Sleep tight 「私と賭をしないか?鋼の」 「賭?何で?」 「それは勿論、君を凹ましたいからだよ」 「なんだそりゃ?」 「いつだって私は主導権を握られて君に振り回されてるからね。偶には上位に立ちたいのだよ」 「どっちが!俺を振り回してるのはあんたの方じゃないかっ!」 「そんなことはないだろう?出掛けていったきり連絡も寄こさない君をただ待ってるだけで、何も出来ない私より君の方が確実に主導権を持っているのは間違いないさ。違うか?」 「それは・・・。だってしょうがないだろ?情報集めてる間に電話もないような僻地に行ったりする事だってあるんだからさ」 「電話もないような僻地などそうそう無いだろう。それにも係わらず連絡を寄こさないと言うことは、私には関心が無いと、そういうことではないのか?」 「そんなこと・・・ねぇよ。ただ・・・」 「ただ?」 「・・・・ただ、夢中になっちまうと他のことに意識が向けられなくなるだけだ・・」 「だから、そういうことだろう?君の中での優先順位は明らかだ。私は何番目なんだ?鋼の」 「・・・・・・・」 馬鹿なことを聞いている。 自分より一回り以上も年下の子供。しかも少年相手に何を大人気ないことを言っているのだという自覚はある。 それも、久しぶりに会えた喜びを交わしあった直後だというのに、だ。 貪るような激しい情動はようやく息を潜め、心地よい疲労感に微睡んでいる幸せな時。 お互いに何も身に纏っておらず、熱を帯びた素肌はまだ汗ばんでいる。 触れ合った部分から伝わる熱としっとりした肌が心地よい安心感を生む。 本来なら睦言でも囁いて眠りに落ちていくところだろう。 それなのに・・・。 自分の腕の中にスッポリと収まっている、年齢の割に小柄な少年は、背中から抱きしめられているために振り返ることも、理不尽な発言をしている自分の顔を見ることも出来ずに、困惑しながら沈黙している。 相手が答えられないと分かっていてする質問ほど、質の悪いモノはないだろうと自戒する。 それに、この少年の中での優先順位など聞かなくても分かっている・・・。 一に、弟。 二に、賢者の石。 三に、幼馴染みの少女。 自分の位置づけなどそれ以下だ。 自嘲の笑みを浮かべながら、それでもエドワードを抱きしめる腕に力を込める。 まるで頑是無い子供が母親の愛情を乞うように・・・・。 例え、少年の中で自分の位置付けがどんなものだろうと、何があっても、エドワードを手放すことなど考えられない。 「あんただって・・・・・大佐だってそうだろ?」 どの位の時間が経ったのだろう。 お互いの体から汗が引き、感じられる熱は触れ合った部分だけとなった頃、エドワードがポツリと問う。 「?」 「大佐の一番だって俺じゃないよな。あんたの一番は国だ。大総統になって国を立て直すのが一番の優先事項。その次がホークアイ中尉やハボック少尉達。俺はその下だろ?」 「それは違うぞ、鋼の」 「違わないだろ?俺が連絡しないって言ったって、何処に行くかは予め伝えてあるんだし、その気になれば俺達の居場所なんて直ぐに分かるだろ?おまけに街のホテルなんて数えるほどしかないんだから、調べたら電話くらい直ぐに出来るじゃないか。それに、セントラルに帰って来てもあんたの方が忙しくて捕まらないことが多いだろが」 「・・・・・・」 それは違うと反論したいのに、言葉が出てこない。 違うのだ。そうではない。 ロイは心の中で思っていることを言い表せないもどかしさに己の不甲斐なさを感じる。 先程よりも重い沈黙が部屋に広がり、体に感じる少年のオートメイルの冷たさのみが顕わとなる。 一方エドワードも、期待してはいなかったが、重ねて否定してこないロイに多少の失望を感じて少しばかり落ち込んだ。自分で言ったことに自分で傷ついていてはどうしようもない。 何を馬鹿なことを言っているのだろうか自分は・・・。 本心とは裏腹な言葉が口をついて出るのは何故なのか。 音となって出た言葉が真実ではないと、お互いに心の底では分かっているのに、 もしかしたら、という可能性に怯えて素直になれない・・・。 幼いエドワードは初めての恋に戸惑い、恋には手慣れているはずのロイは、少年相手の本気の恋に戸惑っている。 