夏の日













「一護」

「うわっ!なっ、びゃ白哉!?」

「何を驚いている」


思わず飛び退り奇声を上げる一護に白哉の疑問の声が掛けられる。


相変わらずの白哉にため息をつきながら、
そりゃショッピングセンターで買い物中に突然現れ声を掛けられれば誰だって驚くだろう。
と、思わず一護は心の中で突っ込みを入れる。
とはいえ、白哉と付き合っているとこんな事は日常茶飯事で、反論しても無駄なので最近は諦めている一護だった。


一人百面相をしている一護を一緒に買い物をしていた水色と啓吾が不思議そうに見ている。
それはそうだろう。
ショッピングセンターの通路を歩いていたのに、天井に向かって急に驚きの声を上げたり、
急に押し黙ってしまったりすれば大抵の人間は疑問に思うものだ。


こんな時は、白哉の姿が一般人には見えないのが良いんだか悪いんだか良く分からなくなってくる。
いや、勿論死覇装を来た死神など見えないほうが良いに決まっているのだが・・・。
それによって変人奇人扱いされる一護としては胸中複雑だ。
出来れば、来る時は誰も居ないのを見計らって来て欲しいと思うのは当然だろう。
そんな当然の願いも、相手が朽木白哉では空しいばかり。
何事もマイペースというか自己中心といおうか、
兎に角他人の都合など知ったこっちゃ無いのである。
諦めるより仕方ないのが一護の現実である。





「一護?」

「一護どうしたんだ?白哉って何なんだ?」


一護の一人百面相を薄気味悪い思いで見ていた水色と啓吾が、それでも心配し声をかける。
そんな彼らに悪いとは思いつつ、本当のことなど言えるわけが無い。
急用があったのを忘れていた、などという出来の悪い嘘をついてその場を去るしかない一護だった。
明日になったらきちんと謝ろう。









「なんだよ白哉。この間来たばっかりなのに今日はどうしたんだ?」


自宅近くの川原に移動して誰も居ないことを確認しながらやっと一護が白哉に疑問を投げかける。
白哉に会うのは二週間ぶりくらいだろうか。
いつもなら二ヶ月以上会えないこともざらなので、この訪問は短く感じる。
それでも、嬉しいと素直に言えず、心にもない事を言ってしまうのは何時ものこと。
まあ、白哉が相手ではその強がりも全く意に介されないのだが・・。


「忘れているのか?」

「何を?」

「やはり忘れているのだな」


軽いため息をつきながら白哉が呆れたように一護を見る。
やけに思わせぶりな白哉の口から告げられたのは、一護にとって思いもかけないものだった。


「今日はお前の誕生日であろう。自分の生まれた日も覚えていないのか?」

「?????」


あまりにも意外な言葉に一護は絶句する。
何故なら、白哉の口から誕生日などという言葉が聞けるとは思わなかったから。・・・ではない。
まあ、それも多少はあるが。
それよりも驚いたのは、今日が白哉が言うような一護の誕生日ではないからだ。


今日は8月19日。
一護の誕生日は一ヶ月以上前に過ぎている。
それなのに白哉は今日が一護の誕生日だという。
何故だろう?


「俺の誕生日?」

「そうだ、今日は7月15日であろう。お前の誕生日は今日の筈だ」

「確かに俺の誕生日は7月15日だけど・・・。今日は8月19日だぞ?誕生日は一ヶ月以上前に過ぎてるんだけど・・・」

「そんな筈は無い。私は暦を確かめてやって来たのだからな」

「いや、そんな筈は無いとか言われても・・本当に今日は8月19日な・・んだ・・・・け・・ど・・・」


最初の自信たっぷりの表情が徐々に強張っていく白哉に、一護の声が段々と力を無くしていく。
ただ正しい日付を告げているだけなのに、白哉の愕然とした表情を見ていたら、
何故かもの凄く酷いことを言ってるような気になってきてしまったのだ。





去年の誕生日は尸魂界へ殴り込むための準備に忙しくそれどころではなかったが、
今年は家族や友達に祝いの言葉を貰い穏やかに過ごした。
女ではないから、忙しい白哉が来てくれなくても特に不満に思うことも無かった。
ただ、あれから一年経ったんだなと感慨深かったのは確かだ。
自分の人生はあの事がきっかけで大きく変わった。


まあそれはいいとして、今は目の前の白哉だ。
一護の言っていることがどうやら本当らしいと理解するにつれ、珍しいことに心なしか落ち込んでいるのか、項垂れている。
珍しい白哉に一護は戸惑い、かける言葉も無く途方に暮れていたが、不意にある可能性に気づいた。


