Birth













そこは、何もかもが真っ白だった。
空も海も山も家も車もビルも木も花も、あるべき物は全てあるのに、
人さえもがその色をなくし、只々白かった。


あまりの白さに輪郭がぼやけ、形を無くしかけている。
全てが混ざり合い、見分けがつかなくなって来る世界。
暗闇のように何も見えないのとは違い、
全てが見えるのに全てがぼやけている真っ白な世界。
影さえもが存在しない。


清浄の象徴のような”純白”。
それが、こんなにも恐怖を覚える色だったなんて・・・。
まさにそこは白い闇の世界だった。






その世界に只一人立ち尽くす一護は、
自分が何故ここにいるのか理解できなかった。


いつからここに居るのか。
いつまでここに居なければならないのか。
いつの間にか自分さえもが色をなくし、同化していくように感じる。


かろうじて人の形をした人間と思しき存在に、恐る恐る声を掛けるが、
彼らは一様に押し黙り、ピクリとも動かない。
人間のように見えて人間ではないのだろう。
また、話しかける自分の声も認識できない。


不意に、白い闇に押し潰されそうな恐怖が一護を襲う。
自分ひとりがこの世界に放り出され、いつしか飲み込まれてしまう。
それは、戦っている時とはまったく異質な、心が凍結しそうなほどの恐怖だった。










声にならない悲鳴を上げて、恥も外聞も無く一護は走り出す。
目的は無い。そもそも自分の居場所が分からないのだ。
目的地などあるはずが無い。
それでも一護は走った。


何処に?
何処でも良い。
兎に角立ち止まっていることに耐えられなかった。
救いが見出せない白い世界で闇雲に走る。
その先には何があるのか。
もしくは果てしなくこの白い闇が続いているのか・・・・。






誰か!
誰か!!!
居る筈もない誰かに向かって必死に叫ぶ。
誰?自分は誰を呼んでいるのだろうか?
縋れる者がこの世界にあるのだろうか?





何時間走ったのか。
それとも何日走ったのか。
時間の感覚が一切無くなって、段々と自分という存在が希薄になってくる。


自分は誰なのか。
本当に黒崎一護なのか?
それとも他の誰かなのか・・・。
既に、この白い世界の一部になってしまっているのではないだろうか。





足が止まる。
走っていても無駄なのだ。
この白闇から逃れるすべはない。
誰も助けには来てくれないし、抜け出せない。
黒崎一護という人間はもう居ない。
大人しくここで朽ちるしかない。
絶望が一護を飲み込む。




















どのくらい立ち尽くしたままでいたのか分からなくなった頃、
不意に一護の心に震えが走った。
何かは分からないが、心の奥深くに閉じこもっていた
一護の意識を浮上させる力を持ったそれ。


何だろう?
ぼんやりとした頭で一護は原因を探ってみる。
しかし、あまりにも微かなものだったために、はっきりと捉える事が出来ない。


希望というには頼りないそれ。
それでもこの世界を抜け出せる唯一の細い蜘蛛の糸。
次第にはっきりしてきた一護の魂が叫ぶ。
どうかもう一度!


何かもわからないそれに向かって一護は叫ぶ。
否。
叫んでいると思っていても全く声は響かない。
この世界では音さえも色をなくすのか。





一護の願いが届いたのか、再び一護の心がに震えがはしる。
確かに何かが一護に呼びかけている。


何処から?


何が?


誰が?


誰がっっ!!










『・・・・・っ』




「!!!」





さっきよりもはっきりと聞こえる声。


そう、声だった。


誰の声?


わからない。






『・・・っご!』








『い・・ちごっ!』




『一護!!!』









「びゃ・・・くや・・?」













それまで何も無かった一護の心に光が射し、純白だった世界に音が戻った。







白哉。そう白哉。
光の正体は彼だった。
自分は彼を呼び求めていた。
どうして忘れられていたのか。
誰よりも何よりも大切な存在。
無我夢中で一護は彼の人の名を叫ぶ。


「白哉!白哉!」


「一護!」


滅多に動揺することのない白哉の声には、切迫した響きが感じられる。
これは本当に、現実の白哉の声なのか。
それとも、一護の心が生み出した幻想の声なのか・・・。


幻想でも良い。
今、一護が正気を保っていられるのはこの声があるからなのだ。
でも、もし本当に現実の白哉の声ならば、何処から聞こえてくるのだろうか。
声は聞こえるのに姿は見えない。
それでも、止まっていた一護の足が動き出す。
白哉のもとへと。


