夜桜
薄く靄の懸かったひっそりとした空気の中、夜風に吹かれて桜の花びらが舞っている。煌々とした月明かりに照らされて、はらはらと花びらが散るその光景は例えようも無く美しかった。
誰も居ないと思われたその桜の木の下に闇に融けるように一人の男が横たわっていた。どの位の間、横たわっていたのかその体の上には無数の桜の花びらが降り積もっていた。濃紺の着流しを着て斬魄刀も帯びずに無防備に横たわっているのは・・・。
「こんな所に居った」
気配も感じさせずに絵のような世界に現れたのは、護廷三番隊隊長市丸ギン。
桜の下で眠る男、更木剣八を見ていとおしそうに微笑みながら傍らに屈み込みその顔に手を伸ばす。
剣八は気付いていないのか全く起きる様子が無い。無心に眠る穏やかな寝顔に引き込まれるように顔を寄せ、唇に軽い口づけを落とす。
ゆっくりと顔を上げると、じっと自分を見つめる剣八と目が合った。
「起こしてもうた?」
「いや、お前が来た時から目は覚めてた」
「邪魔してごめんな」
剣八はゆっくりと身を起こすと、謝るギンの隣に座りながら手を振り謝罪を受け入れる。
「ただ寝っ転がってただけだ。それよりも何か用か?」
「用って言うか、剣ちゃんの所に夜這いに行ったら居らんねんやもん。そやからあちこち探しててん」
ケロッとしてそんな事を口にするギンに呆れる。
「バカ。何言ってんだお前は」
「だってホンマの事やもん」
「ったく、本当にアホだなお前・・・」
剣八にアホ呼ばわりされても全く懲りないギンは、笑いながら剣八を抱き寄せる。
呆れながらも逆らわず、ギンにされるがままその腕の中にもたれ掛かる。
暫く無言のまま寄り添いながら桜が風に吹かれて散っていくのを二人で見ていた。
月明かりしかなく周囲には誰も居ない。
自分達しか居ない・・・・・。
そんな状況で何も語らずにただ抱き合っているのはなんとも言えず気持ちのいいものだった。たまに訪れるこんな穏やかな時を過ごすことを二人共に口には出さないが好んでいた。
「桜、散り始めてしもうたね・・・」
ひっそりとギンが剣八に話しかける。
「そうだな。今年の桜も見納めだな・・・」
対する剣八も常になく穏やかな口調でギンに答える。
「こんな綺麗な夜桜見られて良かったわ。今度来る時は最初からボクのこと誘ってな」
「・・・・ああ。そうだな」
ギンは腕の中の剣八の顎をくいっと自分の方に向けて、囁きながら口づけをする。
しっとりとしたその口づけはどこか清らかで優しいものだった。
誰も居ない桜の木の下で何時までも二人は寄り添いながら口づけ繰り返す。
そんな二人を見ているのは煌々とした光を放つ月と、
月明かりに照らされた桜のみ。
春の終わりの夜の出来事。
END
ギン剣SS第3弾。
ますます混迷の度を深めていってます・・・。
何だこんな駄文!
とのお怒りはごもっとも。
真摯に受け止めますので石は投げないで下さい。
単に夜桜と、そこに横たわってる剣八が書きたかっただけなんですー(>_<)
2004.8.16