幼年時
私の上に降る雪は
真綿のやうでありました

少年時
私の上に降る雪は
霙(みぞれ)のやうでありました

十七−十九
私の上に降る雪は
霰(あられ)のやうに散りました

二十−二十二
私の上に降る雪は
雹(ひょう)であるかと思はれた

二十三
私の上に降る雪は
ひどい吹雪とみえました

二十四
私の上に降る雪は
いとしめやかになりました……









先日までの暖かさが嘘のように冷え込んだ日。
夜になって気温はますます下がり、空座町に珍しく雪が降った。


吹雪くわけでもなく何時までも降り止まない雪が空から舞い落ちる。
”しんしんと降る”という形容詞がよく似合う隙間なく降る雪が、
一護が見つめる窓の外で視界を奪うほどに舞っている。
きっと明日の朝にはかなりの積雪になっていることだろう。


今日は白哉が週一回の尸魂界帰りの日だった。
朝早くに出掛けたのにまだ帰って来ない。
何時もなら遅くても10時頃には戻ってくるのに、
今日に限って11時を過ぎても戻ってくる気配が無い。


白哉が戻って来ないからといって、
一護がいつも待っているわけではない。
ただ、今日は特別の日だから・・・・・・。
窓の外を見つめる一護の目は降り積もる雪すら映さず、
ただ一心にその先にあるものを見ようとしていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・白哉を。


「何で帰って来ないんだよ・・・・」


こんなにも待っているのに帰ってこない白哉に、
怒りよりも悲しみが湧き起こり、つい気持ちが口からこぼれる。
その声は弱々しく覇気がない。


今日以外の日なら何時に帰ってこようと文句はない。
しかし、今日という日は絶対に帰ってきてくれないと困る。
一護にも一護の都合というものがあるのだ。








「遅くなってすまない。今戻った」

12時まであと15分を切った頃、
一護が見つめる先にふわりと白哉が現れ声をかける。
何時もながらの何の前触れも無い出現に驚き、一瞬一護の反応が遅れる。


「一護?」

「あ・・あぁ、お帰り。今日は遅かったんだな」

「ああ、隊首会が長引いた上に、なにやら決済しなければならない書類がやけに多かったのだ。私の手を煩わせた恋次にはきつく仕置きをしておいた」


薄っすらと笑みを浮かべながら語る白哉が怖い。
隊長の決済書類が多いのは恋次のせいでは無いだろう・・・・気の毒に。
そう思いながらも今日一護にはもっと重要な事があったので、その件は掘り下げずに流す事に決めた。


急いでいるといいつつ、一護はぼーっっと白哉を見つめてしまう。
何故なら、今の白哉は義骸では無く霊体のため、
死神の姿をしていたから。
久々に見る白哉の死覇装姿に一護はつい見惚れてしまう。
惚れた欲目ではなく、白哉には現世での洋服姿より、白い羽織を纏った死神姿の方が断然似合う。


いかんいかんと気を取り直して一護は改めて白哉に向き直る。
こんな事で時間を潰している暇は無い。
もう時間は12時まであと10分も無いのだから・・・。





「兄っ・・白哉」

「何だ?」

「うん、あの・・さ・・・・」

「・・・・・誕生日おめでとう」


頬を染め、やっと白哉に聞こえるくらいの小さな声で祝いの言葉を口にした一護が、白哉の死覇装の袂を握り締め自ら口づけをする。
ふわりとした軽い口づけだったが、
一護が自分から白哉に口づけるのは初めてだった。
唇が離れた後、恥ずかしいのか、一護は白哉の胸に顔を埋めてしまう。
耳まで真っ赤になって照れている一護に愛しさが込み上げる。


今日が1月31日であることを白哉はようやく思い出す。


「そうか、今日は私の生まれた日だったな」


一護以外見たことは絶対に無いだろう優しい顔をした白哉が、
しがみ付く一護の腰に腕を回し抱き締めながら囁く。
こくん、と微かに肯きながら更に一護がギュッとしがみ付く。


