時空の森













 鬱蒼とした木々が生い茂る緑豊かな森。人が住む遙か以前からそこに存在している大きくて広い森。小鳥や小動物、数多くの昆虫が生息するごく普通の森。
だが、何処にでもありそうなこの森の近くに点在する村や住人達に常に畏怖の念を抱かせる森でもあった。

【時知らずの森】

 遙か昔からそう呼ばれているこの森には、親から子へ、子から孫へと代々言い伝えられている恐ろしい伝説があった。
それは――。
『【時知らずの森】にはどんな理由があろうとも絶対に入ってはいけない。もし深い森に踏み込んでしまったら、二度と戻ってくることは出来ない。脅しではない。実際にあの森に迷い込んで戻ってきた者はいないんだよ。それに、あの森からは動物や小鳥の声はよく聞こえるが、森から出てくる姿は殆ど見ることがない。恐らく、動物達はあの森から出ることが出来ないんだ。封じ込められているのだよ』

 物心が付く前からそう言い聞かせられて育った子供達は、大人達の真剣な様子に真実の臭いを嗅ぎ取り、森に近寄る者は殆どいなかった。
それでも、数年に一度、子供らしい好奇心からなのだろうか、数人の子供達が森に足を踏み入れ、そのまま帰ってこないという行方不明事件が発生したり、森の伝説を知らない他所の土地から来た旅人が森に入り、人知れず消息を絶ったりという事件は引きも切らずに頻発していた。

そして、【時知らずの森】へと足を踏み入れた若者がまた一人――。


 木漏れ日に輝いていた森に、一瞬だが濃い影が差して、視界が悪くなった時のことである。
「見失ったか。仕方がない。一旦森から出て周辺道路を封鎖するぞ。ハボック少尉」
彼が言葉の端に悔しさを滲ませながら振り向いた先には、『ハボック少尉』と、呼掛けた人物は疎か、一緒に行動していたはずの部下達が一人も見当たらなかった。
 彼は、いつの間にかはぐれてしまったのだろうと思い辺りを探してみたが、先程の場所から半径二百メートル以内のどこにも人の気配は無かった。
 一体何処に行ったというのだ?声を掛ける数秒前までは確実に居たというのに・・・。思い掛けない事態に、彼は暫し呆然とその場に立ち尽くした。








 「エルリック少将、怪しげな風体の五人組が村外れの農家から馬車を奪って逃走したとの通報が入りました。指示をお願いします」
「なんだそりゃ?」
 エルリック少将と呼ばれた人物は、何ともあやふやで頼りのない報告に思わず頭を抱えそうになる。自分はここにちょっと用があって立ち寄っただけで、彼らを指揮する立場には無いはずなのだが。
 アメストリス東部の外れにある憲兵駐屯地で、ある事件の資料を探していたのは、エドワード・エルリック少将とその部下であるジャン・ハボック少尉、リザ・ホークアイ中尉の三人だった。
そのエルリック少将の元に先の情報が寄せられたのは、ある秋の日の午後の事であり、資料室とは名ばかりの狭い部屋に、分類もされずに雑然と積まれた資料の中から、部下共々かれこれ二時間近くも目的の書類を躍起になって探していた矢先のことでもあった。





<中略>





 「この調子なら後一時間くらいで街に着くぜ。そうしたら計画通りに乗り込むからな」
「分かったぜ。準備はばっちりだ。なあ野郎共!」
「「「おおっ!」」」
 農家から奪った馬車に乗り込んだ五人組は、意気揚々と雄叫びをあげていた。





<中略>





 間違いなく来た道を戻ったはずなのに、何故か入ってきた時とは微妙に異なる景色が目の前に広がっていた。何処が違うのかと問われれば、此所が違うとはっきりと答えることは出来ないのだが、やはりどこかが違うのだった。  
 そして、可能性は低いと思っていたが、やはり部下達が先に戻った様子は微塵もなく、その痕跡すら見付けることは出来なかった。一体どういう事なのだろう?
疑問は尽きないが、いつまでもこの森の中を彷徨っていても仕方がない。
ある方向に視線を定めた後、彼はゆっくりと歩き始めた。
見覚えのない景色の中、彼は、どこへ行こうというのだろうか。




 “パンッ“という小さな音と共に青い閃光が奔り、みるみる内に街道を塞ぐ壁が聳え立ったのは、憲兵駐屯地から五十メートル地点にまで馬車が迫って来た時だった。





<中略>





 エドワードが自分の作った壁を元の街道へと戻した時だった。
「鋼の?」
と、言う声がしたのは。


 「あん?」
 何となく聞き覚えのある声にエドワードが振り向くと、そこにはよく見知った人物が、何故か呆然とした顔つきで突っ立っていた。
「あれ?こんな所で何やってんだ?ロイ」







<コメント>

5日現在、原稿が終わってません・・・(>_<)
もしかしたら前後編に分けての販売になってしまうかもしれない危機です;;;
何とか頑張りますが、ちと厳しいです・・・。
さて、今回の内容ですが、エドワード将軍シリーズをベースにしたパラレルワールドトリップ(?)話です。
なんだそりゃって感じですが、興味を持たれましたら是非お手にとって見て下さい☆
8月11日(土)東地区J-18aスペースでお待ちしていますv