いつでも一緒









「隊長ーーーー!市丸隊長ーーーーー!!」

「何処に居るんですかーーーーーーー???」

「早く戻って頂かないと、今日もまた仕事が終わりませんよーーーーー!!!」


今日も今日とて瀞霊廷に三番隊副隊長吉良イヅルの叫び声が木霊する。
ほぼ日課となっているこの悲痛な叫びに、他隊の死神達、特に副隊長達の同情が集る。


またか・・・・・。吉良の奴可哀想に・・。
うちの隊長も怖くて扱い辛いけど、市丸隊長よりはマシだよな・・・。
うちの隊長は普段から真面目に仕事してくれるから助かるわ。
セクハラとお酒さえ飲まなきゃ良いのに。
何考えてるのか良く分からんが、仕事は普通にやってくれるよな。
等々、誰が誰のことを言っているのかはともかく、イヅルの哀れな様子を見るたびに皆自分が多少なりとも恵まれている事を実感する。
つくづく三番隊に配属されなくて良かった・・と。


周囲の哀れみの視線を浴びながらも、ギンを探し続けるイヅルの目的地は何時も決まっている。
十一番隊隊舎。
その中でも特に隊首室は市丸ギン出没スポット筆頭の座を堂々と維持している。


目的地が決まっているならば、そこに行き着くまで叫ばなくても良いのに。
誰もがそう思うが、もしかしたら今日は違う所に居るかもしれないという淡い期待から、どうしても叫ばずにはいられないのである。
吉良イヅル。ますます哀れな男である。


一方、副隊長の苦労も省みず、我が道を行く男、市丸ギン。
彼はイヅルの期待も空しく十一番隊隊首室には居らず、部屋はもぬけの殻。
主である更木剣八さえも姿を消していた。
では何処に?


灯台下暗し。
当然のように二人は一緒に居た。
しかも三番隊隊首室に・・・・。
イヅルの隙を突いて執務室を抜け出した後、ギンは一目散に剣八の元へとやって来て、抵抗する剣八を慣れた手つきで無理やり簀巻きにして外に連れ出した。
そしてのうのうと自分の執務室へと戻ったのだ。
たまに使う手だが頻度は多くないため、イヅルが気付いて戻ってくるまでには相当時間が掛かるだろう。


市丸ギン。
自分の楽しみのためならばどんな手順も面倒がらずに実行する男。
普段の仕事にこれくらい熱心に取り組んでくれたらイズルの苦労は大幅に削減されるだろうに。






「おいっ市丸!いい加減にどけっっ!!」

「いややぁ〜〜」

のほほ〜〜んとしたギンの返事にキレそうになる。
というかもう既にキレている・・・・。
何でこの男はいつも自分の嫌がる事ばかりするのだろう。
毎度お馴染みの感想を抱きながら、剣八は市丸を自分の膝から振り落とそうとする。
膝・・・?そう、膝。


三番隊隊首室控えの間。
そこでは誰にも見せられない。
いや、剣八にしてみれば絶対に見られたくない光景が広がっていた。


畳敷きの控えの間に無理やり座らされた剣八。
しかも正座ではなく足を揃えて伸ばしている状態だ。
その太腿に頭を乗せて寝っ転がるギン。
そう、一般的にいうところの膝枕である。


強面で知られた更木剣八が女のように膝枕をしているなど、実際に見た者でも俄かには信じられず自分の目を疑うだろう。
剣八だって信じたくない・・・。
この自分が女がするようにギンの頭を膝に乗せ大人しくしているなど言語道断!もってのほか。
一刻も早くこの状態から抜け出さなければと焦る・・・。
しかし、抵抗を封じ込めるために後ろ手に縛られているためなかなか思うように行かない。
さらに足を伸ばしている状態では力が入らず、ギン相手では上手くかわしきれなくて、先程から思うように行かない剣八のイライラは募る。