2人共が、初心者同士のようにぎこちない恋愛に臆病になっているのは確かだろう。 「で、賭の内容は?何を賭けるんだ?」 重苦しい沈黙を破ったのは、相変わらず腕の中にいる少年の問いかけだった。 しかも先程の諍いの原因となった賭の話だ。 自分が最初に振ったこととはいえ、何でそんなことを言ったのだろうかと少しばかり後悔する。 ただ、あまりにも自由奔放に動き回る想い人に、卑怯だとは思うが、少しでも自分という足枷を付けたかったのだ。 だが、返ってこれが良い切っ掛けになるかもしれないとも直感した。 いつもは言えないことも、賭というオブラートに包んでしまえば、案外簡単に吐露する事ができるだろう。 それが例え卑怯な手段であっても、使えるのであれば何でも使ってやる。 形振り構わない大人がどんなにみっともなくても気にして等いられない。 「ああ。賭の内容は、半年間君が週に1回の定期報告を必ずすると言うことだ。それを忘れた時点で直ぐに戻ってきて私に『好き』と言うこと」 「なっ!!!・・・なんだよそれ!!」 思い掛けないロイの爆弾発言に、エドワードが顔を真っ赤に染める。 ついさっきまでの重苦しい空気が一気に解消され、変わって現れたのは何とも賑やかな雰囲気だった。 それまで大人しく抱かれていたエドワードが俄にジタバタと動き始める。 何とか抜け出そうと自分の腕の中で暴れる少年の顔が見たくなったロイは、今まで頑として緩めなかった腕を外した。 ようやく解放されたエドワードは直ぐさま飛び起き、憎らしいほど余裕たっぷりに寝そべったままのロイを見下ろした。 何でこんなに余裕綽々な態度取ってるんだこの野郎っ! 衝撃のあまり直ぐに言葉が出てこないエドワードは、まずは心の内で叫びを上げた。 驚きの感情をそのままに頬を染めているエドワードは、自覚はないだろうがとても綺麗だ。 成長途中の少年のみが持つ危うい美しさと、内面の強さが滲み出る大きな瞳。 金色に光る瞳の強さにロイは見惚れる。 「簡単だろう?ただ毎週私に連絡すれば良いだけなのだから」 「違うっ!そっちじゃなくてっ!・・・すっ好・・き・・って何だよ!!!」 「なんだよって。そのままの意味だが。何か問題でもあるのか?」 「問題だらけだわっ!!!誰がそんなこと言うかっ!」 「だから。言いたくなければ毎週連絡すれば良いだけだと言ってるだろう。違うか?」 「うっ・・そ、それは・・そうだけど・・・・。でもっ、何かおかしいだろ、それ!それに。・・・そうだっ!俺にばっかり要求するけど、大佐は何を賭けるんだよ!狡いだろうが!」 「私か?私も同じだ。毎週君からの連絡を必ず受けよう。それが出来なければ任務を放棄して直ぐに君の元へと馳せ参じて『愛している』と言おう」 「ーーーー!!!」 「それで良いか?鋼の」 「よ・・・・、よっ・・・良くないわーーーーー!!!」 「何故?」 「何故って、何故って・・・そんなの全然賭になってねぇだろうがっっ!!!」 「そんなことはないだろう?お互い賭に負けたら思いを伝えるだけで良いんだから。そうそう、流石に曜日を決めないと辛いから月曜日と決めようか。時間は夕方の5時だ。分かったな、鋼の」 「!!!」 分かるかそんなもんっ!!! 最早返す言葉もなく愕然とするエドワードは、相変わらず寝そべったままのロイに上目遣いで迫られ、胸が激しい鼓動を刻むのを自覚する。 ふざけているようにしか聞こえないのにその瞳は真摯で、ロイが冗談で言っているのではないと訴えているのが良く分かる。 『愛している』 そう言ったのか?この男は。 その言葉がエドワードの頭の中で何度もリフレインされ、更に動悸が激しくなる。 いつの間にか体を重ねる関係になったとはいえ、今までこんなにも真剣な告白をされた事などなかった。 それなのに・・・・。 本当に? 本当に俺のことを? ロイからの突然の告白に赤い顔を更に赤く染め、口をパクパクさせるエドワードはもの凄く可愛いかった。 恋愛に疎い子供相手に大人の手管をこれでもかというほど使いまくり、殆ど騙し討ちのように今の関係を作り上げた負い目もあり、今まで何度となくエドワードに好きだと言ってきたロイだったが、『愛している』と言うのは初めてだった。 