告白







十一番隊隊員達は、ここ最近の隊長の様子に首を傾げていた。
普段からデスクワークを毛嫌いし、最優先事項の書類のみを渋々提出している隊長が、何があったのか毎日のように机に向かい書類の処理に励んでいるのだ。
ただ、机に向かっている時間が長い割りに仕事が進んでいなかったのだが・・・。

目を通していた書類から顔を上げて剣八はため息をつく。
気を紛らわす為に普段は見向きもしないデスクワークをしているというのに、やっぱり集中し切れなくてふとした瞬間に忘れていたい事を思い出してしまう。
思い出したとたんにボッと顔を赤くして、誰も見ていないのに何かを否定するように焦りながら手を振り回す。
その可愛いといっていい行動は普段の剣八からは想像も出来ない程幼いしぐさだった・・・。
なにせ十一番隊隊長更木剣八はその体格と強面の人相、異様な髪型とで誰もが恐れる人物だったからである。

一人で焦っている剣八は、なんで自分がこんな思いをしなきゃならないのかと沸々と怒りが湧いてくる。
その矛先は、自ずと自分を振り回す言葉だけを残したままここ4日程姿を見せない三番隊隊長市丸ギンへと向けられる。



事の始まりは4日前。
何時ものように剣八の元に遊びに来ていたギンが、急に真剣な顔をして剣八を見つめて信じられない告白をした。


「好きや、剣八」


はぁ?何言っていんだ、おめぇ?と出かかった言葉は、ギンの常に無いほどの真摯な瞳に出会い飲み込まれてしまった。一言発しただけでギンは次の言葉を紡ぐことなく剣八を見つめ続ける。ごくっと喉を鳴らして唾を飲み込みながら、その瞳に気圧されたように視線を外す事も出来ずに剣八もギンを見つめ返す。


どの位時間が経ったのか・・・、実際はほんの1〜2分だったのだろうが、剣八には1時間にも感じられる時が流れた後にやっとギンの瞳が和らぎ剣八に向かって一歩を踏み出した。

その行動に剣八も知らずに詰めていた息を吐き緊張を解く。

「市丸?てめぇ一体何っ・・・!」

この展開が一体どういうことなのか問い詰めようとした剣八の言葉は、歩みよってきたギンの唐突な行動によって遮られた。
一瞬で離れていった口づけは口づけとも云えないほど軽いものだったが、剣八を驚愕させるのには十分な効力を発揮した。



「好きやよ剣ちゃん。冗談やなくてホンマにな。だから僕と付き合うてや」

日頃の貼り付けたような嘘臭い笑顔ではなく、心からの晴れやかな笑顔を見せるギンに剣八は更に衝撃を受ける。
ここに至って、初めて剣八はギンが自分に対して告白をしている事を理解した。理解したけれども、だからといってどうしたら良いのか皆目検討もつかず、口をパクパクさせる事しか出来ない。
そんな剣八を見てギンは苦笑した。



「急にこんな事言われても困るやんな?ごめんな・・・。でも僕真剣なんや。だから剣ちゃんも真剣に考えてや」

「か・・考えるって・・・何を?」

やっと言葉を発する事が出来た剣八がギンに問う。

「何って、そんなん決まっとるやん!僕と付き合うって事やよ!」

「なっ、だ、誰がてめぇと付き合うんだ!そんなの考えるまでも無いわ!!!」

やっと自分を取り戻してきた剣八がギンに怒鳴り返す。

しかし、さっきの真剣な告白が嘘のように何時ものへらへらとした笑顔に戻ったギンは、剣八の怒りなど全く意に介さず、言いたい事だけを言って立ち去った。

「そのうち返事聞きに来るからそのときはちゃんと答えてや〜〜〜」

「こら待て市丸!俺はお前となんか付きあわねぇぞ!ふざけんじゃねえぇ!!」

既にギンが立ち去った後に剣八の叫びだけが虚しく響いた・・・。



それから4日。
毎日五月蝿いくらいに顔を出しては剣八の邪魔をしていたギンがピタッと来なくなった。居たらいたで鬱陶しくて腹が立つのに、居ないとなると変に静かで落ち着かない気分になる。

ギンが側に居ることに慣れきってしまい、居ない事に寂しさを感じてる自分に更に剣八は愕然とする。

考えないようにしているつもりが反対に強く意識してしまっている。ギンのことなどなんとも思っていない筈なのに、その筈なのに・・・・。

剣八の苛立ちは段々と増し、その余波は十一番隊を中心にして日毎に被害者を増やしながら周囲に拡大していった。


まず、霊圧に中てられて倒れるものが続出し、剣八の周りには次第に五席以上の者達しか近寄れなくなった。

普段は賑やかな十一番隊隊舎内は日に日に人が居なくなり、他隊の者達は勿論、十一番隊の隊員でさえ一歩も隊舎内には入れなくなった。

剣八が隊長室に籠もって仕事をしているのは見せ掛けだけで実は少しも捗っていない事は直ぐに全員の知る所となり、事務作業にも支障をきたすようになって行った。

唯一剣八に対して何の恐れも無く近くに居るやちるは、こんな時の剣八には何を言っても無駄というか、火に油を注ぐようなものだと分かっているので、この状態をただ静観していた。

