散歩 多くの死神達が闊歩する十一番隊隊舎内の廊下を剣八はギンに手を繋がれて歩いていた。 というよりは引き摺られているといった方が正確だろうか。 「市丸!てめぇいい加減に放しやがれっっ!!!」 周りを歩く死神たちの奇異の視線に居た堪れない思いをしている剣八が、自分の腕を掴んで離さないギンに対して怒鳴りつけた。 「いやや〜、剣ちゃんとお散歩するんだも〜ん」 剣八の抗議を全く意に介さず悠々としたままギンは歩き続ける。 「何がお散歩だ!隊舎の中歩いてるだけだろがーーーっっ!」 遡る事30分前。 三番隊隊長であるギンが突然剣八の執務室に来て口開一番、 「剣八っっちゃ〜〜ん、お散歩行こ〜〜」 などとなんとも気の抜けた発言をかましてくれた。 「はぁ?何言ってんだお前?見りゃ分かるだろが、俺は仕事してんだよ」 「そんなん後で良いやん。それよりもボクと遊んでや〜」 「うるせえ。お前だって仕事中だろ。戻って仕事しろ!」 「いやや〜。剣ちゃん遊んでや〜〜〜」 「い・や・だ!さっさと失せろ!」 「いやや〜、いやや〜、剣ちゃーーーん!」 暫く無視して机に向かっていた剣八も、あまりの騒がしさにうんざりしてしまい、とうとう根負けしてギンの要求をのんでしまった。 「分かった。分かったから黙れ!五月蝿いっ!」 「やったー!さすがボクの剣ちゃんや。話が分かるわ〜」 「誰がボクの剣ちゃんだ、ったく」 はあぁぁ・・・。とため息をつきながら渋々ギンと出掛ける事にした剣八だったが、まさかそれから延々20分も隊舎内を手を引かれて歩く破目になるとは思いもよらなかった。 散歩に行こうと言った筈のギンが、何時まで経っても隊舎内から出ないので剣八のイライラは募る一方だった。 なにしろ自分の隊舎内である。 あちこちから死神たちの好奇の視線や、 普段強面の隊長が子供のように手を引かれて歩いているという、理解しがたい驚愕に彩られた視線に晒され非常に気まずい。 というか恥ずかしい上にみっともない。 何故自分がこんな目に遭わなければならないのか剣八には理解できなかった。 そして冒頭のやり取りに戻る。 「おい、市丸!何時までこんな事続けるつもりなんだ?みっともないから手を離せ!」 「えー、お散歩してるんだから手を繋ぐのは当たり前やんか〜」 「お前の散歩って言うのは隊舎の中をグルグル歩き回る事なのかっ!」 「ちゃうよ〜。でも、剣ちゃんが忙しい忙しい言うから外行かないで近場で妥協してるんやないか〜」 「近場って・・・、そんな屁理屈あるか!いいから、時間ならたっぷりやるから外に行くぞ!」 周囲の視線に堪えられず、剣八は外に行く事を促した。 どんなに仕事が溜まってようが、こんな状況に置かれるよりは全然ましだと判断した為だ。 「えっ、ほんま?やったーー!剣ちゃん大好き〜〜」 あわわわわ。剣八は焦りながら、 「ば、馬鹿やろう!こんな所でそんなでっかい声で何言ってんだ!!!」 「だってボク剣ちゃんのこと大好きなんやもん。せやから何時でも何処ででも言うたるよ〜」 「やめろ!ふざけんな市丸!さっさと行くぞっっ!」 決断したら即行動。 ギンの首根っこを掴んだ剣八は、 ますます怖いもの見たさの好奇心に駆られて周囲に集って来ていた死神たちを振り切るようにその場を立ち去った。 取り残された死神たちはあっけに取られてそれを見送った。 たった今繰り広げられていた光景は一体なんだったのか? 分からないなりになんとなく自分達の隊長が三番隊隊長に振り回されている事が伺え心配になった。 どうか無事に戻ってきますように。彼らは真剣に隊長の身を案じていた。 瀞霊廷郊外の草原に辿り着いた剣八は、やっと好奇の視線から逃れる事が出来てほっと安堵の息をついた。 しかし、隊長の威厳形無しの珍事にきっと今頃騒ぎになっていることを考えると憂鬱になる。 はぁぁぁ・・・。ため息をついた剣八はギッっと隣に居るギンを睨み付けた。 睨まれたギンはといえば、そんな剣八の視線には全く頓着せず、 相変わらず人を食ったような笑顔を浮かべていた。 「お前・・・。本当にはた迷惑な野郎だな・・・・」 諦めたような剣八の文句にギンは、さも心外だと言わんばかりに返した。 