〜 Fool's Love〜














車窓から見える空は晴れ渡り、雲一つ無くどこまでも青く広い。
そんな、いつまでも眺めていたくなるような美しい空の光景とは反対に、地上に広がるのは見渡す限りの岩。
美しく、見る者の目を和ませる空の景色とは対極に、ほんの少しの緑も見えず、一片の生命すら存在してないかのような、その不毛の大地は見る者の気力を奪う。
だが、一見死の景色に見える岩山にも、涼しい風が吹き、雨が降り、綺麗な水が流れている。そこには驚くほど多くの小さな命が育まれている。
この世界には、人の目に見えなくても存在するモノは、確かにある。
どんなに否定しようとも変わらない、それは、普遍の真理である。










「今回の情報も間違いだったね、兄さん」

「そうだな」

「次の情報も探さなきゃいけないし、一旦中央司令部に戻ろうか」

「・・・・・・・・・そう・・・だ、な」

「どうしたの?何か気が乗らなそうだけど」

「・・・別に」

「別に、って感じじゃないけど」

「何でもないって!セントラルだろ。面倒くせぇけどバカ大佐に報告しなきゃまた文句言われるしな、行こうぜっ」

「誤魔化しても駄目だよ、兄さん。もしかして、この間報告に行った時に、また大佐と何か喧嘩でもしたの?」

「――何もねえよっ」

「何かあったんだね・・・」

「―――」

「もう。何があったのか知らないけど、ちゃんと仲直りしなよね」

「何もないって言ってるだろっ!」

「もう。仕方ないなぁ兄さんは」






荒涼とした風景を見ながら交わされる兄弟の会話は、緊張感があるようでどこか温かく、恐らくこの二人はとても仲がよいのだろうなと感じさせるものだった。
そして、その姿からは想像も出来ないような、まるで立場が入れ替わったかのように聞こえる会話に、周囲の乗客達は笑いを誘われていた。


『兄さん』と呼ばれていることから、この幼げな少年が兄なのだろうとは思う。
思うのだが、この少年が兄だとは到底信じられない。少年は、金色の髪に金色の瞳。聡明さと意志の強うそうな瞳には力があり、長い金髪は三つ編みにされて背中へと流れている。金髪が流れる小柄な体に纏っているのは、フラメルの十字架を描いた真っ赤なコート。
不機嫌そうに顰めた顔をしていても、造形の整った美しい少年であることは疑いようもなく、彼は列車の中でも恐ろしく目立っていた。






<中略>






信じられるのは自分だけ。
否。自分自身が一番信じられない。
自分の信じた浅はかな理念に弟を巻込み、その結果、大罪を犯してしまったから。
だから、本当に信じられるのはたったの三人。
弟と、幼馴染みの少女と、本当の孫のように育ててくれた少女の祖母だけ。


そう思いこんでいる彼の世界はとても小さい。
四年前から時を止めた彼の世界。
再び時を刻み始めるのは何時のことだろう。






<中略>





広大な敷地に建てられた巨大な建造物の数々は、その圧倒的な存在感と、何者をも寄せ付けない威圧感がある。
一般人なら近寄ることすら困難なその場所は、セントラル中央司令部。
アメストリスという軍事国家の中枢も中枢。
国家権力の担い手である大総統が鎮座する場所でもある。
大きく取られた門扉の左右には歩哨が立ち、ゲート全体を巡回している兵士の数も、各地方司令部とは比較にもならない程多い。
軍人以外の人間が入るためには、例外なく身分証の提示とセキュリティチェックが施され、不審物などの持ち込みは一切出来ないようになっている。正にネズミ一匹漏らさない万全の警備体制である。


そんな、一般人ならあまり近付こうともしない場所に、先程から怪しい二人組が突っ立っていた。
一人は金髪金眼に真っ赤なコート。十歳くらいの少年で、もう一人は全身を鋼の鎧で覆った大きな人物だった。
この二人が中央司令部の門前に現れてから、かれこれ十分以上は経過していたが、特に何をするでもない様子に、警備に当たっている軍人達は静観を決め込んでいた。
だが、流石にこれ以上は放置できないと判断するのも時間の問題だろう。





「ねえ、兄さん。いい加減中に入ったら?」

「・・・・・・」

「さっきから軍人さん達がチラチラと僕たちのこと見てるよ。早くしないと不審者として拘束されちゃうよ」

「・・・・・・」

「大佐が中央司令部に異動になってから、僕たちがここに来るのは二回目だからさ、東方司令部の時みたいに僕たちのこと知らない人ばかりなんだよ。分かってる?」

「・・・分かってるよ」

「本当に?」

「ああ」


今までじっとしていた不審者達が俄に会話を始めたことで、軍人達の緊張感が一気に増した。
何か行動を起こすのだろうか。
子供連れ(?)とはいえ、そろそろ静観するのも限界だろう。
徐ろに、巡回に当たっていた軍人達が、機敏な動きで彼ら二人に近付き始めた。


「兄さん!」

「動くなっ!」


何度促しても動こうとしない兄にしびれを切らし、とうとう大きな声を出したとき、近付いてきた軍人達が二人の行動を妨げた。
二人の軍人正面からライフルを突きつけられて生きた心地がしない。


「少しでも動けば発砲する。そのまま手を上に挙げろ」

「あの、僕たち何も・・・」

「口を開くな!質問はこちらからする」

「エドワード・エルリック。鋼の錬金術師だ」

「口を開くなと言ってるっ・・・・何っ?」


思わぬ事を聞いた軍人が、お互いに顔を見合わせて困惑した表情を作る。
今聞いたことが直ぐに飲み込めない。そんな驚愕を込めたまま、一人の軍人が聞き直した。


「今何と言った?」

「エドワード・エルリック。国家錬金術師」


小柄な少年の口から飛び出した言葉と、その手に示された、大総統紋章に六芒星を象った銀時計に目を見張る。
それは、紛う方無き国家錬金術師の証。









<コメント>

ホムンクルスが出てこないとか、ロイの中央異動が早いとか、所々変更はありますが、
ほぼ原作に沿ったロイエド話を書いてみましたv
何だかロイが少しだけ男前です(エルリック将軍シリーズに比較してですが;;;)
逆にエドがちょっとばかし根暗かも・・・・(汗)

もし、少しでも続きが気になるよーっていう奇特な方がいらしたら、8月14日(金)西館い25-b 
スペースでお待ちしてますので遊びにいらして下さいv ← 一日目参加の上、銀魂スペースですが・・・;;;