最早、一護に迷いや不安、恐怖は無かった。
あるのは前に進む強い意思のみ。


その途端。
色の無かった世界に一瞬にして色が戻り、確かだったはずの足元が崩れ、
白かった世界とは一転して足元には漆黒の暗闇が口を開けていた。


あっと思った時には既に遅く、一護は足元からまっ逆さまに落ちた。
底の無い暗闇に落ちていきながら一護の意識は失われた。

















意識を失ったと思った次の瞬間。
一護の意識は急速に現実へと引き戻されていた。
目の前には白哉の顔。
秀麗な顔に僅かながら焦りと疲労の表情が垣間見える。
普段目にすることの無い白哉の様子に一護は驚く。





突然の展開に一護の頭は混乱し、現状が把握できない。
何故白哉が目の前に居るのか。
自分は今何処に居るのか。
あの白い世界はなんだったのか。


そんな一護の混乱を理解したのか、
一護が無事なことを確認した白哉が、やっとのことで口を開く。


「大丈夫か?」

「?」


何が大丈夫なのか。
自分は一体どうしたのか。
いまだ混乱の中にある一護は白哉の問いに反応よく返せない。


「ここは・・」

「お前の家だ」

「俺んち?でも何で白哉が・・・・」

「意識の無いお前を放っておく事は出来なかったからだ。
安心しろ。お前の家族には我らが見えないように結界を張ってある」


何のために結界まで張って白哉が現世の一護の自宅に居るのか。
白哉がそこまでするほどの事態が自分の身に起きていたのか。
それら全ては白哉が知っている。


「丸一日お前の意識はここには無かった」

「ここには無かった?」

「そうだ」

「どういう・・・」

「言葉通り。お前の肉体に魂魄が存在しなかったのだ・・・」


意識を失っていたのではなく、存在しなかったと白哉は言っている。
だとしたら自分の意識は何処にあったのか。
あの白い世界か?
でも、何故そんなところに自分はいたのだろうか。
あの世界は夢ではなく現実に存在したのだろうか。
様々な疑問が一護の脳裏を駆け巡る。












「お前が居たのは虚が造った虚構世界だ」

「虚が造る?世界を?」

「そうだ。現世において我等を500年の長きに亘り退けてきた虚。
既に大虚に限りなく近い存在になっている。こやつは滅多に現世には出てこず、
普段は虚圏において力をため、数年から数十年に一度現世に顔を出すのだ。
そのためにこちらでも積極的な対策が取れず今まで幾人もの死神たちが
奴の犠牲となってきた」

「でも、俺そんな虚には出会ってないぞ」

「覚えていないだけだ。奴の能力はどのようにしてかは不明だが、
出会った死神や人間の魂魄を自分の世界に取り込み、
絶望し消え失せていく魂魄を食べる事なのだ。その副産物として、
取り込まれた者は奴と遭遇した際の記憶を失ってしまう。
恐らく逃げられた時の保険なのだろう。取り込みに失敗し、逃げられたとしても
自分の存在を覚えていなければ、追っ手が来ることは無いのだからな」

「今までに戻ってきた奴は・・・」

「お前を含めほんの数人だ。しかも殆どの者が魂魄が破壊され、
自我を正常に保っていたられた者はいなかった。時折うわごとのように何か
訳の分からないことを喚いたり逃げ惑ったりする者を何度か見かけた」

「そっか・・・・・。じゃあ・・何で俺は・・・」


何で自分は・・・。
その虚と遭遇して無事だったのは自分だけだと白哉はいうが、
では、彼らと自分との結果の差は何だったのだろう。
白哉が虚を倒し、救ってくれたのだろうか。


「白哉が助けくれたのか?」

「いや、私は何もしていない。ただ、お前の名を呼ぶことしか出来なかった・・・」


そう語る白哉の声には苦い響きがある。
また、その表情にも深い苦悩が表れている。
どんなに霊圧が高くても、貴族であっても、隊長格でも、
そんなものは全く何の役にも立たなかった。
ただ自分の無力さに打ちのめされただけだ。











白哉が異変に気づき一護の元へと駆けつけた時、
既に一護の魂魄は失われ、現世にも尸魂界にも存在しておらず、
戦いがあったと思われる場所には虚がいた形跡が微かに残っているのみだった。