「何でや?剣ちゃんのことを思ってしたったんに」 「お前の気遣いは人のためになっとらん!お蔭で隊員達の前でいらん恥かいたわ!!」 「まあまあ、ええやないの。折角二人っきりになれたんやし怒らんといてやー」 「あのな〜・・・」 何を言っても暖簾に腕押し状態のギンに剣八は脱力した。 剣八の怒りが収まった事をさっしたギンは再び手を繋いで歩き出した。 「だから、何でいちいち手を繋ぐんだお前は。」 「だってボクら恋人やもん。恋人なら手を繋ぐの当たり前やろ?」 「こ、恋人言うなっっ!」 一瞬で頬を赤くした剣八が叫ぶ。 「えーー、剣ちゃんボクの事嫌いなん?恋人とちゃうのん?」 照れてる様子に内心ほくそえみながら、表面的には悲しげな表情をしながら大袈裟にいじけてみせる。 見せ掛けだけだと分かっていても、人の良い剣八は 乗せられていると思いつつ、ついついフォローしてしまう。 「き、嫌いじゃねぇ・・・」 呟くようにいったその言葉はしっかりとギンの耳に届き、ギンを調子付かせてしまう。 「嫌いやないじゃ分からん。ボクのこと好きならはっきり言ってくれな」 「うっ。だ、だから・・・。す・す・・・きだ・・・・」 消え入りそうな声でやっと言葉にした剣八をギンはしらばっくれて更に要求をエスカレートさせる。 「え?なんやの?全然聞こえへん。もっと大きな声で言ってや」 絶対聞こえてるくせに知らん振りをするギンを恨めしげに見ながらも剣八は更に良い募る。 「・・・だから、好きだ・・・」 「聞こえへん。もっとでっかい声で言ってや〜vv」 ニヤニヤ笑いをしながらギンはまだ許さない。 いい加減頭にきた剣八は自棄になって怒鳴った。 「うるせえ!!好きだって言ってるだろうがーーーーー!!!!」 ぜえぜぇと荒い息をつきながら剣八がギンを睨みつける。 その様子を嬉しそうに見ながらギンが剣八に抱きつく。 「剣八大好き!愛してるで〜〜〜〜!」 「や、やめろ、抱きつくなっっ!」 焦ってギンを引き剥がそうとするが、恐ろしいほどの力で抱きしめられていて離すことが出来ない。 暫く頑張っていた剣八もやがて諦め、ギンの好きにさせることにした。 所詮、この手のやり取りで剣八がギンに勝てる訳がないのだ。 どの位そうしていたのか二人の間に穏やかな空気が流れ、甘やかな雰囲気がその場を支配した。 空気が変わったことを察した剣八が思わずギュッと目を瞑る。 そんな剣八に目を細めて笑みをはく。 「剣ちゃん、好きやで」 囁きながらギンの手が剣八の頬に伸び顎を固定した。 自然に合わされる唇。クチュと言う音と共にギンの舌が進入してくる。 「んっ・・うぅ」 思わず漏れる声に剣八の顔が羞恥に赤くなる。 何度も角度を変えて与えられる口づけに次第に息が弾んで来る。 わざと音を立てて舌を絡めるギンを恨めしく思いながらも溺れる自分が居る。 剣八の力が抜けてギンに縋り付く様になった頃、ようやく満足したのかギンが剣八を腕の中から解放した。 「ふっ・・う・・・市丸・・・」 はあぁ、と息をつきながら剣八が息を整えようとする。 目元を赤く染めながら自分を見つめる剣八に、ギンは笑みを深くして囁いた。 「お散歩止めて家行こか?」 その意味するところは一つだが、剣八は更に顔を赤くしながらも頷いた。 結局その日は隊舎に戻ることなく、散歩をすることも無くギンの家で過ごす事になった。 翌日、ギンに連れ去られたまま戻ってこなかった剣八が姿を見せた時、死神たちは心配そうな目をむけ、自分たちの隊長が無事である事が分かると安堵した。 END 初めてのSSです・・・・。 一体何が書きたかったのか私(汗) イチャイチャしてる二人が書きたかったんですが、 今ひとつ成功してないですね・・・。 剣八が乙女だし・・・;;; H入れられないし・・・。 恥ずかしいですね〜(^^; なんだか説明文ばかりで面白くないです。 もっと精進しなければ! 2004.7.28 少しだけ手直ししました。 って云っても殆ど変わってませんが・・・。 言いまわしや改行に不満があったもんで(^^; 2004.8.26 |