものだとは思わなかった。
それでも、一護が与えてくれるもの全てが愛しい。


「冬獅郎!聞こえてねぇのかよ!」


呼んでも反応の無い自分に焦れて、いつの間にか隣に居た一護が耳元で叫ぶ。


「聞こえている。そんなに怒鳴るな」


物思いに耽っていた事をおくびにも出さずに一護に苦情を申し立てる。
返事もしなかった自分に腹を立てわーわー騒いでいる一護が可愛い。
喚く一護を見上げながら思う。
子供姿の自分が何を考えているのか分かったら一護は怯えるだろうか。


いつか今の関係は崩れるだろう。
その時が幸せなものであることを祈らずにはいられない。
他力本願は自分の本位ではない。
絶対に自分の力で一護との関係を良い方向にもって行って見せよう。
改めて自分に誓いを立てる。


「一護。ついて来いよ」

「はぁ?どこに?」

「どこでもいい。俺のいる所にだ」

「なんだそりゃ?よくわかんねぇぞお前」

「今は分からなくてもいい。その内分かる」

「???」


急な言葉に訳が分からず疑問符を浮かべる一護を他所に、
日番谷は滅多に見せない鮮やかな笑みを浮かべる。
思いがけない日番谷の微笑みに何故か頬を染める一護。
日番谷の笑みは好きだ。


護廷十三隊に入った頃、躊躇いがちに差し出された手が嬉しかった。
今では隊長になり毎日が充実しているが、昔は顔には出さなかったが辛いこともあった。
それも日番谷が居たから乗り越えられたと思う。
大切な人。
自分にとっての日番谷はそんな存在だ。
出来ればいつまでも一緒に居たい。
そう思う一護だった。





想いはまだ一緒ではないかもしれない。
それでも大切な人であることに違いは無い。
長く続けば良い。
この・・・・・・・が。






END










なんか急に思いついて、
浮一そっちのけで(あやのさん、ごめんなさい;;;)
ばばばーっと書いてしまいました(苦笑)
なんかやっぱりあたしって
名前を呼び合うことに異常な執着心があるみたいです(笑)
ひっつんってなんか書きやすい・・・・。
もともと大好きなんだけど、動かしやすいのかな?

めっちゃ久々の拍手更新ですが、
少しでも気に入っていただければ幸いですv

2005.9.12