午睡






真夏の日差しが容赦なく照りつける中、
中央司令部の中庭では何やら人だかりが出来ていた。
大きな木が等間隔で植えられたその一角は、普段忙しい任務の間に息抜きとして集う軍人達が、
繁った葉の間から降り注ぐ木漏れ日を楽しみながら読書をしたり、友人とおしゃべりをしたり、お弁当を食べたりする憩いの場となっているのだが、
今日ばかりは少しだけ・・・いや、相当様子が違っていた。


一際大きく聳え立っている一本の木の下に、数十人もの軍人達が半円を描くように取り囲んでいるのだ。
皆休憩中なのかは定かではないが、下士官から将官まで、彼及び彼女らの階級や並びには統一性がなく入り乱れており、いっそ珍しい光景が作られていた。
その様子を見た通りがかりの多くの軍人達が、遠くから何事かと気にしながらも仕事に追われ足早に目的地へと向かって行ったが、
もし、好奇心に駆られた人物がその人垣の中心に何があるのかと覗いてみれば、仕事も忘れてたちまち彼らと同じようにその場に立ち尽くし、視線を逸らすことが出来なくなったことだろう。


「マスタング少佐、あそこに人だかりが出来てます。もしや・・」

「可能性は大だな、ファルマン准尉」


必死の形相で辺りを見回していたロイとファルマンの目に飛び込んできた光景。
それはもしかしなくても彼らが探していた人物がそこにいることを示している。
見なくても分かる。
その尋常ならざる雰囲気だけで・・・・。


脱兎の如く駆けだしたロイとファルマンは、何重にも重なった人垣を掻き分け、木の根元へと到達した。
案の定、そこには彼らが探し求めていた人物が居た。


どっしりとした木の下の芝生に寝転がり、燦々と降り注ぐ木漏れ日を浴びて眠る麗人。
少しだけ体を丸め横を向いた姿勢で寝ている人物は、周囲の喧噪や戸惑いなどとは無縁の健やかで幸せそうな顔をしていた。
緑色を纏った柔らかな日差しを浴びて輝く絹のように艶やかな黄金の髪。
普段、半分は隠されている額が全て顕わになり、眩しいほどの白さが妙な色気を感じさせる。
だが、それとは裏腹に、顔の輪郭が朧になるような光に包まれた白い顔は、どこか子供のようにも見える。
何故なのかは一目瞭然。
意志の強さを秘めた金色の瞳が閉じられているからだ。


中性的に見える秀麗すぎる容貌を、男性にしか見えなくしている輝きを秘めた瞳。
一度でも目にしたら忘れること等出来るはずもないその強さ。
彼を彼たらしめている瞳が見えないだけでこんなにも印象は変わるのかと驚かずにはいられない。
呼吸をしているのか不安になるほど静かに眠るその姿は、神が創造した美しい人形のように見えた。
その様子に魅せられて、微動だにできない群衆の和が乱されたのはそんな時だった。


「エルリック少将、散々探してたんですよ!こんな所で寝ないで下さい!!!」

「エルリック少将!起きて下さい!」


静寂を引き裂く悲痛な叫び。

瞬きもせず、一心にエドワードを見つめていた群衆が俄に正気付く。
夢から覚めた子供のようにポカンとした彼らが顔を向けた先にいたのは勿論、
エドワード・エルリック少将の部下であるロイ・マスタング少佐とファルマン准尉である。
将軍を捜して余程あちこち駆け回っていたのだろう。
彼らの呼吸は気の毒なくらい荒かった。


「起・き・て・く・だ・さ・い!!!!!」


鼓膜を劈くような大声でエドワードの体を揺すりながら叫ぶロイの姿に、些か引く。
容赦なくゴロンゴロンと揺すられれば、流石に目が覚めるのだろう。
それまでピクリとも動かなかったエドワードの瞼がゆっくりと開き、輝く黄金が顕れた。
たったそれだけのことで、生がない人形のようだった姿が他を圧するオーラを放つ光へと一変する。
思わず零れる感歎の声を背中に聞きながら、ロイは苦々しげな顔でエドワードの姿が見えないように彼らの視線を遮る。
そうは云っても全ての視線から隠せるわけもなく、その後も溜息とも嬌声とも付かない声が嫌でも耳に入った。
一刻も早くここから立ち去らなければ。
強迫観念に駆られたロイと、それに引き摺られるように慌てるファルマンによって立たされたエドワードは、
ガシッと左右の腕を捉えられる。


「なんだよお前達。どうしたっていうんだよ」


エドワードの仕事をサボって寝ていたにしては平素と変わらない泰然とした語り口が何だか憎い。
自分達の苦労も知らずになんたることだ。
言いたいことは数限りなくあるが、取り敢えずここから去るのが第一だろう。


「行きますよ」

「おいっ」


何が何だか分からないまま、走り出した2人に引き摺られてエドワードはその場を後にした。
ロイ達が駆けつけてからホンの20秒ほどの出来事だった。
まさに電光石火の勢いである。
だが、残された群衆は結構満足していた。
日頃の性格や言動はともかくとして、あの美しさは必見である。
一瞬だったとはいえかなり貴重なモノを見ることが出来た。
満足げな笑顔を残しながら、彼らは三々五々自分達の持ち場へと戻っていった。



「あんな所で無防備に寝ないで下さい!」

「俺の勝手だろうがっ」

「勝手じゃありません!執務中ですよ」

「違うぞ!俺は休憩中に寝てただけだ」

「少将の休憩時間は1時間前に終わったはずですが」

「うっ、それはその。寝てたから気が付かなかったんだ・・」

「嘘つきなさい。寝ていたって完全に周囲の状況くらい把握できるくせに」


相変わらず左右からしっかりと腕を掴まれたまま、エドワード達3人は足早に司令室へと向かって歩いていた。
流石にこの状態で走るのは悪目立ちし過ぎるとロイは判断したようだったが、歩いていてもあまり変わらないくらい目立っていた。
それはそうだろう。
大の大人が3名も腕を組んで歩いているのだから。
しかも、エドワードとロイの激しい舌戦が繰り広げられてるとなれば尚更だろう。
この状況に多少の気恥ずかしさを感じているのはファルマンだけである。
とはいえ、彼もまたエドワードが何所でも彼処でも寝てしまうことに不満を持っていたので、ロイの忠告には否やはない。
ひとり不満を抱いているのはエドワードだけである。


彼にしてみれば、ちょっとサボって寝ていただけなのに、こんなに怒られるとは想定外であった。
何だよ。ちょっとくらいのんびり昼寝したって良いじゃないか。ロイのケチ!


エドワードの不服そうな顔を見ながらもロイの怒りは収まらない。


ロイ曰く。


『あんなに綺麗で可愛い寝顔を誰にでも見せるなんて赦せないっ!!!!!!!!!!』


である。







END






ほぼ一年ぶりに書いた拍手用SSです。
いい加減納豆の続きを書くか下げるかしないと拙いと思い、ようやく重い腰をあげました;;;
納豆はいまひとつ気が乗らなくなったので一旦下げます。
その内続きを書くかそのまま尻切れトンボのままサイトにUPするかしますね;;;
すみません(>_<)

久々の拍手はまたもや将軍逃走モノですが、
寝顔を晒して欲しくないというロイの本音も交えて書いてみました。
如何でしたでしょうか?
少しでも楽しんでいただけたなら幸いですv

ではまた。






2011/09/05に拍手から移しましたv