僕達の居場所











突然降って来た通り雨に埃っぽかった空気が洗われ、
木々の葉はその艶を増し、光を受けてキラキラと輝いている。
初秋の瀞霊廷は暑くも無く寒くも無く快適な気候で、
そぞろ歩く者たちの気分も自然と軽くなってくる。


午後三時のこの時間帯は休憩時間に当てている死神も多く、
隊舎から出て思い思いの場所で憩っている姿をチラホラと見ることが出来た。
特に人気なのが円を描くように建てられている各隊舎の中心にある広場だ。
ここは所属隊に関係なく下級死神から席官まで誰でもが憩うことが出来る場所で、
常に何人かの死神が集う場所だった。





この日も急な雨にもかかわらず中庭は盛況で、あちらこちらで立ち話をしたり
おやつを食べたりしている死神たちの姿があった。
そんな、この上なく平和な空間に、一箇所だけ何故か奇妙に人気がなく
ぽっかりと空いた場所があった。
多くの死神たちから遠巻きにされている中心には、
目にも鮮やかなオレンジと真紅の髪を持つ死神が二人。
その内の一人は白い羽織を着用していることから隊長と知れるが、
普通隊長はこの広場には滅多に来ないものだ。
何故なら、隊員達の折角の息抜きが息抜きにならなくなってしまうから。


羽織に染め抜かれてる数字は『九』。
若くして隊長となった彼の人の名は黒崎一護。
ずば抜けた霊力の高さと戦闘能力で十一番隊の更木剣八と双璧と呼ばれる存在だった。
普段は眉間に皺を寄せて不機嫌そうな顔をしているが、実は面倒見がよく
笑うと子供のように無邪気な顔になる。
その落差に惹かれてか、彼の傍には常に誰かが居たし、
彼に憧れて死神になるものも数多くいるのは周知の事実だった。





隣に居るのは六番隊副隊長阿散井恋次。
かなり仲が良いのか他隊の隊長副隊長という組み合わせにもかかわらず
よく一緒にいる姿を見かけることが多かった。
遠巻きにした死神たちは、彼らがどんな難しい話をしているのかと興味津々だったが、
彼らの好意的な見解も空しいほど二人は下らない事を話していた。


「おい、一護!お前ンとこの副隊長をどうにかしろよ!」

「修兵がどうかしたのか?」

「どうしたもこうしたも、あの人ものすげぇ酒癖悪くて、毎回毎回酒の席で散々飲み捲くった挙句に俺の霊術院時代の話とかを大勢の前でペラペラペラペラ喋りやがるんだよ!!」

「別に良いじゃねぇかそんな事くらい」

「そんな事くらいだと?じゃあてめぇは自分の昔の話を人前でバラされて平気なのかよ!」

「うっ・・そ・それは・・まあ・・。嬉しくはないわな・・・」

「だろっ?そうだろっ?だったらお前から檜佐木さんにきつく言っといてくれよ」

「いや、俺が注意したってどうしようもねぇだろ、そんな事」

「お前あの人の上司だろ!だったら部下の言動や行動に責任持てよな!」

「そんなの知るか。第一、部下のプライベートまで俺の責任にされても困る。そんなに嫌なら一緒に飲まなきゃ良いじゃねぇか。」

「それこそ、俺の与り知らない所である事ない事言われたら堪ったもんじゃねぇだろうがっっ!!!」


本当に下らない会話だ・・・・。
これが、仮にも護廷十三隊を統括する隊長格二人の会話かと思うと脱力する。
知らぬが仏とはよく言ったものだ。
憧れは所詮憧れであって、真実を知ったときに幻想は崩れ去るものなのだろう。







恋次とのバカ話に付き合っていた一護が急に言葉を切り周りを見渡す。
自分の話を真剣に聞いてない一護に腹を立てた恋次が喚くが、
そんな事はどうでも良いとばかりにある一点を見つめて動かなくなる。
なんだよっと苛立ちながら恋次が一護の見つめる方向に目をやると
かなり離れたところにこちらに向かってくる人物が居るのに気付いた。
相手もこちらに気付いているのか、迷うことなく二人の居る場所目指して歩いてくる。