「-------なあ。もしかして尸魂界って旧暦を使ってないか?」

「・・・旧暦?」


項垂れていた白哉が一護の言葉に顔を上げながら疑問符を浮かべる。


「そう、旧暦。俺の居る現世では新暦。太陽暦を使ってるけど、もしかして尸魂界は旧暦。太陰暦を使ってるんじゃないか?」

「言っている意味が良く分からないが、尸魂界では一つの暦しかない。その暦では今日は7月15日なのだ。それは間違いない」

「ならやっぱり、暦が違うんだよ。それなら納得がいく。俺も詳しくは知らないけど、確か旧暦と新暦とは一ヶ月くらい差が出る筈なんだ。だから、今日はこっちでは8月だけど、あっちでは7月なんだろうよ。だから白哉は間違ってないと思うぜ」

「そうなのか・・・?」

「おう。絶対そうだ」

「・・・そうか。よく分からぬがお前がそういうのならそうなのだろう。すまぬな一護。初めての誕生日に祝いの言葉もやれずに気づかぬまま過ぎてしまった」


常に無くしおらしい白哉に一護は焦る。
強引で自己中で人の言うことなど殆ど聞かない白哉のこんな様子は初めてで、どうしたらよいのか分からない。
というか少し怖い・・・・。


「びゃっ・・白哉。あのさ、誕生日祝いに来てくれたんだろう。ぁっ・・ありがとうな;;;」


いざ白哉を目の前にして真剣に礼を言うのはもの凄く恥ずかしかった。
それでも、やはり言わなければならないだろう。
勘違いしたとはいえ、当日に祝おうと思って忙しい中現世に来てくれたのだ。


「ああ。おめでとう。お前が生まれたことを心から嬉しく思う。また、お前を生み出してくれたご両親には多大なる感謝を捧げよう」

「白哉・・・」

「これは、ささやかだが祝いの品だ」


言葉とともに白哉が差し出したのは白絹の着物が一反。
受け取る一護の胸中は複雑だ。
これを一体どうしたら良いというのか。
浴衣ならまだしも着物。
しかも真っ白な地に金糸で刺繍が施された豪華なものだ。
まるで花嫁衣裳のような・・・。


現世に居る限り一護がこの着物を着ることは無いだろう。
やはりどこかずれている白哉に感謝しつつも顔が引きつるのを止められない。
そんな一護を責めることは誰にも出来ないだろう。


顛末は兎も角、16年目の誕生日は忘れられないものになった。
たとえ日にちがずれていようと、プレゼントが奇妙でも、そんなものはどうでも(多少の問題はあるが)いい。
肝心なのは気持ちだ。
誰よりも大切な人に祝ってもらうのがこんなに嬉しいものだとは思わなかった。
家族で祝うのとはまた違う気持ちに一護の顔は赤く染まり胸は鼓動を早くする。


あらためて礼を言おうと、一護は口を開く。


「白哉・・・。ほんとにありがとうな・・」

「ところで、こちらの暦を貰えまいか」

「はっ?」


折角一護が礼を言っているのに、既に耳には入っておらず、自分の思いつきに夢中になり、一護の言葉を遮る白哉。


「暦だ。お前が普段使っている暦を私に一部譲ってくれ」

「何で?」

「現世と尸魂界でこんなにも暦に差があってはこれからの予定に支障が出る。今回のようなことが度々あっては困るのだ」

「はぁ・・・」

「はぁでは無い。早く用意してくれ。それとも直ぐには用意できないものなのか?」

「いや、そんなことは無いけど。俺んちに行くか何処かで買わないと」

「ではお前の家でよい。行くぞ」


一護の都合などお構いなく、
いつもどおりの白哉に戻り一護を振り回す。
誕生日の嬉しさの余韻を感じる間もないこの展開に、一護の想いも中に浮いてしまった。
一瞬しおらしくなったのは幻だったんだろうか・・・。
っていうか、これからの予定って何だ?
素朴な疑問も白哉の押しの強さに蹴飛ばされ、ただ流される一護。


結局、急かされるように家に戻った一護が、部屋に貼ってあったカレンダーを白哉に渡したのは、それからたったの3分後だった。


まんまと現世のカレンダーをせしめた白哉が、忙しいのも何のそのとばかりに、
何かにつけ一護の元へとやって来るようになったのは言うまでも無い。











END











去年マニ☆フェス様に投稿した一護お誕生日おめでとう駄文です。
1年経ってお祭りも終了していることもあり、今回丁度良いので一緒にUPしてしまいました。
一部言い回しや句読点などの手直しをしましたが、内容は殆んど変化ありません。
それにしても、1年って早いですね〜(苦笑)
まだまだBLEACHへの愛は溢れていますが、創作が追いつきません;;;
駄目ですね(>_<)

2005.8.10初稿
2006.7.15改稿