「嫌じゃねえっ!!いつまでもふざけてんじゃねえぞ市丸!さっさとどかねえか!!!」


怒鳴るのと同時になんとか立ち上がろうとする剣八の脇腹を撫で上げてるギン。


「ぅをっっ」


その途端に力が抜けたように奇声を上げへなへなと屑折れる剣八。
先程から剣八が立とうとするとギンが脇腹を撫で上げ、力の抜けた剣八がへたり込む。この動作が延々と繰り返されている。
何故ならば・・・、脇腹は剣八の性感帯。
少し触られただけでもぞくっと感じてしまい鳥肌が立つのだ。
剣八の身体の事なら本人よりも熟知しているギンにとっては御しやすい事この上ない。


「剣八っちゃ〜ん。たまにはボクの言う事おとなしゅう聞いてやー」

「何がたまにはだっ!てめぇはいつだって好き勝手してるじゃねぇか!」

「そんな事あらへんよ?ボクはいつでも剣八っちゃんが本当に嫌がることはしてへんもん」

「嘘つけ。いつだって俺が嫌がることばかりしやがるくせにどの口がそんな戯言ほざいてんだっ!!!」

「だって、ほんまにいやなら本気だせば逃げられるやろ?」

「・・・・うっ・・・そ・・それはてめえがいつだって逃げられないようにしてるからじゃねぇか・・・」

「嘘やね。ボクはそんな事してへん。逃げへんのは剣八っちゃんの意思や」

「違うぞっ;;;絶対に違う!変な事言うんじゃねえ・・!」

「えーーだってほんまの事やもん。剣八っちゃんはボクの事が大好きで、だから本気で逃げださへんのや。絶対やvv」

「・・ちっ違う・・ぜってぇに違う!!!」

「ちがわへんよ。現に今かて逃げへんやんv」






「見つけましたよ・・・・」


他人から見たら痴話喧嘩にしか聞こえない会話を交わしていた二人の頭の上からおどろおどろしい声が聞こえた。
その声の出所は、勿論三番隊副隊長吉良イズル。
散々探し回った挙句にとうとう見つけられず、疲れ果てた末に戻ってきたイズルが目にしたものは先程から延々と続けられていたバカップルの如き聞くに堪えない言い争いと、我が目を疑ったほどの恐ろしい光景・・・。
実際に目にしてもまだ信じられない。剣八が拘束されて膝枕をしているなどとは・・・。


見られたことに驚愕とし恥ずかしい思いをしているのは剣八だけで、ギン一人が平然とし、この至福の時間を邪魔したイヅルに文句を言っている。


「イヅル、気の利かん子ぉやなぁ。もっと二人にしといてやー」

「なっ!てめっ何言ってん・・・・」

「何言ってんですか!仕事中に逃げ回ってたくせに、堂々と文句言わないで下さい!!!」


我が目を疑う光景の衝撃から立ち直ったイヅルが、剣八の叫びを飲み込む勢いでギンに反論する。
昔はギンに対してこんな口を聞く事など考えられなかったイヅルだが、何十年もギンの下で副官をしていれば自然と逞しくなる。
最近ではギンに対し遠慮のない言葉を使うようになっていた。
それはそうだろう、甘い顔をしていればいくらでもつけあがるギンである。
イヅルの堪忍袋の尾はとうの昔に切れている。


「二人ともいい加減にして下さい。仲が良いのは結構ですが、周りに迷惑を掛けるのは止めてください。更木隊長も、うちの隊長に付き合って馬鹿な事するの止めてくださいね」

「!!!!!」


あまりに情けない叱責に剣八の受けた精神的打撃は相当なものだ。言い返す言葉もなく顔を真っ赤にしている。
今後、絶対にギンの言いなりになるのは止めようと固く決心する剣八だった。





が、何日も経たないうちにその誓いは破られ、また同じような光景が見られたことは言うまでもないだろう。


「市丸隊長ーーー!何処に居るんですかーーー???」





今日も一部の死神の不幸を飲み込み、瀞霊廷は平和だった。









                     END









ギン剣SS第5弾。
白一の連載抱えてるってのに、
何こんな単発もの書いてるんでしょう私・・・(汗)
いや、以前書きかけて放置していたものを
この間のアニメの新EDの十一番隊バージョンを見て、
急に剣八っちゃん書きたくなっちゃたんですよ;;;
こんな場合ではないんですけどね・・・思い立っちゃったもんは仕方ない!
開き直った私を許してくださっ・・・・;;;

2005.4.26