蒼
彼のイメージは誰に聞いても恐らく”蒼”と答えるだろう。
その理由は当然ながら氷雪系最強と謳われる斬魄刀と本人の姿形。
氷のような鋭さと奇妙なくらい淡い色彩。
子供の姿だけど子供ではないそのアンバランスな美しさ。
驚くほどのスピードで隊長になった彼は、どこか周囲とは隔絶されたような雰囲気を備えていた。
そんな彼の雰囲気がどこか柔らかく変化してきたのはつい最近の事だ。
だからといって人当たりがよくなったとかよく笑うようになったとかそういうわけではない。
相変わらず不機嫌そうな顔つきと馴れ合わない気難しさは健在だ。
ただ、そのトレードマークが剥がれる事が頻繁になって来たのは本当だ。
そして今日も。
「冬獅郎ーーーー!」
名前を呼び捨てにされたにも拘らず十番隊隊長が柔らかい笑みをはく。
瀞霊廷広しといえども彼を呼び捨てにするものは一人しかいない。
九番隊隊長黒崎一護。
彼も異例の出世で隊長にまで上り詰めた逸材だ。
眉間に刻まれた皺のせいで取っ付き難そうにみえるが、その性格は気さくで親しみやすい。
取っ付き難そうな事この上ない日番谷とは正反対のようにみえるが、この2人は非常に仲がよい。
お互い忙しい隊長職だというのに、微かな時間を見つけてはお互いを訪ねている。
この日も仕事が一段落した一護が十番隊隊舎を訪ねていた。
当然ながら隊首室を急襲したのだが、生憎と日番谷は不在だった。
とはいえ隊舎内に居る筈との事だったので探していたら、修練場から引き上げてくる日番谷を見つけたのだ。
「冬獅郎!聞こえてねぇのかよ!」
「聞こえている。そんなに怒鳴るな」
「一護。ついて来いよ」
「はぁ?どこに?」
「どこでもいい。俺のいる所にだ」
「なんだそりゃ?よくわかんねぇぞお前」
「今は分からなくてもいい。その内分かる」
「???」
ここは修練場。
当然他にも隊員達がいるわけで。
そんな中2人は会話を交わしていた。
そしてその内容に少なからず彼らが驚愕していたのを一護達は知らない。
聞きようによればプロポーズにも聞こえる自分達の隊長の発言に幻聴かと首を捻る者。
今聞いたのは何なのだろう?どことなく可笑しくないか?と何だか分からないけど異常さを感じ取っている者。
何かの間違いだろうと聞かなかった事にしようとして首をブンブンと振っている者。
そんな彼らの必死の抵抗を打ち砕いたのが日番谷の笑顔だった。
滅多に見られないというか、自分達の前ではニコリともしない隊長が笑った。
晴々と鮮やかに鮮烈な印象の満面の笑顔。
きっと自分達の存在を忘れているのだろう。というか眼中にないのだろう。
そうでなければこんな笑顔をする筈がない。
見てはいけないものを見てしまった。
そう感じた隊員達はこの事を自分の胸だけに秘めておこうと全員が決心していた。
そして、氷のような自分達の隊長に少し親近感を覚えたことも秘密にしよう。
2人の世界をつくっている一護達を遠い眼差しで温かく見守る隊員達。
異様な連帯感が取り巻く空間に、後から現われた隊員達がビクついていたのは当然だろう。
END
以前にUPしていた「想」の第三者バージョン。
シリアスに物思いを語っていたひっつんや一護ですが、
実際はもの凄く恥ずかしい人達だったのは公然の秘密です(笑)
2007.8.14