その時の白哉の驚愕と悔恨は底知れないものがある。


何故間に合わなかったのか!
何故一護の魂魄は戻ってこないのか!!
白哉とは思えないほどの狼狽に、もし第三者がその場にいたら
さぞ目を瞠ったことだろう。


白哉に出来ることといえば、一護の肉体を守りながら、
只々一護の名前を呼び続ける事だけだった。
それでも。
あまりの無力さに歯噛みしながらも、
絶対に一護を取り戻してみせるという決意だけは揺らぐ事が無かった。
白哉にとって一護は誰よりも何よりも大切なもの。
失うことなど考えられない存在。


一護の名を呼び続けて一昼夜。
その間、一瞬たりとも一護から目を離すことなく白哉は居た。
そして、永遠に続くかと思えるほどの時の中、不意に一護が目を開けた。
か細いながらも白哉の名を呼びながら。


あまりに突然の目覚めに驚きながらも、それは直ぐに歓喜へと変わる。
混乱しながらも一護の人格は何一つ損なわれていなかったのだから。


















「声が聞こえたんだ」

「声?」

「ああ。真っ白な生の無い世界で、唯一、白哉の声が・・・。声が聞こえたんだ」

「そうか」

「うん。あの声が聞こえなかったら、俺は多分戻って来られなかった・・・」

「いや、お前は必ず戻ってきたはずだ」

「・・・・」

「自分を疑うな」

「白哉・・・」

「一護」


何よりも大切な存在が自分の名を呼んでくれる。
こんな幸せなことがあるだろうか。
差し出される白哉の腕の中に一護は躊躇無く飛び込む。
その途端、息も出来ないほどの強い力で抱きしめられる。
白哉の胸に顔を埋めながら限りない安心感に包まれる。
失わずに済んだ・・・・。
この腕を。胸を。白哉を・・・。


込み上げる切なさに自然と涙が頬を伝い落ち、白哉の死覇装を濡らす。
抱きしめられるままだった一護が、
白哉の首に自らの両手を巻きつけ口付けをせがむ。
直ぐに応えた白哉の舌が絡められ、あっという間に深い口付けとなる。
白哉は、上半身を起こしていた一護を臥せっていた布団の上に押し倒し、
更に一護を貪る。
幾度も角度を変えて交わされる口付けに一護の口端からは
飲み込めなかった唾液が頬を伝い、枕元に染みを広げていく。


「びゃくっ・・・ふっ・・ぅぅあ・・・」

「一護っ」

「もっと・・・ぅふ・・もっと!」


苦しい息の中で一護が白哉に更に深い口付けをねだる。
一護の顔は、涙と唾液とでぐちゃぐちゃになり、呼吸も荒い。
それでも、白哉を求めることを止めることはない。


しかし、丸一昼夜魂魄が離脱していた一護にとって、
この行為はかなりの負担があったのだろう。
白哉の首に回っていた腕がぱたりと落ち、意識を失ってしまう。


泣きながら眠る子供のように安心した顔の一護を見ながら、
その額や頬、首筋へと口付けながら、白哉の顔にはやっと笑顔が浮かぶ。


戻ってきてくれた。


自分の居るところへ。


名前を呼んでくれた。


他の誰でもない自分の名前を。


何度でも呼ぼう。


一護が自分の元に戻ってくるのならば。














「一護、この世に生まれてきてくれたことを感謝する」


本来ならば昨日言うはずだった言葉。
現世で生きる一護の、昨日は誕生日。
その誕生日を祝うために訪れた現世で、魂魄の無い一護と遭遇した・・・。


二度と。
二度と、この言葉を言えないかもしれないと恐怖した。





今、この瞬間。


一護の存在に心からの感謝を・・・・・・。














END













一護お誕生日おめでとう☆駄文です;;;
ハッピーなものにしようと思ったのに、出来上がったものは
かなり微妙な内容に・・・・・(爆)
こんな筈ではなかったのにーーー(>_<)
何処をどう間違ってこんなものになってしまったのか・・・(謎)
すみません;;すみません;;;
ってこんなところで謝っても既に遅いよね・・・・。
こんな暗いバースデー話読んでしまった方、
本当に申し訳ないです!ごめんなさい。
いつになったらへたれから抜け出せるんだろうあたし・・・。

2005.7.21