何も言葉を惜しんでいたわけではない。 そうではなく、先の理由による負い目の他、エドワードに今以上の重荷を背負わせたくなかったからだ。 自分の体だけでなく、弟であるアルフォンスの体を元に戻すために必死に生きている彼に、 更に自分という存在を見てくれ、考えてくれと言うのが憚られたのだ。 その割りに、しっかりと関係を持ってしまったのは自分の独占欲のせいだ・・・・。 どうしてもエドワードが欲しかった。 「鋼の」 ロイは横たえていた体を起し、目の前で固まっているエドワードに手を差しのべる。 抱きしめようとするロイから、逃れるようにビクッと体を震わせ、一瞬だけ逃げる素振りをみせたエドワードが、結局は大人しくその腕の中に収まる様が愛おしい。 エドワードの肩に埋もれさせたロイの耳に、トクットクットクッと激しく刻まれるエドワードの胸の鼓動が感じられて幸せな気持ちになる。 ほんの少しでも良い。自分の言葉でこの小さな子供が幸せな気持ちになってくれたら嬉しい。 軽口に紛れ込ませた真実の言葉に気が付いてくれたら嬉しい。 どこまでいっても利己的な自分に自嘲の笑みを浮かべながら、ロイはそう願う。 負担になりたくないと思いながら、その反面、言葉という鎖で搦め捕ろうとしている狡い大人。 それがロイ・マスタングという男の偽らざる真の姿だった。 ロイが指摘したように、自分の半分しか生きていないエドワードの天秤は一つしか無く、その中での自分の位置は低くはないが一番ではない。それは揺るがない事実だろう。 それに対し、自分の天秤は二つある。 一つは、エドワードが言ったように国が一番で、大総統になるのが目的だった。 そして、もう一つの天秤には、エドワードが他のモノとは比較できない程大切な存在として乗っている。 次元の違うその天秤は、選ぶ余地がない同等のモノとしてロイの中にある。 二つの天秤のどちらか一方が欠けた時点で自分の存在意義は失われるだろう。 例えば、夢破れて大総統の地位を得られなかったときは自分が敗北し、死ぬということだから、当然エドワードとは未来を生きられない。 また、国を得たとしても、何らかの理由でエドワードを失うことになったら、自分はただ生きているだけで心は死んでいることだろう。 欲張りな自分は子供のように全てを望む。 目的を達した後に、視野が広がるだろうエドワードの自由を少しずつ奪っている卑怯な大人。 それでも、エドワードを愛しているのは嘘偽りのない真実だった。 自分の中にこんなにも激しい想いがあるなんて知らなかった。 自分の腕の中でどこか安心したような顔をするエドワードを手放せない。 いや、手放さない。絶対に。 「仕方ないから付き合ってやるよ・・・・。その賭けにさ」 じっとしていたエドワードが不意に顔を上げて、ロイにそう呟く。 未だに紅潮したままの頬と、熱に浮かされたように潤んだ瞳が、素っ気ないその言葉とは裏腹にエドワードの緊張を伝えてくる。 エドワードなりに、ロイへ自分の思いを伝えようとしているのだろうが、素直になれない子供は憎まれ口をたたくしか術がないのだろう。 そんなエドワードが益々愛しくて、ロイの笑みは知らず深くなる。 普段、皮肉気な笑みばかり見せるロイの、ふんわりとした柔らかい微笑みに、エドワードは驚く。 こんな顔で笑うロイは初めて見る。 暫く呆然として見つめた後に、恥ずかしさの余り再び顔をロイの胸へと埋める。 どうしたというのだろう?自分も変だしロイも変だ。 把握できない事態に頭が混乱して目眩がする。 自分の中で上手く処理できない感情に疲れ果てたエドワードは、いつの間にか睡魔に襲われ、その誘惑に嬉々としてのった。 「おやすみ、鋼の」 腕の中でクタッとなったエドワードの額に口づけ、囁く。 どうか一瞬でもいい。よい夢を。 |
END
何だか支離滅裂な話に・・・・(汗)
上手く収拾が付かなかったのはエドではなく私でした;;;
どうやら原作設定のロイは、エドに好き好き言いたいみたいです(笑)
おまけに独占欲強いったらありゃしない・・・。
ちょっとウザイかもしれないですね、この人(苦笑)
2009/12/07