「祝う為にずっと待っていてくれたのか?」

「うん・・・」

「そうか」

「今日は俺達が出会ってから初めての白哉の誕生日だから、どうしてもおめでとうって言いたかったんだ」

「そうか」

「俺の誕生日の時は白哉が言ってくれただろ?その時凄く嬉しかったんだ。だから白哉の誕生日には絶対俺も言おうって決めてたんだ。間に合って良かった」

「そうか」



『そうか』しか口にしない白哉が、心から喜んでくれているのが分かり、
一護は涙が出そうになる。
この先何年一緒に居られるのか分からないが、
自分が死ぬまでずっとずっと白哉と居たいと思った。


死神である白哉と人間の一護。
自ずと二人で居られる時間は限られてくる。
それでも・・・。
白哉にとって一瞬のような時間でも、
一緒に過ごした一護という人間が居た事を覚えていてくれたら嬉しい・・・・。


どんなに降り積もったとしても、いずれは消えてなくなってしまう雪のように淡い時間だけども、
きっと降り積もる瞬間の美しく儚い雪の姿は心に刻まれるだろうと信じて。



「一護」


震えるようにしがみ付く一護に声をかけ、その顎に手を掛け上向かせる。
今にも泣きそうな顔をした一護が白哉を見つめる。
笑みを深くした白哉が一護に口付ける。
唇を合わせた瞬間は優しかったのに、それは直ぐに貪るような深く荒々しい口づけに変わった。


突然の口づけにも拘らず、一護は待っていたと言わんばかりに、直ぐに白哉に応え舌を絡ませる。
お互いの口中を舌が行ったり来たりしながら、時には唇に噛みつくような激しさで何度も角度を変えながら行なわれる行為に、一護の口端からは飲み込みきれなかったどちらの物とも分からない唾液が零れ落ちる。


「ふっ・・・うぅ・・・うん・・・はぁ」

「あ・・ぁ・・・びゃ・・く・ぅっ・・」

「・・・うぐっ・・・・うぅ・・・」


あまりにも激しい口づけに一護の息が乱れる。
それでも止めたいとは思わなかった。白哉の口づけが欲しかった。
立っていられなくなった一護の膝がくだける。
直ぐに白哉が強く引き寄せ一護を支える。
離すつもりは無い。今も、これからも。


口づけの合間に白哉が囁く。


「愛している」

「お前は私のものだ」

「一生側に居るんだ」


唇が離れる少しの間に囁かれる言葉に、
一護は意識が朦朧としながら何度も肯く。
泣きそうだった瞳からは、呼吸できない事による苦しさと囁かれる言葉の嬉しさによる涙が零れており、白哉の死覇装を濡らしている。




来年も再来年も、
そして・・・50年先も100年先も、一緒に誕生日を迎えられたら良い。

長く・・・長く・・。

どうか出来るだけ永く・・・・・。








私の上に降る雪は
花びらのやうに降つてきます
薪の燃える音もして
凍るみ空の黝(くろ)む頃

私の上に降る雪は
いとなよびかになつかしく
手を差伸べて降りました

私の上に降る雪は
熱い額に落ちもくる
涙のやうでありました

私の上に降る雪に
いとねんごろに感謝して、神様に
長生したいと祈りました

私の上に降る雪は
いと貞潔でありました









END



兄様お誕生日おめでとう駄文vv
本当はちゃんと31日にUPしたかったんですが、
なんせ一日がかりでサイト改装してたもんで余裕が無くなった;;;
この話は最近各地で雪が凄く降ってるというニュースをよく聞いていたので、何となく思いつきました。大雪で大変な思いをしている方は多いのでしょうが、私は雪大好きです☆勿論生活に支障が出てないから言える事かもしれませんが・・・。
駄文の頭と最後に引用した詩は、中原中也の「生い立ちの歌」です。
私の大好きな詩の一つです。もう一つ北原白秋の「雪に立つ竹」とどっちにしようか悩んだんですが、色気があるという点で結局こちらを選びました。
誰でも一度は聞いたことがあるような有名な詩を引用するなんてちょっとおこがましかったかも;;;;どうか、寛大な心でお許しを!!!

2005.2.3