不意に横に居る一護をみた恋次は少し驚く。
いつでも不機嫌な顔をしている一護の表情が和らぎ、口元には淡い笑みが浮かんでいる。
知らないわけではないが稀に遭遇するこの状況に多少胸が痛む。
つい最近彼は人のものになり自分の思いが通じることはなくなった。
勿論一護はこの思いを知らない。
多分、自分のことは単なるケンカ友達ぐらいにしか思ってないのだろう。
それでも、一護の傍に居ることが出来る現状に安堵する。
告げることによって一護との関係が壊れるのが一番怖いから・・・。
自分らしくないと思いながらもどうすることも出来ない恋次だった。


「黒崎隊長。こちらにいらしたんですね。丁度良かった。今お伺いしようと思っていたところだったんです」


一直線に一護の前にやってきた人物は穏やかな口調と少し困ったような表情が特徴の
三番隊副隊長吉良イヅル、その人だった。
綺麗に恋次を無視して一護に話しかけるイヅルは、普段とは違う嬉しげな笑顔を浮かべている。
その人を見る一護もこれまた笑顔。
完璧に二人だけの世界に突入している。


「イヅルさん。何か用事だったのか?」

「はい。三番隊と九番隊で連携して虚捜索している地域での報告書に目を通して頂きたかったんです」

「ああ、あれか」

「はい」

「随分遅いからどうしたのかと思ってたんだけどギンはもうチェック済みなのか?」

「・・・・・いいえ」

「そっか・・・。相変わらず大変だな、イヅルさんも。ったく、ギンの奴今度あったら絞めてやる(怒)」

「黒崎隊長・・・。ありがとうございます」

「イヅルさん。黒崎隊長は止めくれって言ってるのに・・・・」

「隊長は隊長です。公の場でどこかの礼儀知らずみたいに名前で呼ぶことなんて出来ません」

「そりゃ俺のことかよ吉良」

「おや、居たんですか?阿散井君」

「おやっ?じゃねぇだろ!さっきから居たっつうの!」

「悪かったね。全然気づかなかったよ」


しれっとした表情で言い返すイヅルは先ほどまで一護に向けていたのとは全く違う、
人を食ったような笑みで恋次を見ている。
昔はこんなに皮肉な顔や言葉を発する奴じゃなかったのに。
やはりあの三番隊隊長市丸ギンの悪影響なんだろうか。
それとも俺の気持ちに気付いていて牽制しているのだろうか。
どちらにしてもムカつくことに変わりはない。
なんで一護の奴はこんな底意地の悪そうな奴に惚れたんだ!
恋次の葛藤も知らぬ気に二人は再びにこやかに会話を交わしていた。


「じゃあな、恋次。俺仕事が出来たんでもう行くわ」

「失礼するよ。阿散井君」

「えっ、お・・おいっ・・」


一人でグルグル回っていた恋次に突然二人そろって別れの言葉が告げられる。
引き止めるまもなく去っていく二人に為すすべもなく立ち尽くす恋次。
哀れだ。
密かに見守っていた死神たちがそんな恋次の様子に首をかしげていたが
決して近寄ろうとはしなかった。
何となく本能が働いたのかもしれない。
触らぬ神に祟りなしと・・・。













「イヅルさん。俺の執務室に来てくれよ」

「はい。丁度伺うところだったのでそう言って頂けると助かります。途中ですれ違いにならなくて良かったです」


九番隊の隊首室に向かう道すがら、
あたりに人気がないのを確認しながら一護がイヅルに話しかける。


「あのさ・・・」

「何ですか?」

「あの・・。そのな・・。」

「はい?どうしました?」

「うん。・・・誰も居ない時は敬語使わないで欲しいんだ・・・。それと、隊長じゃなくて名前を呼んで欲しいんだけ・・ど」


赤い顔をして段々と語尾を小さくしながら話す一護が妙に可愛い。
これで本当に護廷十三隊の隊長なのだろうかと目を疑うほどだ。


「そうだったね。一護君」


答えながら、想い人の可愛らしい要求にイヅルの胸は躍る。
彼を手に入れられたのは本当に奇跡だ。
何故なら、彼の周囲には彼に思いを寄せる者が数多くいたから。
しかも他隊の隊長格がかなり沢山名乗りを挙げていたのだ。




















一護と初めて会ったのは五年前。
不機嫌そうに眉間に皺を寄せて睨んでるかのような眼差しに怯んだ自分が今となっては可笑しくてたまらない。
あの皺がほぐれ、下がり気味の目尻が更に下がって口元に笑みが広がる時。
その表情がどんなに劇的に変わるか。
一度でも目にしたら忘れられなくなるその笑顔。
思いかけず目にしたその表情が脳裏に焼きつき離れなくなった。