頼みの綱の副隊長が匙を投げている限り十一番隊に平和は来ない。
10日を過ぎる頃死神達の疲労はピークに達しようとしていた。




ギンに一方的な告白をされてから11日目。
剣八は日毎にギンの事を考えてる時間が長くなっていく自分に戸惑っていた。

自分はあのキツネ男の事が好きなんだろうか?いやいや、そんな筈は無い!嫌いな奴にいきなり告白されてムカついてるから色々考えてしまうんだ!そうだ、そもそもあいつが自分に変な薬かなんかを気付かないうちに飲ませて始終あいつの事を考えるように洗脳したんだ!等々、下らない考えまで浮かんで来る始末。

一体自分はどうしてしまったんだと途方に暮れ、いい加減考える事に嫌気が差してきた剣八だった。
そんな事を考えていた剣八のもとにひょっこりとギンが顔を出した。




「剣八っちゃ〜ん!久しぶり!元気やった?」

隊長室の窓の外から進入したギンは、剣八の気も知らぬ気に11日前と変わらないふざけた笑みを浮かべていた。
いきなり現れた自分に対してなんのリアクションも起こさない剣八を不審に思い、ギンは剣八の顔を覗き込むように見つめた。
びっくりしたのとも違う、何だか今にも泣きそうな頼りなげな表情の剣八に驚き、ギンは我知らず手を伸ばし剣八を自分の腕の中に引き寄せ抱きしめていた。



ギンに抱きしめられながら、その腕を振り払おうとしない自分に剣八は驚いた。ギンに会ったら、この10日余りの間自分がいかに不快な思いをしながら過ごしたかを暴力をもって訴えようとしていたのに、ギンの顔を見た途端に思わずほっと安堵してしまったのだ。

たったの10日だ。会わなかったのは。

長い時間では無いはず。なのにまるで何年も会っていなかったような不安が一気に解消された、そんな安心感を得てしまった・・・・。

どんなに鈍い自分でもなんとなく理解した。ギンが好きなのだと。
そんな筈は無いと反発する自分と納得する自分。悔しい気持ちと嬉しい気持ち。様々な思いが混ざり合って、自分でもどれが本当の気持ちなのか分からなくなる。でも、それでもこの腕を受け入れてる自分がいる・・・。そう云う事なんだろう。

もうなんでも良かった。このイライラが治まるのなら。ただ、「好き」とは面と向かって言えない。そんな恥ずかしい真似が出来るわけが無い。



「剣ちゃん、ボクと付きおうてくれる?」

「・・・・・・・・・・・・」

「剣ちゃん?」

「・・・・・・・・・・・・」

「嫌なんやん?」

「・・・・・・・・・・・・」

「剣八?」



何を言っても無言のままの剣八に苦笑がもれる。嫌がっている筈が無い。嫌ならば大人しく抱きしめられたままじっとしているような剣八ではない。恥ずかしがっているだけなのだと分かる。でも、何年も待っていたギンは、このまま済ます気は更々無かった。何がなんでも剣八に「好き」と言わせるまで何度でも同じ質問をするつもりだ。

幸い時間なら幾らでもある。気の長い方ではないが剣八が恥ずかしがってるのを見るのも楽しいので問題は無い。
それに、案外素直な剣八がそう待つまでもなく告白してくるのはそんなに先の事ではないだろう。



ギンの腕の中で顔を赤くしながら剣八は焦っていた。どうやったらこの危機から逃れる事が出来るのか。しつこいギンの事、きっと自分が言葉を口にするまで諦めずに何度でも聞いてくるだろう。その度に恥ずかしい思いをするのは自分なのだ。理不尽な事態に剣八は唸る。いつまでギンの攻撃をかわすことが出来るのか。

一つ悩みが解消したと思ったらまた直ぐに頭痛の種が発生する。安息の日々が二度とこない事を剣八は悟った。









                     END









ギン剣SS第4弾です。
相変わらず剣八が乙女で別人です(涙)
こんなの剣八じゃなーーーーい!!!
と叫びながら書いてる自分が情けないです・・・・。
他所様のサイトの格好良くも可愛らしく、
且つエロい剣八が私には書けません(>_<)
どうしたら良いのでしょうか?って聞かれても困りますよね;;;
自分が何処に行きたいのか全く分かりません。
目指してるものがあまりにも私にとっては高すぎて手が届きません!
毎回ほざいてますが今回も言わせて下さい。
精進して出直してきます・・・・。

2004.10.8