彼への想いを自覚するのに時間は掛からなかった。
それでも、隊の違う彼とは自分の性格上積極的に交流を深める事も出来ずに、
ただ、出会うと挨拶をし、時々立ち止まっては短い言葉を交わすだけの日々が続いていた。
それから二年。
彼は異例の速さで九番隊隊長となった。
自分を追い越し自分の手の届かない存在となった一護に、自らの気持ちを封印し諦めようとした。
そんな自分へ一護が告白してくれたのは半年前。


信じられなかった。
自分の耳を疑った。
恥ずかしくて堪らないという表情で俯きがちに言葉を紡ぐ一護を見ても
自分に都合の良い夢を見ているのではないかと我が目を疑った。


「イヅルさん・・俺、イヅルさんが好きだっ・・・」

「!!!!!」

「イヅルさん・・・?」


あまりの衝撃に口も聞けず一護を凝視しているだけのイヅルに、不安を覚えた一護が問いかけるように名を呼ぶ。
ようやく現実の出来事だと理解したイヅルが決意したように口を開いた。


「黒崎隊長。僕も貴方の事が好きです」

「ホントか?」

「本当です。僕から言えなかった事を貴方に言わせてしまってすみません」

「そんなのっ・・・」

「黒崎隊長っ・・・。ありがとうございます」


深く頭を垂れ、謝罪しながら、一護にこんな事を言わせてしまったという後悔に
唇を噛みこぶしを握り締めていたイヅルが、ふと一護に視線を戻すと、
そこには泣きそうに潤んだ瞳をした一護が居た。
イヅルは焦る。何か傷つけるようなことをしただろうか。
そんな一護の口から出てきた言葉は更にイヅルを驚かせた。


「黒崎隊長って言わないで欲しい・・・」

「・・・・?」

「俺が隊長になってから、イヅルさんは滅多に俺と話してくれなくなった・・。
前はもっと一緒に居られたのに。それが凄く嫌だったんだ」


一護が隊長になって以来疎遠になっていたのは事実だ。
でも、その事で寂しく思い辛く感じていたのは自分だけではなかった。
一護も自分同様に、いや、それ以上に悲しかったのかもしれない。
好きな人にそんな思いをさせた自分が情けない。
立場なんか気にせず、駄目で元々と意を決して告白すべきだったのだ。
そうしたらもっと早くお互いの気持ちを確かめ合えたし、一護にこんな表情をさせることも無かった。


「黒崎君・・・。ごめんね。僕に勇気が無かったばかりに君に辛い思いをさせてしまって。
君はあっという間に隊長になってしまって、僕を追い越してしまった。
そんな自分が不甲斐無かったし、君の周りには僕なんかよりももっと素晴らしい方が沢山居て、僕なんかの出る幕はないと思ってしまったんだ」

「イヅルさん・・・」

「そんな独りよがりな思い込みで返って君を傷つけてしまった。許して欲しい」

「そんな事ない!俺だってもっと早く言えばよかったんだ。でも・・なかなか言い出せなくて・・」

「じゃあ、お互い様って事で痛み分けにしようか?」

「そうだな。そうしよう」


ぱっと顔を上げて嬉しそうに笑う一護が同意する。
ようやく笑顔が戻った一護にイヅルの心は温かくなる。
彼が自分と同じ気持ちでいてくれたことが本当に嬉しい。
彼の差し出してくれた手を放すことなんて考えられない。
諦めようとしていた自分が信じられないほど、彼に対する独占欲が湧いてくる。


誰がなんと言おうと自分の彼に対する気持ちを揺るがすことは出来ない。
何故ならそれは彼を傷つけることになるから。
彼の気持ちを疑うことも絶対にしない。
何故なら彼を悲しませ不安にさせるから。
どんなに困難でも貫こう。
今のこの決意を。












END












毛玉GG様より頂きました親子白一のお礼イヅ一です。
・・・・がっ!やはりというか何というか・・・・纏まりない話に;;;
しかもイヅル×一護←恋次みたいになっちゃった(汗)
なんで前半こんなに恋次が出張っちゃったのか自分でも不思議(バカです・・・)

一護が九番隊隊長なのは、あたしの中で東仙隊長の存在意義がもの凄く薄いからです。
(↑ファンの方には申し訳ありません;;;;)

毛玉さま、素晴らしき頂き物のお礼です。
宜しければ貰ってやってくださいませ。
少しでも気に入って頂けるところがあれば良いのですが(苦笑)

2005.8.24